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フィーカスのショートショートストーリー

天使と悪魔、計四匹!

作者: フィーカス

 今日もたくさん怒られた。会社には仕事をしに行ったというより、怒られに行ったと言っても過言ではないだろう。

 入社してもう四年目。後輩を指導していく立場にあるのに、いまだに入社一年目で行うような仕事すらまともにできていない。

 むしろ、社会人として未熟だと言ったほうがいいだろうか。

 ミスをして怒られるのは仕方ないとして、報告、連絡、相談、よくいう「ほうれんそう」ができてないことで怒られることが多い。

 全然やってないことはないのだが、どうもそういうのが苦手なようで、ちょくちょく抜けて迷惑をかけている。

 しかも、他の人への配慮も足りないとよく言われる。確かに、自分勝手な判断で人を巻き込むことが多く、結果仕事が遅くなったり、他の人へ迷惑をかけてしまったりしている。

 完全に、社会人失格である。


 そんなできの悪い自分は、何か大きなことをやらかすたびに、もうやめてしまおうか、自分がいないほうがいいのだろうか、という気持ちになる。

 が、今日まで仕事を続けてきたのは、上司の言葉が心にしみているからだ。

「とにかく一つなにかやっていこう」「自分を変えていこう」。そういわれるたびに、もう一度頑張ってみようと思った。

 しかし、結局のところ、その上司の金言もほとんどスルーし続け、指示されたことすらも忘れてしまう始末。他の部署からの評価もどんどん落ちていった。

 今回も、いつものように仕事をやめたほうがいいのだろうかと悩んでいるところだ。しかし、今回は今までとは少し違う。

 今までであれば、ただ単にやめようかどうか悩んでいたところだが、今回はやめた後のことも考えてある。

 小説を書くことだ。

 今まで趣味程度にちびちび書いていただけだったが、それでも一つの目標を持っていた。

 自分の人生の中で、一冊自分の書いた本を出すこと。それが人生の目標だ。

 昔は本を出すなど、よほど文才に優れた人でなければ無理だと思われていたが、今では出版するだけなら誰でもできる状態だ。

 ただ、才能が無ければお金を支払って本を出版することとなる。いわゆる、自費出版だ。

 もちろん自費出版からブレイクすることもあるのだが、そのようなサクセスストーリーに乗れるのはほんの一握り、いやひとつまみかもしれない。

 本を出すだけなら、働きながらでもできるかもしれない。しかし、正直仕事の後は疲れて書く気力がなくなっているし、休みの日は他のことをやっていてなかなか書く時間が取れない。

 何とか時間を確保すること。小説に集中するには、仕事をやめるのが手っ取り早い。


 とはいえ、自分にも生活がある。仕事がなくなれば、もちろん収入がなくなる。

 となると、アルバイトをしながら、ということになるか。しかし、アパートを借りてアルバイトだけで生活が成り立つだろうか。

 後は、実家に住んで活動する方法もあるのだが、両親ももう数年後には還暦になってしまう。そんな親に、あまり負担はかけられない。

 さらに、自分はあまり集中力がないため、小説に飽きるとそのままフリーターやニートになってしまう可能性もある。そうなると、親に負担をかけるどころの話ではない。

 さて、一体どうすればいいのか……


「ダメよ、せっかく就職したんだから、仕事をやめるのは絶対ダメ!」

 ああ、出た出た。悩んだときや甘い誘惑に釣られそうになったときにでてくる、いわゆる天使と悪魔の天使のほうだ。

 この天使という奴は、客観的に見て正しいと思われることをささやいてくる。甘い誘惑につられそうなときはそちらに行かないように、迷ったときにはより厳しいけれど自分のためになる選択肢を選んでささやく。

「そうそう、仕事やめるのはダメだぜ。散々怒られても一応は食っていけるんだ。上司の苦言なんかスルーして、現行に甘えていればいいのさ」

 今度は悪魔のほうか。こいつは甘い誘惑をぐいぐい進めてきたり、より楽な選択肢を選んでささやいてくる。

 お二方がそろうと、脳内でバトルとなる。

「上司の言うことはちゃんと聞かないと。それが自分のためだって、分かってるでしょ? 上司もまだ見限っているわけじゃないんだから、もう一回がんばろうよ!」

 大体はこの天使のほうに耳を傾ける。ダメになりそうな自分を、もう一回奮い立たせようと。

「がんばった結果がこれだぜ? もう何回同じことやってるんだよ。上司も先輩ももう諦めてるって。とりあえずリストラされるまでは適当にやっていこうぜ」

 で、結果、悪魔の主張の通りになってしまう。周りから見ればダメな方向に進んでしまい、また失敗したり、怒られたりするのだ。

「まだがんばれるわよ! 何のために朝早く起きてるの? 後は足りない部分をきちんとすればいいのよ」

「足りない部分が多すぎるんだよ。それはもう諦めようぜ。とにかく怒られてもあんまりくよくよせずに、次の日にはスッパリ忘れればいいのさ」

「上司の言うことを忘れる? それはありえないでしょ。きちんと上司の言うことを聞いていれば、ちゃんとできるって」

「さてどうかね。今までのらりくらりとやってきたじゃんか。とりあえず今までどおりやっていけばいいのさ」

 また同じ言い争いだ。普段なら天使側の主張により、「もう一度頑張る」選択をするのだが、今回ばかりはそうは行かない。

 

