誤解召喚・1
※今回から別視点でのお話しが混ざります。
時間が経つのはものすっごく早くて、あれからもう三ヶ月。
何故か猫耳勇者衣装は委員長の家に飾られているとかいう不吉な噂話しを聞いたけど、噂は噂!
つっこむ所がなかった事にするから別にいいんだー。
そうそう、後日って言われてた異世界ツアー。ちゃんと行ってきたよ。副委員長が連れてってくれてね。異世界の変わったお菓子を買ってもらって家族皆で美味しく食べちゃったりとかね。
そんな美味しいお菓子の印象が強くなったからかな。黒歴史だったあの世界も今では大好きになったんだけどねー。
まぁ、副委員長としか行かないけど。
他の人とは絶対に行かないけど。
まぁ、そんなわけでアレが過去になるぐらい平和な、いつも通りの生活を過ごしてた。
そんな日常のとあるよく晴れた日。
普段はあんまり喋らないけど、私にピタってくっついて意志表示をしてくる占い部員が、珍しく手招きをしながら呼んできた。
この子はね、私よりも身長が低いの!
黒いサテン生地のようなキラキラとしたフード付きのマントを被りながら、顔も身体も全部隠しているんだけど、フードから覗く素顔は間違いなく小動物系美少女。なんたって彼女も全てを兼ね備えたチートだからね。
色々と性格上の個性はあるものの、やっぱ素顔は超絶チート集団の一員なのだ。
けれど、こんなふうに呼んでくるのは本当に珍しいなぁ、って思いながら近付くと、恒例のクッキーを渡されながらジェスチャーで耳を請求される。
声が小さいから、よく耳元で内緒話しっぽく話しかける占い部員だから気にせずに、はいっ、とばかりに差し出す。
「はるちゃんはるちゃん」
「何何?」
「あのね」
「うん?」
「今日から寮に泊まらない?」
「うん、嫌だ」
一体何を恐ろしい事を言うのだろうか。
震える身体をギュッと抱きしめて、一般人万歳!何て言いながら占い部員にまた明日とばかりに両手を勢いよく振る。
ちょっと距離が離れてたけどね。
占い部員の視力も優れてるから大丈夫。こんなに離れていても問題なく見れちゃうし。
それに、明日の朝にでもおはよーって言えば大丈夫!
「……落とし穴に嵌っちゃうのに…」
私が立ち去った後にぽつりと、占い部員がどうしようとばかりに言葉を漏らしていたんだけど、その頃の私はスキップで商店街を駆け抜けてる最中だったりとかね。
副委員長のにっこりな穏やかな笑顔の勧誘さえも断ってるのに、まさか今更言われるとは思ってなかったなー。
まっ。いっかー。
今日の夕飯は牛丼なのだ!
白滝たーっぷりたーっぷりの牛丼! 白滝に出汁やお肉や玉葱の甘みがしっかりとついて、これがまた美味しいのよ。
白いツヤッツヤのご飯にたぁっぷり牛丼をよそう。で、忘れちゃいけないのが生卵。気分によっては温泉卵をのっけたりもするんだけど、今日は生卵!
この日の為に一パック300円の卵に手を出したのだ!! いつもは格安卵先着100名様を狙っていくからね。
そんなわけで、今日は寄り道はなし。
まっすぐお家に帰って皆で牛丼を楽しむんだー。
歩調を弾ませる所か既にスキップになってるけど、楽しみがあふれ出しているから仕方ない。
ぽーん、と地面を蹴って、着地と同時にまた地面を勢いよく蹴り上げる。
「待っててねー。私の牛丼っっ!!」
「…遅くない?」
腕時計に視線を落とせば、既に10分以上過ぎている。
いつも定時間に教室に足を踏み入れるのに珍しいと思えば、そう思っているのは俺だけじゃないみたいでねー。
ヒコが俺の所来たかと思ったら、肩を竦めて見せた。
それだけで何を言いたいかわかっちゃうんだけどね。あえて何も言わず、俺も首を傾げておくだけに留めておく。
というか、俺に負けず劣らずのお菓子の量だよねー。これで太らないはるちゃんの消費カロリーも気になったりするんだけど、今はその肝心要のはるちゃんが不在だし。珍しく、本当に珍しすぎるぐらいに影も形も見えないし。
「おかしい。はるちゃんが朝のお菓子タイムを逃すなんてありえない」
通学時間は貴重で、皆がはるちゃんの鞄やらなんやらにお菓子を入れていくんだけど、それははるちゃんの貴重なエネルギーになるわけで。
365日学校がある日は休んだ事のない。寧ろ風邪をひいた事すら見た事のないはるちゃんが、その貴重な時間に不在という天変地異の前触れと言っても過言ではない事態に、流石の俺もどうしよう、なんて少し途方にくれてしまう。
携帯番号…交換してなかったんだよね。
いつでも調べられるけど、本人から聞こうって思っててさー。
「遼さん。昨日から帰ってないそうですよ~」
そんな俺の耳に、マナのおっとりとした声が耳に届く。
「昨日から? というか、マナははるちゃんの番号知っちゃったりしてたりするのー?」
「勿論ですわ」
にっこりとこれでもかという程自信満々に言われた言葉とその表情に、珍しく俺が苛立ちを表したんだけど、ヒコに肩を叩かれた。わかってるよー。俺たちが甘かったって事だろ?
俺も、ヒコもさー。
「リョウの昨日の夕飯メニューは牛丼だそうだ。待っててね牛丼!と叫ぶリョウの姿が目撃されている。帰らない、なんてありえないだろ?」
微妙にへこむ俺の隣で、ヒコが淡々と事実を述べていく。
マジでマイペースだよな。お前って。
「まー、ありえないよねー。はるちゃんだし。食べ物を見逃す、食べない、なんてありえない。マナ、ヒコ」
つまり、緊急事態発動って事だよなぁ。
「今更」
「今更ですわねー」
二人はニンマリと笑い、ヒコは教室から出て行きマナは携帯を取り出す。
さて…と。俺は昨日のはるちゃんの足取りでも追ってみるかな。皆に言うのはその後でも遅くはないだろうしそれに…。
まったく、ホント目を離すと危なっかしいよねー。
ねぇ、はるちゃん?