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白いローブ集団は全部で10人。ローブを深々と被っているから年齢性別等は一切わからない。その集団がぞろぞろと入ってきたと思ったら、中心にいた人が大きな宝石の埋まった杖みたいなものを天井へと翳した。
ひょっとして勇者選定だろうか。
25人もチートがいるけど、一体誰になるんだろう。
ドキドキワクワクと興味を隠せずに見てたら、宝石から放たれた光が室内にいる人間全員を照らし始める。
「すごいねー。異世界の選定って本当にあるんだ」
興奮のあまりギュッと委員長のシャツを握り締める。
「…俺を睨んでも仕方ないから。わかってるー?」
「……仕方ない。リョウが掴んでるのはお前のシャツだ」
「あらら~。遼さんが可愛いのはわかるけど、まったく聞いてないわよ~?」
「「………」」
前と横と後ろの私よりも大きな集団がそんな会話をしてるんだけど、私は緑化委員のペットになったつもりはないからね。ハムスターのりーくんじゃないから。
どうやらハムスターのりーくんは、何かあると緑化委員君を見上げて助けを求めるらしい。それを私に求められても困るからね。
本当に困るからね?
けれど今は矛先が委員長に向かってるから、まぁ…いっか。
そんな会話がされてる間も、くるくると杖から放たれる光が部屋中をまわってるんだけど、段々と光が細くなりスピードもゆっくりとなってくる。
しっかし、見事にクラス全員が召喚されたんだねー。
見慣れた人物たちだけど、見慣れない場所にいるとちょっと新鮮だよねって改めて思う。
光は誰に止まるかな。
委員長かな。副委員長かな。それともうちのチート力No1のお祭り部員かな。定番でいけばチート力Np1だよね。でも全員を纏められる、ある意味規格外なチャラオ委員長も捨てがたい。
「あれ? 今俺って結構な事言われた気がしたんだけど、はるちゃんどう思う?」
「ボケるにはちょっと早いんじゃない?」
声に出すわけじゃないのに、時々というか日常的にこんな会話があったりする。ナチュラルに人の心を読むからかなり困るよね。
気にならなくなったけど。
ぐるんぐるんと室内を照らしまくっていた光だけど、その光のスピードがものすごく遅くなる。私の三メートル横ぐらいの子に当たり、そこから最終段階とばかりにゆっくりと近付いてくる。んん。お祭り部員は反対側。
つまりこの流れは委員長か副委員長か!
ゆっくーりゆっくーりとチョロチョロと迫り来る白い光。
この光のスポットに照らされる委員長や副委員長はさぞかし絵になるだろう。うむ。そういうのを見るのは目の保養で嫌いじゃないのだ。
随分と見慣れたけど、やっぱ綺麗なものは綺麗なのよ。
そんな時に響いた驚いたような声。
「あら~」
「あれ」
「ん?」
上から順に副委員長、委員長、緑化委員の声なんだけど、何だろう。誰が選ばれたんだろう。見逃すまいと目を凝らしてたはずなのに、見失ったと!?
えぇぇー。冗談嘘だよね??
忙しなく辺りを見回すけど、光は何処にもない。
「何処いった??
まさかフリ? 空回り? 勇者はいなかったとかっていうオチ? 私の異世界安全見学ツアーは何処いったの!?」
興奮のあまりグッと掴んだ委員長のシャツが酷い事になったけど、気にしない気にしなーい。
「はるちゃん俺のシャツ」
「即クリーニングだから大丈夫!」
「いや、うん。そうなんだけどねー。ってだから羨ましそうな目で見てるなよ」
「あららー。仲良しさん」
正直カオスだと思うんだけど、日常風景だからホント気にならないんだよね。というわけで、もう一度しっかりじっくりとローブ集団を見てみる。
杖から光は出てるから、消えたわけではないらしい。
注意深く杖から出ている微かな光を追っていくと、とある不思議な事に気付いた。
「…あれ?」
細い細い光の線。
「あれれ??」
何でか私の身体がぐるぐる巻きにされているような気がする。
「あっれー?」
光を確認して、杖を確認して、最後に自分の身体を確認してみた。やっぱり自分の身体に光がぐるぐる巻きされてる気がしないでもない。
「勇者様っっ!!!」
そんな私の疑問を肯定するように、ローブ集団が叫びながらぞろぞろーっと私の周りを囲もうとしたけど、それは委員長と副委員長と緑化委員の威圧で阻まれた。
蛇に睨まれた蛙のようにローブ集団が、一箇所で纏まりながらも頑張って私を見てくる。
「勇者様!!」
「おぉ、これぞまさしく勇者様だ!」
口々に叫んでるんだけど…。
「すいませーん。私の何処が勇者なんでしょーか?」
このチート集団の中の地味な一般人の私の何処に、勇者と呼べるべき素質があったんだろうか。
モンスターが出てきたら逃げるよ。怖いから。
魔王となんか対峙出来ないよ。やっぱ怖いし。
剣も杖も武器なんか持ちたくない。あんな重たそうなもの振り回せませんって。
「戦いなんて出来ないよー?」
腕力もなければ逃げる足もないし。
勇者の素質なんてないよってはっきり言えば、ローブ集団が揃って首を横へと振っ
た。一斉に動かれるとかなり不気味。
「勇者様には、魔界への扉を閉めてほしいのです!」
「そうです。あの扉は、人より優れた存在──人から負の念を向けられるような存在には決して近づけない扉なのです!」
「念に引っ張られ捕りこまれてしまいますし!」
「だがしかし、勇者様にならば問題なしに閉められるはずです!!」
ん?
んん??
なんだろうな、この引っ掛るものの言い方は。
なんだろうなぁ…この納得出来ない感じは。
「貴方様こそまさしく空気! 人に負の念を決してその身に受ける事はない可もなく不可もない稀なる方!! 勇者様としてこれ以上相応しい方はおりません!!」
感極まって泣かれたんだけどさ…。
「……これって怒っていいのかな?」
思わず呟いてしまった私の言葉に、委員長も副委員長も緑化委員も小首を傾げる。どうやら、薬にも毒にもならない存在+だけど癒しにはなるかも=私という事らしい。
つまり、ローブ集団の言葉に納得しやがったのだ。
えぇいこの規格外集団め。
私の影が薄いんじゃなくて、君たちの存在が濃すぎるんだって!!