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地味な女の子の勇者騒動  作者: 国見炯
勇者騒動(完)
2/27


 今日も今日とて派手な学校に通う。

 入学から一年。この学校にも随分と慣れた気がしないでもない。

 新入生も入ってきたし。今年は少なめで20人だったんだけど、見事に全員チートだ。これが全部仲良しチート集団っていうんだから、人脈がどうなってるのか心底不思議だ。



「遼ちゃんおはよう」

「遼さんおはようございます~」

「はるちゃん元気?」

「今日も小さいねー」

「飴食うか?」

 

 突っ立ってたらどんどんと声をかけられた。

 薄手のパーカーの中には何故か個別包装の飴やチョコやらが入ってく。

 このままだと個別包装のお菓子で動けなくなる。うん。教室に避難しよう。別に教室も避難できるような場所ではないんだけど、学校全体の人間が通る通路よりはましだと、パーカーからお菓子が落ちないように気をつけながら歩いてく。


「おー。あれがうちのハムスター先輩か」

「あんなちっこいのに、よくあんなに入るよなぁ」


 そんな会話が後ろでされているなんて知らず。

 私はいつものように教室のドアに手をかけた。



「おはよー」


 ってあれ?

 何か今日は視界がぼやけてるなぁ。

 いつもこれでもかって見える美麗集団の顔がぼやけてる。珍しいなぁ、なんて思ってたら、ゴンッと音と共に星が弾けた。

 キラキラと輝く星。

 私の周りを回ってる。




 小さな声。

 ささやくような声。

 その中には慣れ親しんだ声も聞こえて、私はゆっくりと目を開けた。


「おぉう。相変わらずの美麗集団…」

 どうやら私は教室の入り口で昏倒という真似をやってのけたらしい。受験前にやったねー。後頭部ゴン。アレは痛かったけどこれも痛いと、ぷっくりと膨らんだ後頭部をさすりながら私は辺りを見回した。

「はるちゃん大丈夫?」

「大丈夫ー。身体は丈夫だから」

 私の顔を覗き込むのは、うちのクラスの委員長。チート力は中堅所。けれどクラスを纏められるある意味一番のとんでもないチート力を発揮出来る、茶色の髪がやっこそうなイケメンだ。

 黒い縁の眼鏡はアイテムだろうと突っ込んだ事があるけど、当たり前だろ。俺に似合うし、とにっこり笑顔で返したツワモノなのだ。


「あはは。それは知ってるよー」

「なら聞くな!」

 このちゃらんぽらんな見た目の委員長が私の頬をつんっと人差し指で突くから、反射的にかぱーんと噛み付こうとしたら逃げられた。

「俺の指はチョコじゃないからね。はい、あーん」

「恥ずいわ!」

 どいつもこいつもあーん、をデフォルトにするんじゃない!!

 怒りのまま身体を起き上がらせたんだけど…。


「……あれ? 机は何処いった??」

 辺りをキョロキョロと見回してみれば、真っ白な空間。柱も天井も何もかもが真っ白。白以外の色が付いてるのは人間だけ。

「ほへー。ここ何処?」

「私が聞きたいですわね~」

 私の疑問に答えてくれたのは副委員長。一番初めに私にお菓子をくれた女の子だ。

 副委員長ですらわからないとな。

 なら私にわかるはずないかぁ。うん。おやつ食べよっと。

 パーカーに入れてもらったおやつが散らばらなくて良かったと、もごもごと次から次へと食べてく。燃費が悪いんだよねー。

「大物だねぇ。ハルちゃんてば」

「そりゃ頼もしい人たちに囲まれてますから」

 25人のチートがいれば怖いものなんてないですよ。

 虎の威を借りちゃう狐ですよ。今更今更。しかも皆私が背中にぶら下がってたぐらいじゃ気にしないし。

 委員長と副委員長に両脇を固められながら、私は遠慮なく辺りをじっくりと確認していく。さっきまでは教室にいたはずなのに、今は何故か見知らぬ空間。

 あれだね。

 小説なんかでよくある、勇者召喚とかそんなノリだよね。

 しかしうちの勇者は25人。学年全部で倍以上。一体何処の大魔王を倒してほしいんだろうねー。瞬殺だよ?

 かなり魔王に同情しちゃうね。


「はるちゃんは機嫌がいいねー」

「あら可愛いですね~」

「当事者たちが何言ってるの」

 まったく。肩を竦めてみれば、委員長と副委員長は揃って一箇所を見つめてた。

 んん? なんだろな。

 私も右に倣えで見たんだけど、そこにあったのは黒い穴。ぽっかりと開いているんだけどいつの間に開いたんだろう。

 さっきまで何もなかったよねー。

 景色が真っ白だから、異様な程黒が目立つ。

「あれ…」

 ぼそり、と漏れた私の声は、そこからわいたようなローブの集団の存在感に飲まれ、誰にも聞かれる事なく空気へと溶けていく。

 ぅおー。お約束なノリ。

 よし、折角だから見学しておこう。

 副委員長を前面に押し出すのは可哀想だから、ここは委員長の背を押してね。


「…はるちゃーん。押してない?」

「壁にしてるだけー」

 つっこみが入ったけど気にしない気にしない。

 そんな事でへこたれたらこの学校でやってけないもん。

 委員長はつっこみながらも、どうやら壁になってくれるらしい。

「リョウ。俺の後ろにいればいい」

 だけど何故かここで緑化委員がきた。短く切った黒い髪をたてて、シャツを着崩してるちょっと不真面目な印象を受けるけれども、こよなく動物と緑を愛する青年だ。

 スポーツマンな感じに見えなくも無いけど、無口さが他者に威圧感を与えるらしい。この辺りの調査は周辺を通る人たちの意見だ。

 同じ学校で怖がる人間なんかいるはずがない。

 ちなみに、彼は私をリョウと呼ぶ。ハルカなんだけど、どうやらリョウって呼び方が気に入ったらしい。

 その辺りの理由としては、自宅にりーくんというハムスターを飼ってるからだそうだ。

 んん? どういう意味だと胸倉を掴んで問い詰めたいが、こんな身長187cmの強面兄ちゃんにそんな恐ろしい真似が出来るはずがない。

 そうそう、私は一般人。

 あくまで埋没するが宿命の平均人間なのだ。


「委員長を盾にしてるから大丈夫ー。緑化委員はいざって時のセカンド盾になってくれればいいから!」

 まー。委員長な盾で十分効果があると思うけどね。

 緑化委員は、委員長よりはチート力は上らしい。特筆すべきは運動能力…じゃなくて、彼の愛する自然に対する知識と四次元ポケットだ。

 ある日私が外で不良さんに絡まれた時、緑化委員が偶々その現場に居合わせて──…何処から取り出したのか、急須の先を不良の口に突っ込んで何かを飲ませてた。

 一体彼が何をしたかったのか。

 後日聞いた所によると、一週間程の記憶を失って真面目になった不良がいたとかなんとか。

 つっこまないけどね。

 怖いから見て見ぬふりをしたけどね!



「はるちゃんって怖いもの知らずだよねー」

 えぇい何を言うんだ委員長。

「皆がいるから怖くないんだよー」


 まったく、チート集団のくせに無自覚って怖いね!




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