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地味な女の子の勇者騒動  作者: 国見炯
勇者騒動(完)
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 今から三日ほど前に、空気=勇者認定をされました。

 元々勇者認定なんて対岸の火事とばかりに見物を決め込んでいたけど、まかさこの世界の勇者がチートじゃなくて空気だとは思ってもいなかったけどねっ。

 まぁ…けれど皆で異世界ツアーに行こうね!っていう話しになって、当初の目的は果たせそうだから全然いいんだけど。寧ろ超がつく安全異世界見学ツアーだよ。

 山賊も盗賊も魔王も魔物も瞬殺集団だよ。怖いなんて事があるわけない。逆にこのチート集団を獲物に狙っちゃうのが空気読めてないよね。

 雑魚臭を漂わせる所か、盗賊A・B・Cなんてそんな配役で終わっちゃうね。

 

 取りあえず異世界ツアーに挑む前に、一応皆で勉強をしていたりとかするんだけど、流石チート集団。

 常識の定義が分からなくなるような方法であっさりと知識を吸収していった。25人全員がね!

 言葉さえ通じればあの人たちだから大丈夫だと思ってったんだけど、実は言葉が違ったんだよね。召喚された洞窟が特殊な石で出来てるらしくて、そこから出た瞬間ローブ集団の言葉なんて全然意味不明なものにかわっちゃって、正直途方にくれそうになった。始めの数秒だけ。


「あ・い・う・え・お。そちらに出て発音してみてくださいね~」


 そう。すぐさま副委員長が行動を開始した。

 ローブ集団は余程威圧が堪えたのか、蛇に睨まれた蛙のように震え上がりながらも、副委員長の言葉通りの行動を繰り返した。

 始めは五十音だったそれは、一度やり終えたらその後は長い長い長い言葉の羅列を副委員長がいい、洞窟の外にたつローブ集団の一人がひたすらその言葉を口にする。それを5分程やった所でかな。

 副委員長だけじゃなくて、私以外の全員が覚えてたよ。うん。見事に。

 文字も洞窟の外だと日本語外になったんだけど、同じ方法であっさり取得してたよ。勿論私は無理だったけどね。

 覚えようとしてたら、さっき美術部員から腕輪を貰ってねー。

 翻訳機だって。ちなみに携帯電話っぽい付属効果もつけてあるらしくて、迷子になっても連絡が取れちゃうといういたせりつくせり。

 クラス全員分作ったんだって。皆で行くからね。全員分必要だよね。なんか加護もつけてあるとか。お金とかはどうしたのかなぁ。これだけ作るとそれなりに掛かっちゃうよね~。


「……うん、考えるのはやめよっと」


 他の24人は何をやってるのかなぁ、なんて思ったけど、追求するのはやめておく。きっと色々とやってるんだよ。

 委員長と副委員長と緑化委員は何でか交代で私にぴったりとついてるけどね。

 ちなみに今の時間は緑化委員がジィッと私を見てたりする。緑化委員が来ると、身体に穴が開くんじゃないかと思うぐらいジィッと見られる。

 つっこまないけどね。相変わらずつっこむ気はないけどね。

 手に持ってるオレンジのリボンは何?なんて聞かないからね。

「リョウ」

 けれどつっこまなかったら、緑化委員からつっこんできた…。聞かないフリをする私に対して、緑化委員は両手を素早く交差させる。

「ん??」

 何? 何をやった…って……。

 リボンじゃなくて、スカーフみたいなふわふわのヤツでした。あの一瞬で私の首にこれを巻きつけ、リボン結びにしたらしい。

「これ…何?」

 一体何がしたいのか。

 これでハムスターのりーくんがリボンをつけてるからなんて言おうものなら、リョウっていう呼び方禁止令をだそう。

 人知れず、胸の内でこっそりと決意をした私に向かって。

「リョウ。呼び方は、変えない。そしてこれは防御布だ。如何なる危険もリョウを害する事は出来ない」

 ナチュラルに人の心を読んだ上に、どうやら防具らしい。分類的に防具の中のアクセサリーって感じだけど。

 如何なる危険もって言い切れちゃうのがすごいけどね。

「所で、何でリボンなの?」

 防具だったら耳飾でも指輪でも腕輪でも何でもいいはず。

「りーくんと色違いだ」

 

