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あれから二日。
緑化委員にリボンをつけられてから二日…。何故か外せない不思議なリボンを切ろうとする度に副委員長に矛先を逸らされながら二日経ったけど、何故か装備が揃っちゃいました。
全員分。
しかも私以外何でか職業についちゃったりとかね。剣士とか魔法使いとか僧侶とかね。何か折角の異世界だし、形から入ろっかーなんて言っちゃってたけど、これって初期装備じゃないよね。絶対。
輝かしいばかりの光を放つ色とりどりの装備品の山を見つめながら、私はその場を動けずに考え込んでいたというか何というか。
冒険の初期といえば、木の盾や木の剣や皮あてのような装備品で、精々スライムレベルのモンスターと戦闘を繰り返し、セコイ経験値とお金を入手しながら町の周りをぐるぐるする。それが定番だけど、何度見ても思う。このいかにもレアですと言わんばかりの存在感を放ちすぎる装備品たちは。
恐れ多くて手に取る事も出来ないし、ピカピカ過ぎて指紋が付きそうで嫌なんだよね。持っちゃったら。
思わず眉間に皺を寄せてたら、いつのまにか沸いてきた委員長が私の肩をポンッと軽く叩く。
「はーるちゃん。はるちゃんは勇者だから、装備品はこっちねー」
「私の装備品もあるんだ」
ものすっごくイラナイんだけど。思わず脳裏にそんな言葉が浮かべば。
「そんな事を言わないでつけてみて。皆で考えて揃えたんだよー」
委員長が即座に言葉を返してきた。
「毎度の事で今更つっこむのもどうかと思いつつもつっこむけどね! まったく声に出してないのに何で会話が可能なのかなぁ」
というかさ。イラナイって言い切れる理由って分かるよね。分からないなんて言わないよね。寧ろ理解しろと胸倉を掴みたくなるんだけどしょうがないよね!
絢爛豪華な装備品の一角に、明らかに首を傾げたくなる物が一式。いや、ショボイというわけじゃないんだよ。
レア感たっぷりなんだよ。
薄手なのにこれでもか!って威圧感もあるんだよ。
なのに首を傾げたくなってしまうあの魔の一角。
「はるちゃんてば相変わらずおかしー。可愛いじゃないか。ね?」
「おかしいのは委員長の頭の中だと思うけど、やっぱりアレがそうなんだ? 今だったら冗談で済ませられるよ??」
「あははー。俺たち冗談って言った事ないよー」
「………」
このちゃらお似非笑顔イケメン委員長がっ。
「あれ…なんかちゃらおと委員長の間に増えた?」
「知るかそんなもの!! この際ものすっごく仕方ないけど、緑化委員がくれた絶対防御のこれは我慢してつけるから、あれは嫌だっ」
折角の異世界ツアーなのに、何故生き恥を晒さなきゃならんっ。
力いっぱい叫びたい。
あれは生き恥だ!!
「リボンはものすっごく仕方なくつけるんだー。絶対防御の加護付きなのに流石はるちゃん。まぁ、そう言ってもはるちゃん以外がつけたら呪われちゃうけどねー」
「………」
「絶対防御の加護が反絶対防御加護無に変わるんだよねー」
「…………」
この人、何言っちゃってんの??
というか何そんな物騒な物作っちゃってるのかなーってたった3日でこんな物作っちゃってやっぱチートは桁違いだよねー意味分からん。
しかし、無表情でジリジリと距離を詰めるのが、この危ないリボンを作った緑化委員なら、委員長は笑顔でジリジリと距離を詰めていく。
今も、私の心の声に「ワンブレスだねー」なんて笑いながらも隙なんか一切見ずに近付いてくる。うぅーむ。副委員長は何処に行ったんだろう。
副委員長ならばまだマシ!
きっと助けてくれるはず!!
「あぁ、無理じゃないかなー。だって、メイン副委員長だから」
一縷の望みに縋る私を、目の前のちゃらお委員長は容赦なく叩き落す。
「皆で考えたって言ったでしょー。まぁ、反対意見が一人だけ居たけどね」
「…緑化委員でしょ」
「正解。よく分かったねぇ。ちょっとは愛が芽生えたりしちゃった??」
「あははー。相変わらず委員長ってばおかしいよねー」
私の虚ろな声が響くけどそんなものは知った事じゃない。
この状況で分からないはずがないのだ。
なんたって異彩を放つ装備はね。
レイピアのような細身な刀身に、柄には銀の蔦の様な物を細かく巻きつけた剣。
白のブーツはもこもこで、天使の羽をモチーフにしているのか横から可愛らしく純白の翼があしらってある。
そしてそのブーツすらをも呑み込むのは、真っ白な綿毛のようにふわふわの純白ローブだ。
フード付きのそれは明らかに、ブーツなんか目じゃないものがついてる。
真っ白の。
ふわんふわんの。
猫耳と尻尾って誰の趣味??
緑化委員の反対理由としては、ハムスターじゃなかったからだと思う。委員長の言うように愛が芽生えたわけでもなんでもなく、すっごくすごーく分かりやすい単純な理由だと思うけどね。
ちなみに、ローブの下の衣装も可愛らしく、所々ピンクをあしらいつつも、ローブに合うように作られててね。
多分、あれ、見るからに明らかに私にサイズピッタリですよー。っていつサイズを把握した!?
「というわけで、俺に手取り足取り着せてもらうのと自分で着るの、どっちがいい?」
そんな私の疑問に答える事無く、にっこりと綺麗な笑みを浮かべる委員長。
超笑顔な人好きのする表情を浮かべながら近付いてくるちゃらお委員長が、この時ばかりは悪魔に見えたのはきっと気のせいじゃないはず!!
結果…。
着ましたとも。着ちゃいましたとも。
現在進行形で生き恥を晒しておりますとも!!
というか猫耳尻尾の空気勇者って何?
こんなふざけた格好で世界を救うって何?
後の方で、可愛いよー。ふざけてないよー。何て声が聞こえるけど、スルーです。ホントスルー。
こうなれば異世界ツアーなんてのんびり言わずに瞬殺ですよ。皆がね!
「というわけで緑化委員! 唯一反対の緑化委員が風をきって突き進むんだ!!」
「……終わったらりーくんとおそろ…」
「このリボンを家宝にするから頑張って!!」
恐ろしい。
猫耳尻尾の次はハムスターってありえないよね。
緑化委員の言葉を遮って言った私の言葉に、緑化委員は考えるような素振りを見せたけど、小さく頷いた。
「あぁ。それも悪くない。リョウと常に共にいるしな」
「………」
あれ??
何か路線がずれちゃった???
「あららー。遼さんと常にいるのねぇ。私も何か作ろうかしら」
緑化委員の言葉に、何故か副委員長ものっかる。
「そういう事じゃないからね! この場合の家宝って大切にしまっておくって意味だからね!!」
叫んだけど修正は間に合わず、副委員長と緑化委員はすっかりやる気だ。しかも委員長が良い笑顔を浮かべてるし。
「……はぁ。早くお家に帰りたい」
異世界ツアー所じゃなくて、この時ばかりは心底思ったね。やっぱ自宅が一番だって。
流石の私にも、猫耳猫尻尾はダメージが大きいよねー。
鏡は見ないでおこう。
ダメージが大き過ぎて立ち直れなくなりそー…。