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地味な女の子の勇者騒動  作者: 国見炯
誤解召喚(完)
13/27

誤解召喚・7




 そんなわけで、あっさりと扉の前に転移完了!

 今回は副委員長が作ってくれた闇の力とかいうヤツで扉を捕捉したらしい。よく分からないけどチートだから何でもありだよねー。



「また、近づけないのか」


 すっかり見学モードだったけど、私を抱え込んでいた緑化委員が不満気に声を漏らした。そういえば近かったね。お姫様抱っこをされていたよね!

 最近じゃ当たり前になってて意識してなかったけど、間近で見ても死角なし。美形はどの角度から見ても美形の法則に則っているのか、やっぱり顔だけ見るとかっこいい顔をしているんだなぁ、と思う。

 食べ物から出る湯気の方が好きだけど。

 そんなどうでも良い事を考えながら、緑化委員の言葉に答える。

「私は大丈夫だけどねー」

 引きずりこまれないように一生懸命踏ん張っている緑化委員とは対照的に、引っ張られるなんて事はなく、私は完全無欠。ホント、扉限定で無敵になるってある意味むなしいよね。

「じゃ、閉めてくるからー」

 既に二回目の扉を閉める作業。

 何をするってただ扉を閉めるだけ。

 外敵はいないし障害も一切無し。そんなモノがあったら緑化委員の腕から降りれるわけもないんだけど。過保護だから。何かよくわからないけどはむちゃん扱いしてるから。


「遼さん。気をつけて下さいね」

「扉に指なんか挟んじゃ駄目だよー」

 副委員長と委員長からの言葉。

「そんなに慌ててないから大丈夫ー」

 閉める時に指挟むって……あるけどね。時々あるけどねっ。でも今は大丈夫。両手使って押すように閉めるし。

 そんな状態で指挟むわけがないしね。

 未だに心配そうなチート三人組と、不安いっぱいの表情で見てくる小人さんたち。どうやらお八つで懐かれたような気がするけど…。

 食べ物はいいよね。お八つは至福だよね。副委員長に連れて来て貰ってまた作るから一緒に食べようね!



「……」

「どうしたの? ヒコの無言なんて珍しくもなんとも無いけど、機嫌悪そうだよー」

「……また、リョウの行動範囲が広がったような気がしただけだ」

「あぁ……それは同感なんだけどさー。何かマナだけが得しそうな?」

 チラリ、と二人が切れ長の眼差しを向けてみれば、そこに立っているのはいつもの副委員長。

「あらあら」

 口元に手を持っていきながらくすくすと笑う副委員長。

 それと同時に閉まる扉。

 結構あっさりと閉められるんだよね。

 何たってさ。全ての障害がチートたちによって取り除かれているからね!

 これが普通の異世界トリップだったら色々なアイテムなんか入手しつつ、地道にレベルを上げながら情報を集めてここまでたどり着くんだろうけど…。

 相変わらず一瞬だったよね。流石チート集団ってこの先、何度この言葉を言う事になるんだろう。

 さて。これで帰って自宅で牛丼でも食べよっかなぁ。って呟いた時、眩いばかりの光が辺りを覆った。


「おぉっ。ファンタジー!」


 ここでまさかのファンタジー。皆が居るから飛ばされる事はないと思うけど、ちょっとだけ距離が離れているんだよね。


「リョウッ」


「はるちゃんっ」


 って思ったけど、次の瞬間には委員長と緑化委員に抱え込まれてた。二人で一人の人間を痛くないように抱えるって器用だよね。

「ふふ。何か楽しい事があればいいんですけど~」

 折角の異世界ですから。と微笑む副委員長に、そうだねーって思いつつ頷いてたら、やっぱりあっさりと視界を多い尽くしてた光が消えた。

 三人の指先が動いてたみたいだから何かしたんだろうけど。



「…って、あれ??」


 目を数回瞬いてみる。

 眩しかったから、ちょっと目が変になったのかなー。


「……うーん」


「気のせいじゃないよ」


「あぁ。俺も同じものが見える」


「あらあら」


「よくある異世界事情ってやつかなー」



 まぁ、目の前にはある意味異世界事情のお約束な光景が広がってるっていうかねっ。

 小説やゲームなんかではよくあるパターン。王道っていうのかな。

 



「……戻った」


 赤い小人さんらしき人が、唖然とした表情で言葉を吐き出す。


「戻れたんですね…」


 自分の手を見ながら、信じられないように言う白い小人さんらしき人。

 ごろごろと土の上を転がって交信してる人は、緑の小人さんらしき人だよね。わかりやすいなぁ。色は同じだけど。



「事情説明をしてもらってもいいかなー」

 おや。流石取り仕切るのに慣れてる委員長。私を緑化委員に預けて……降ろしてもらっていいんだけど。立てるからね。赤ちゃんじゃないからね。

「そろそろ降りたいんだけどなー」

 控えめに言ってみたら、緑化委員はチラリと一瞥しただけで降ろす所か更に抱え込む所が緑化委員らしいと思う。

 これも慣れたけどねー。

 お姫様抱っこ。

「何が起こるかわからない」

「何がってこれ以上起こらないんじゃないかなぁ」

「リョウは俺の腕の中で大人しくしていればいい。何があっても守るから」

「離れてても守れそうだけどねー。チートだし」

 むぅ。どうやら譲る気がまったくない緑化委員。

「ふふ。遼さん。私と手を繋ぎませんか?」

 そんな時、副委員長が救いの手を差し伸べてくれた。まさしく手!

