誤解召喚・2
※今までと雰囲気が変わり、なんとなくシリアスな感じになっておりますので、苦手は方は注意して下さい。
多分、誤解召喚でシリアス?な話しはこれだけになると思います。
パラパラと集まった情報を見ながら、俺はふぅ、と溜息をついた。情報は集まった。十分すぎる程集まった。
何処で姿を消したか、まで把握した。
が、肝心の行き先が分からない。
仙道──リョウの言う所の占い部員だ──が最後にリョウと会ったが、その時視えたモノは穴に落ちるという事だけ。行き先までは分からない。
「…ナオ」
「はいはーい」
いつもと変わらない表情でナオが立ち上がる。俺の言いたい事がわかったんだろう。何処に落ちたか分からないなら、そこに行って道を広げればいい。
運がいい事に、俺たちには数ヶ月前に手に入れた魔法の力がある。この世界でも魔法の力は有効で、昨日開いたばかりの道を手繰る事は容易い。俺は珍しく鞄を肩にかけ、そこにリョウに渡す食料をこれでもかという程詰め込む。
リョウが楽しみにしていた牛丼は帰ったら存分に食べさせよう。
きっと、不自由な思いをしているはずだ。
「なぁ…ヒコー。俺が切れそうになったらさー、ちゃんと止めてなー」
「それは俺の台詞だ」
俺たちのいない所でリョウを勝手に召喚した輩。
手厚く保護をしていればいいが、もし、手厚く保護していなければどうなるかは……。
「うわ。悪い顔」
「お前もな」
唇の端をくいっとあげ、笑みを形作ればナオからそんな言葉を投げかけられる。俺から見れば、お前も十分悪役面だ。
普段は何が楽しいのかにこにこと表情を弓形に形作っているが、それが基本になっているだけだろう。
「他に準備するものは…って、マナのその荷物は何かなー」
ナオの疑問の通り、マナの持っている細長い包みに視線を向けてみれば、確かに長い。
あぁ、その長さは杖か。そう思えば、俺の思考を読み取ったのかマナが軽く頷く。
そうなると俺も剣を持っていくべきか?
悩んでいると、それにはナオが応えた。首を横に振られ、続けて小さな石がついたブレスレットが放り投げられる。
「これは?」
「美術部作。空間を捻じ曲げて武器を召喚出来るって代物らしいよー」
「……」
なら、マナのその包みは何だ?と疑問の眼差しを向けて見れば、マナもマナで基本となる笑顔を濃くしながら、
「ふふ。呼び出す時間は0.1秒ほどでしょうか?」
つまり、呼び出す時間が惜しかったんだな。
俺もナオも十分あやしいが、相変わらず一番暴走するのはマナ、か。ナオもそれを分かっているのか意味ありげにブレスレットを一撫ですると、鞄を肩に掛け俺に背を向ける。
相当焦っているナオの背を眺め、俺も人の事は言えないかと、ナオの後に続く為に足を動かす。
校舎の外に出れば、誰が言うのでもなく同時に走り出した。
俺たちが走れば5分程で着く。
リョウが歩いたであろう街並みを視界に収めながら、この世界にいないリョウの姿を追い求めるようにただひたすらに身体を動かしたような気がする。
誰が。
何の目的で。
リョウを召喚した?
これでくだらない理由だったら。
いや、理由なんてどうでもいい。
俺たちの許可無くリョウを勝手に召喚する奴等に対して、俺たちが遠慮する必要は無い。
そんな事を考えていたら、リョウが落ちたであろう場所はすぐ目の前だ。しかし、落ちたであろう場所を見ても、見た目は何の変哲も無い道路だ。
地球の常識で考えれば、穴、なんて開くわけがない。
だが、俺たちには見える。
くっきりと浮かぶ黒い穴。
何処に続いているのかまったく見えない程暗く、深い。
「さぁーてと。飛び込んでみる?」
表面上は穏やかな笑みを浮かべているナオが、穴を見つめたまま聞いてくる。
「勿論ですわ。この痕跡の主が遼さんを攫った方ですよねぇ…ふふ」
魔力の残り滓をガッチリと掴んで、マナが微笑む。
「今更、だな」
ここまで来て飛び込まないなんて事はありえない。
そんな事は愚問だ。
「行くぞ」
今度はナオの後ろに続くのではなく、最初に俺が穴へと飛び込んだ。入り口の方でナオが文句を言っているが知った事じゃない。
早くリョウを保護しなければ。
今の俺にはそれだけだった。
「ぐしゅんっ」
うぅー。寒いーーー。
余りの寒さに、両腕を前で交差させて自分を抱きしめるようにしてみるけど、やっぱ寒いものは寒い。
何でこんな時に雨なんて降っちゃうのかなぁ、なんて言った所で仕方ない。
仕方ないけど叫びたい!
寒い!
お腹減った!!
牛丼ぷりーーーず!!!
「うー…ヒモジイ」
さっきからお腹は鳴り過ぎて煩いし、雨の所為で身体が濡れて寒いし。せめてもの救いは、美術部員が作ってくれた腕輪が鞄に入ってた事かなぁ。
そのお陰で言葉だけはバッチリだったんだけど、 何か会話にならずに城らしき場所を追い出された気がする。それぐらいなら良かったんだけど、ちゃんと街外れまで連れて来られてねー。
そのまま置き去りにされちゃったー、って笑っていいのかなぁ。これ。
美術部員の翻訳機の腕輪も、人に会わなきゃ意味がないんだけどね。
しかし寒いなぁ。本当に寒い。
身体の震えが全身に広がってきて、結構ヤバイかなぁ、とか思うんだけどね。ここで止まればそのまま凍死かなぁ、なんて予想がついちゃうわけですよ。
重たい足を一生懸命動かして動かして、まだ見ぬ民家を目指して亀の歩みながら前へと進んでく。
段々と意識が朦朧としてきて、足が動かなくなってきて。
あぁ、ヤバイ。
これはヤバイ。
そう思っているのに、ガクリ、と膝が落ちた。
「うーーー」
こんな死に方は嫌だ!!
嫌なのに、何でか身体は動かなくてねー。
ちょっとだけ。
そう、ちょっとだけ。
私は持っていた上着で身体を包み込むようにして、樹の幹に身体を埋めるように目を閉じてみた。
うん。まったく暖かくないよね。
冷えすぎた身体が温もりを求めたのか、少しでも温もりを得ようと、私は無意識に手を動かしてた。