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山頂の池

 フォーゲルの山頂には大きな池がある。

 雨や雪解け水などが溜まり池となり、その池から溢れるように川が流れている。

 その池の水は飲み水に出来るほど綺麗ではないがとても冷たく、山登りで火照った身体を冷やす分には有り難かった。

 俺はタオルを池で濡らして、へばっているリアナへ近づいた。


「ほら、濡れタオルだ」

「ありがとうございます……」


 濡れタオルを受け取ろうとするリアナの手を無視して、リアナの顔を拭いた。


「ん……自分で拭けますからっ」

「いや、いいよ。拭いてあげる」

「でも…」

「いいからいいから」


 そう言いながら濡れタオルを持った俺の手はだんだんとリアナの身体をなぞるように下へ動いていった。

 顔から首へ、次に鎖骨まわり。そこまで拭いていった。


「リアナ、そろそろ服が邪魔になってきたから脱いで」

「嫌です」


 即答で断わられた。


「なんでよ」

「こんなところで服を脱いで誰かに見られたら恥ずかしいじゃないですか」

「いや、誰もいないだろ。こんなところに」

「いないって言いきれる証拠は?」

「証拠も何もこんなところに普通人なんていねぇだろ」

「いるかも知れませんか!山賊とか!」

「山賊なんかがいたら、休憩中の女二人なんて絶好のかも、すぐに襲うに決まってんだろ」

「油断しているところを狙ってるとか!」

「片方がもう片方の身体を拭いているこの状況を油断していない、なんて判断する山賊がいるとでも?」

「見る人によっては如何わしいと思う私達のこの状況を見て楽しんでいるとか!」

「確かに当事者の俺達も楽しんでいるしな」

「私は楽しんでなんかいません…とても恥ずかしいし」

「でも、この状況を見て楽しめるのはロクでもねぇ奴だけだろ」

「山賊なんかやっている人たちにロクな人なんているんですか?」


 そりゃそうか。


「ほらでも、仕方なく山賊やっている人とかいるかもしれないじゃん?」

「かもしれませんが…」

「でしょ?両親を亡くして、頼る親戚もいない子供が生きるために行商人を襲って山賊になっちゃったりするんだよ」

「……戦争をしていますからね。戦地の近くに住んでいる人達が戦争によって家を失い、こちらに流れ着いて山賊になったりしてしまうのですね…」

「可哀想だろ?」

「ええ、可哀想です」

「じゃあその可哀想な人達のためにも……」

「でも、その人達に私達がサービスシーンを見せる必要はありません」

「ちっ」

「あ、舌打ちした」


 話の流れ的に行けると思ったのに……。


「まぁまぁ、とりあえず服脱ごうね」

「だから嫌です」

「大丈夫だって。こんなところに人なんていないし、いたとしても人としてのマナーを守って見て見ぬ振りをしてくれるはずさ」

「こんなところで人に服を脱げと迫る人に人としてのマナー云々言われたくないと思いますけど」

「そこは気にしないで」

「それに人としてのマナーを持っている人でも、実際にそういう現場に出会したら見てしまうと思いますよ?」

「そうかな?例えばロストドライブの道中でこんな事しても……」

「歩行者全員ガン見かと」

「……ですよねぇ〜」

「こんな事くらい言葉にする前に気付きませんか?普通」

「うっ……」


 確かにそうだが…。だが、リアナの服を脱がす事は諦めない!

 何故なら……俺はリアナの裸を見た事が無いからだ。

 一緒に寝たりして、リアナの柔らかさを感じた時はある。しかしリアナの裸を見た事が一度もない。

 ネグリジェ姿(生地が無駄に薄い)なら見たが、どうせなら裸が見たいだろ!俺だって男だもの!見た目は女でも!

 だから俺は諦めない!


「なぁリアナ」

「今度はなんですの?服は脱ぎませんよ」


 心底呆れたリアナの視線が痛いが、ここは我慢だ。


「話を戻すけどね」

「…そういえば」

「?」


 リアナが何かを思い出したようだ。何だろ?


「ティファ」

「なに?」

「先程貴女……」


 先程?俺なんかしたかな?

 ってあれ?リアナが凄く笑顔なのだけど……。


「俺、リアナが喜ぶような事言った?」

「ええ!とても嬉しい事を言ってくれました!」

「へぇー…なんて言ったの?」

「それは…」

「それは…?」


 まじまじと見つめ合う俺達。

 そして…リアナが口を開いて言った。


「私達を女二人と言いましたー!!」

「………………は?」


 女二人?いつ言ったっけ、そんな事。

 ……ああ、そういえばこの会話の始めのほうで言ったなそんなセリフ。でも……。


「なんでそんなセリフで喜んでいるんだ?」

「だって女二人って……ティファもやっと自分を女として認めた事ですよね」


 え?自分を女として認める?


「俺としては女になった日から自分を女として認めていたつもりだけど…」

「だってティファは王宮では一度も女として行動してないですか!」

「へ?」


 女としての行動ってなに?

 俺の疑問に答えるようにリアナが王宮での俺の態度に対する不満を言った。


「ティファはトイレに行く時男子トイレと女子トイレ、どちらに行きました?」

「男子トイレ」

「まずその姿で男子トイレに入って驚かれなかったのですか?」

「出来るだけ人がいないトイレに行くようにしてたから、他の人と一緒にトイレに入る事は無かったな」


 王宮広いからトイレ多いし、そういう所だと大体滅多に使われないトイレがあるからな。


「では、ティファはお風呂に入る時男湯と女湯、どちらに入りましたか?

「風呂は大浴場には行かず、部屋に付いているシャワーで済ませていたし。その事は同じ部屋で生活してたリアナは知ってるだろ?」

「知っていますけど、改めて確認させて頂きました」

「はぁ……?」


 何のため?


「他にもいろいろありますが、とりあえず今挙げた点を見てみて、女として行動していた思いますか?」

「………………思いません」

「でしょう!?しかしティファは先程、自分を女として数えました」

「いやそれは客観的に見て言っただけで…」


 そんな俺の言葉を無視してリアナは言いまくる。


「つまりこれは、これからはしっかりと女としての人生を歩むための宣言と私は受け取りました」

「微妙に歪んだ受け取り方はおやめください」

「なんと!?超人【死神(デスサイズ)】ラスティともあろう者が己の言葉に責任を持たないと!?」

「あのセリフって責任云々言うほど重い言葉だった!?」


 そこまで重く受け止められるとは……迂闊な事したなぁ……。

 仕方ない。適当に流すか。


「とにかく!これからはしっかりと女として生きてくださいませ」

「ハイハイ。わかりましたよ」

「ではユアランの宿屋に大浴場があれば一緒に女湯に入りましょうね」

「ハイハイ。わかりまし…た……よ…?」


 あれ?今リアナなんて言った?


「ごめんリアナ。もう一回さっきのセリフ言って」

「ですから、ユアランの宿屋に大浴場があれば一緒に女湯に入りましょうねと言ったのです」


 一緒に……風呂に入る………?

 それってつまり……リアナの裸を見られる?


「マ、マジ!?」

「え?ええ、マジでございます」

「喜んでご一緒させて頂います!!」

「本当ですか!」

「本当です!」


 やったぞ!!!!これで俺の目標は達成されたのも同然だ。

 後はゆっくり休もう。


「じゃあもう少し休んでからユアランに向かうか」

「はい」


 そうして俺達はフォーゲルの山頂で休んだ。

 ……池からくる視線に気付かずに………。

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