「繋ぐー。というわけで降りるからね」

「……」

 まったく納得いきませんって表情を浮かべる緑化委員だけど、やっぱ抱えられるより地面に足がついてる方がいいよね。

「あら……手の平に怪我してますわねぇ」

 ギュッと手を繋いだら、副委員長に言われた。

「あれ? あー。転んだりしたからかな。結構歩いたりしたからちょっと疲れたんだよねー」

 あんなふうに歩いたのは久しぶりだったしなぁ。

「「……」」

「どうしたの?」

 副委員長と緑化委員が顔を見合わせて、にこり、と無邪気な笑みを浮かべてた。

「何でもありませんわ~」

「何でもない。それより、謎が解明するみたいだぞ」


 何だろう?

 無邪気な笑みって珍しいけど……まぁ、いっか。チートの考えはわからない事がいっぱいあるし。

 それよりも、最近じゃあんまり珍しくはないけど、異世界の事情ってやっぱ興味があるしね。じぃっと赤い小人さんらしい人と委員長に視線を戻してみた。

 どうせ扉の影響で身体が縮んだ、とかそういう話しのような気もするけど。

 異世界っていったらそういうのが定番だよねー。



「魔の扉の影響だ。人間以外に変質を齎し、本来の力を削ぐ」


 って思ってたら、どうやら本当にそうだったみたい。

 本当の力が出せないってそりゃ必死になるよね。


「赤い小人さんって呼んでたんだけど、もう小人さんって呼べないよね。赤い大きい人でいいのかなぁ」

 私よりも小さかったから小人さんって呼んでたんだけど、もう呼べないかな。緑化委員ぐらいあるし。

「小人でいいんじゃないか? 人間じゃないみたいだしな」

「何でもいいと思いますわ。呼び慣れた呼び方が一番ですわねぇ」

「そっか」

 そうだね。今更呼び方変えたら舌噛みそうだしね。



「勇者よ。本当に……本当に感謝してる」

 委員長からこっちに突然矛先を変えた赤い小人さん。

 委員長が手を伸ばすけど、間に合わず宙をきる手を見ながら舌打ちを一回。こうやって見てると委員長も柄が悪くなったよねぇ。前は好青年だったのに。エセだけど。

「扉を閉めただけだよ。他は全部三人がやってくれたし」

 寧ろ私だけだったら閉める前に辿りつけてないよね。

「いや。閉めれる、というのが凄いんだ」

「……空気だからね」

「…?」

 ぼそり、と小さく呟いた私の言葉に、赤い小人さんが首を傾げる。

 前の世界で言われてたんだけど、この世界じゃ浸透してないのかな。空気だから閉められる魔の扉って。

「何の事かはよくわからないが……勇者は俺たちにとっては命の恩人だ」


 目の前で、赤が揺れた。

 

 今まで見上げてた赤い塊が、何でか恩人という言葉と同時に片膝をつく。上から下に視線を移動していたら、副委員長と繋いでない左手をそっと取られ、何をするんだろうって思ってたらさも当然のように手の甲に温かな感触。


「「「「………」」」」



 手の甲?

 に、温かな感触??


 って口付け!?

 おぉぉぉぉおお。異世界っ。ファンタジーっ。日本じゃ考えられないよねっっ。



「なっ」

「──ッッ」

「あらあら」


 周りで息を呑む音と、副委員長ののんびりとした声。



「リョウッ。しっかり捕まってろっ!!」

「うな?」

 

 一転する視界。

 うん。この感触は緑化委員だけど…。


「油断も隙もない。やはり抱きしめておくべきだったか」

「それって、チート集団以外が言えばセクハラで訴えられそうだよねー」

 慣れたからいいんだけど。はむちゃん扱いだし移動するのに楽だし。緑化委員に抱えられたまま変わる視界に一瞬目を瞑って見れば、次にあらわれるのは慣れ親しんだ景色。



「でもちょっと強制的過ぎるよねー。ちゃんと挨拶出来なかったし」

 小人さんたちは命の恩人なのに。頬を膨らまして言えば、そんな事を言われるとは思っていなかった緑化委員からものすっごく不満ですと言わんばかりの視線を向けられる。

「あんな事をやる奴と挨拶をする必要は無いだろ」

「あんな事って、緑化委員や委員長がやってるの大差ないんじゃない?」

 この抱っこも人の事は言えないよね。

「うふふ。常日頃の行いの悪さですわねぇ」

 ちゃんと付いて来てたらしい副委員長が、私の手の平の傷を治しながら穏やかな声音を緑化委員に向ける。

「…日頃の…」

「日本じゃあーいう習慣は無いでしょ。つまりセクハラはあっち。はるちゃん。あの世界にはもう二度と行かなくていいからね!」

 少しだけ時間差があったのか、私の背後。つまり緑化委員と向かい合うように立つ委員長が、見事な棚上げ発言をしたかと思ったら、緑化委員もここぞとばかりに頷きだす。


「リョウ」


「はるちゃん」


 いい子だからとばかりに名前を呼ばれながら頭を撫でられたりしたんだけどね。


「副委員長! また一緒に異世界に行こうねっ!!」


 どっちみち異世界には副委員長としか行かないから。委員長や緑化委員と行った事はないからね。

 その事実に気付いたのか、二人は副委員長に念を押すように何か言ってるんだけど。


「うふふ。衣装を調えれば映えそうですわね。遼さんにおかしな認識を植えた事を反省した方がいいかもしれませんわねぇ」

 頬に手を当てるようにしながら、優雅に二人の視線を一刀両断した所は流石副委員長。


 うん。

 やっぱり副委員長が最強だよね。

 何かよく分からないけど、色々と最強のような気がするよね!




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