「ちょっと、やりたいことがあるんでしょ? だったら、きちんとけじめをつけて、やりたいことの準備をしなきゃ!」

 おや、天使だと思ったら、少し様子が違うのが出てきたようだ。

「やりたいことって何よ? 結局きちんと仕事ができてからじゃないとそういうこともできないでしょ? きちんと仕事をしていれば、やりたいことだってできるようになるんだから」

「そうそう、どうせやりたいことったって、大したことできねぇんだ。なら、とりあえず仕事は確保しておいたほうがいいんじゃないの?」

 新たに現れた天使に対し、最初からいた天使――天使Aとしよう。天使Aと悪魔は仕事プッシュを始める。

「だから、今の仕事があってないのよ。今の状態でだらだら過ごしたって、自分のためにならないわ。まずは仕事をすぱっとやめて、小説に専念するのよ!」

「はっはっは、収入なしでどうやって生きていくんだよ。小説くらい、だらだらしながらだって書けるだろ?」

「そのだらだらがよくないんだって。しっかり時間が取れれば、ちゃんとしたものができるんだから」

「さてね、休日でも結局だらだらしているじゃないか」

 たしかに小説を書くのは楽しいが、休日はどうもだらだらしていることが多い。集中するときは結構書くことができるのだが、そういう機会も少なかったりする。

「ハッ、仕事うまくいってねーし、どうせやりたいこととか言って続かないんだろ? もう仕事やめて実家で親のすねかじっちゃえよ」

 おっと、さっきまでの悪魔かと思ったら別の悪魔までやってきた。とりあえず最初からいた悪魔を悪魔A、さっきの悪魔を悪魔Bとしておこう。

「おいおい、やりたいことが続かないなら、なおさら仕事を手放すことはないだろ。仕事がありゃ、だらだらしてても収入はあるんだからよ」

「だからその仕事が辛いんだろ? だったらやめたほうが体にはいいって」

 悪魔Aと悪魔Bの争いが始まった。結局収入を得ながらだらだらするのか、仕事をやめてだらだらするのかの選択肢になっているようだ。

「な、何を言い出すのよ! 仕事をやめてまでやりたいことなんだから、ちゃんとやるに決まってるでしょ!」

「みんな続かないことは分かってるのよ。だったら今の仕事をきちんとやり遂げるべきだわ!」

 こっちでは天使Aと天使Bの言い争いか。こっちは小説が続くか続かないかの話らしい。


「わかってないなぁ、まず仕事がうまく行ってないからやめようか考えている。これが大前提だろ? で、小説は恐らく続かない。ってことは、実家で親のすねをかじるしかないじゃないか」

「うまく行ってるか行ってないかは関係ないのさ。仕事さえあれば生活はしていけるんだから」

「とにかくやりたいことをやるなら仕事を続けること! ちゃんとやっていれば、いつかやりたいこともうまくいくんだから」

「その時間がないから仕事をやめるんでしょ? 時間が無ければだらだらなって自分のためにならないんだって!」


 二匹の天使と二匹の悪魔が言い争う。

 だめだ、このままでは結論は出ない。

 とりあえず、明日から長期休暇に入るので、両親に相談しよう。



 実家から会社までは随分と離れているため、今はアパートを借りて住んでいる。

 夏の長期休暇に入り、新幹線で実家へと向かった。

 その間も計四匹の悪魔と天使は言い争っている。

 結局のところ、この問題は両親も絡むことになる。とにかく、親に仕事をやめたい旨を伝えよう。


 新幹線と電車を乗りついでおよそ三時間、一年ぶりくらいに実家に戻ってきた。

 家に入ると、久々に息子が帰ってくるとあってか、既に両親が豪勢な食事を整えて待っていた。

「ただいま」

「おかえり。とりあえずお茶でも飲みなよ」

 ひとまず荷物を置くと、母親が入れてくれたお茶をすする。それから、料理を勧められたので、それに箸をつける。

 決して料理上手とはいえないが、久々に食べた手料理は懐かしい味がした。ただ、半分くらいはお惣菜だったのが残念だが。

「それで、話っていうのは?」

 父親が切り出した。実家に向かう前に、あらかじめ話があるからというのは連絡済である。

「うん、最近仕事がうまく行って無くてね、会社の人にはずっと迷惑をかけてるから、仕事をやめようと思ってるんだけど……」

 仕事をやめる、ということに両親は驚いていたが、すこしすると父親が口を開いた。

「そうか、仕事をやめたいのか。じゃあ、うちの家業を継ぎなさい」



 こうして結局、仕事をやめて家業を継ぐことになった。小説を書いて本を出す夢は一体どこに行ったのだろう。

ちょっと今、似たような状況になっているということでふと思い浮かんだものです。

私の実家は自営業とかじゃないんで、家業を継ぐと言うのはないのですが、実際相談したら何て言われるんでしょうねぇ。

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