 ……言い切っちゃいましたよこの人。

 異世界に召喚されて3日。そんなにりーくんに飢えてたのかぁ。

 うんうん。可愛い子に会えないのは寂しいよねー。


 ………。


 わかるよ。その気持ちはすっごくわかるよ。

 でも、私はりーくんじゃないんだけど!


「当たり前だ。リョウはリョウだろ?」


 またもやサラリ、と心を読む発言。

 これでハムスターのりーくんと混合しているわけではないという事は、多分証明されたんだけど…。

「どうしてりーくんと色違い?」

 そのりーくんに会った事はないんだけどね。写真すら見てないんだけどね。見たら真っ逆さまに嫌な予感しかしないから見ないけどね。

 私の疑問の言葉に、緑化委員はキョトン、と不思議そうに目を微かに丸くしながら、さも当然とばかりに口を開いた。


「りーくんのように可愛いからだ」


 ぅわーーー。

 ぎゃーーー。


「りーくんの写真を見…」


「ないから!!」


 なんかこのままりーくんとお見合いまで発展しそうな緑化委員の言葉を遮りながら、私は力いっぱい叫ぶ。絶対見ないからね!

 突き放すように言ってみたけど、緑化委員は引く気はないらしく、ジリジリと私との距離を詰めていく。

 そんなにりーくんとの色違いのリボンがツボに入ったのか。ツボに入るからつけたんだろうけどね。

 絶対防御っぽいけどまったく嬉しくないのは何でかなっ。


「はいはいー。そこまでにしておこっかー」

 ここで委員長の登場。どうやら単独行動でやりたい事は終わったらしい。

「助かったよちゃらお委員長こんな時は役にたつね!」

「はるちゃんって…ホント素直だよねー」

 しみじみと呟く委員長。

 思わず本音が漏れたけど問題なし!

 だって日常範囲だからね。人の心を読むのって。だから黙ってても口に出してもまったく同じ。

 ならば口にだした所で問題なんてあるわけない。

「そういう所がはるちゃんらしいけどね。とりあえず資金も集まったし、知識も十分。さっさと扉を閉めて帰ろっか」

「資金…?」

 知識は分かるけど、資金ってなんだろう。さっきの美術部員の時も思ったけど、明らかにこの世界のお金なんか持ってないよね。

 しかも25人分+1名分(勿論これは私だけど)の資金支援なんてするのかなぁ。

 素直な疑問に、委員長は何処から出したのか布袋から小指ほどの大きさの石を手の平に乗せて私に見せた。

 どのぐらいあるんだろう。結構ありそうだけど。

「これね、魔力を付加出来る石みたいでね。純度の高い魔力を付加さえ出来れば相当の高値で売れるんだけど、俺たち皆出来たんだよねー。

 高純度の魔力。しかも全属性。資金も何も心配する必要はないし、支援される必要もないし、帰る為の魔法も魔力も揃ってるし。

 異世界ツアーをして帰ろっかー」

「へぇ…」

 皆って事は、緑化委員もかな?

 そう思ってチラリ、と態と放置していた緑化委員を見てみたら、コクン、と当たり前のように頷かれた。しかも、指先にチラチラと煌く不思議な光は魔力というヤツなんだろうと思うけど。

「…まぁ、いっか」


 うん。まぁ、いっか。なのよ。

 この学園に通う人たちの事を深く考えてはいけない。

 ここにいる間は、私の常識には蓋をしておかなければパニックを起こしちゃうしね!


「はるちゃんも十分馴染んでるけどねー」


「リョウも負けてないがな」



 えぇい、チート集団が何を言う。

 私はあくまで平々凡々一般市民なのだ。

 まったく失礼しちゃうね!





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