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地味な女の子の勇者騒動  作者: 国見炯
誤解召喚(完)
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誤解召喚・5



 

 多少眺めのよくなった城を背にし、俺は転移の準備へと移る。リョウが呼びだされた場がすっきりとしたからなのかはわからないが、今まで通じなかったリョウへの心話がどうやら可能になったらしい。


「ヒコー。心話は通じないっぽいよー」


 が、どうやら通じないらしい。

 可能性としては、リョウが閉ざしているか意識を失っているか。リョウが態々こちらからの呼び方をブロックするはずがない。つまり…。

 そこまで考えて、俺の背後から何かが溢れだす。

 やはり、木っ端微塵にしておくべきだったか。

 物騒な事を考えながら、俺はある事を思い出した。

 どちらかというと、どうして今まで忘れていたのか。と自分を叱咤したくなる。


「リョウに渡した防具だ。リョウから離れない魔法もかけてある」


 俺の言葉に、ナオは「あ、そっかー」といつも通りに声をあげると、マナと向かいあって一回だけ頷きあう。


「辿れそう?」


 一応、とりあえず。

 そんなふうに、ナオは俺に対して確認の意味を込めて聞いてきた。


「辿るんじゃない。報告させる」


 だが、俺はソレを否定する。

 俺が作った防具を辿る事は可能だ。だが、心話が通じない場所にいるリョウだからこそ、辿ろうとしても何らかの要因で最終的な場所はわからないかもしれない。

 そのリスクを負うよりも、俺はこの世界の大地に。自然に。全ての緑たちに向かって魔力を全て解き放つ勢いで声を投げつけた。


 俺の魔力を纏う人間を探していると。

 

 これに返答をするか、もしくは返答が難しいならば保護をしてくれ。


 そして、もし傷つけようとする者があれば、容赦なく叩き潰せ。



「わぁ……肌がビリってきたねー」


 俺の無差別の心話が終わった直後、肩を竦めたナオの姿が視界の隅に入った。どうやら、ナオとマナは俺の近くにいたから、魔力の影響を直に受けたらしい。

 とはいっても、殆ど影響はなさそうだが。


「あらら~。今の彦実さんの魔力で、目を回しちゃったみたいですわね~」


 マナのおっとりとした声が響くが、そんな些細な事なんてどうでもいい。マナの仕置きを受けたこの国の王たちが数時間意識不明に陥ろうが、俺にとっては関係の無い事だ。

 実際、それを口にしたマナにとってもどうでもいいのだろう。

 相変わらずナオは思考を読ませない飄々とした表情で、小さく何かを呟いている。俺が自然を好み、そして好まれるように、ナオの場合は風と相性がいい。全属性を余すことなく最上位の力として扱えるが、その中でも得意なものはある。

 

「ヒコー。返信があったら、すぐ転移しよっかー。場は整えたから、何処だって出来るし、さ」


「あぁ」


 どうやら、可能な限りこの星に風を張り巡らせたらしい。

 しかし…ナオの風でもリョウの居場所が把握出来ないという事は、深い結界の中にでもいるのか……。


「──ッ」


 だが、俺の思考を中断させるように声が届いた。


 森の住人から。


 どうやら、リョウを保護してくれたらしい。


 安堵したように胸を撫で下ろした俺を見て、ナオもマナもほんの少しだけ表情を安堵のものへと変えた。

 それでも、自分の目で確認するまで本当の意味で安心は出来ない。

 俺たちは顔を見合わせた後、リョウがいる場所の外へと転移する為に魔力を練り始める。


「ヒコ、場所の映像をちょーだい。

 俺をメインに転移は発動させるからさー」


「……そう、か。そうだな。これだ」


「あー。うんうん。照合終了ー。はるちゃんの痕跡も発見。じゃ、迎えに行こっかー」















「これはなんだ?」


 赤い小人さんに不思議そうに聞かれるけど、逆に私が不思議そうな顔をしちゃったね。この世界ってバターがないのかな?

 あ、でも牛乳で簡易バター作ったら驚かれたから、結構珍しいのかもしれない。小麦粉っぽいのはあるのにね。


「このバターでね、デザートを作っているんだよ」

「デザート?」

「うん。ご飯のお礼。これだけあればパウンドケーキが作れるし。ちょっと待っててねー」

 あのヒモジイ状況でご飯を差し伸べてくれた小人さんたちに出来るお礼といえば、これぐらいしかないしね。

 慣れない道具や材料だけど、白い小人さんが手伝ってくれてるから今の所なんとかなってるし。

 興味深げに見てくる白い小人さんに説明しながら、パウンドケーキのもとを型へと流し込んだ。パンが焼けるなら、これもいけるはず。

 紅茶もどきとパウンドケーキで三時のおやつ!

 いいよね、三時のおやつって!!

 今回はお礼だから一切れだけもらって…。


「んー。何??」


 白い小人さんがクイックイと洋服の裾を控えめに引っ張ってくる。小さいからしゃがんで目線を合わせて聞いてみると、もじもじとしながら上目遣いでボールもどきに入った材料を指差すと。


「後で、一から説明してもらってもいいですか?」


 控えめに聞いてくる白い小人さん。

 可愛いなぁ。


「勿論だよー。一回じゃ覚えきれないだろうしね。焼きあがるまでにちょっとかかるから、その間に教えるねー」

「はい。ありがとうございます」

 にこっと微笑む白い小人さんの頭を撫でながら、型に流し込んだパウンドケーキを竈へとセットした。

 さてさて。

 これで白い小人さんに教えながら……あれ?


「どうしました?」

 私の隣に立つ白い小人さんが、私の様子に気付いて声をかけてきてくれる。でも、私の視線は窓の外に釘付けでね。

 何でか緑の小人さんが庭の大木にぴたっと身体をつけて、時折両手を上に上げたり、コロコロと地面を転がったりとちょっと不思議な行動をしてた。

「あぁ…時々、彼はあるんですよ。交信中なので、気にしなくても大丈夫です」

「へぇ…交信中なんだ」

 あえて、何と、とは聞かずにそっと、緑の小人さんから視線を外した。

 うんうん。あんな感じで趣味に没頭中の時って見られたくないよね。



 その後は白い小人さんにパウンドケーキのレシピを教えたり。

 焼きあがったパウンドケーキを二人で味見して感動に打ち震えたり。

 バターを興味深げに見てたから、リンゴにバターと砂糖を振り掛けて竈でサッと焼いたのも用意しながら、人数分を皿に盛り付けて食卓へと並べる。

 白い小人さんからの味の保障ももらったからきっと大丈夫。


 小人さんたちは初めて嗅ぐバターの匂いに興味津々で、恐る恐るパウンドケーキを一口分だけ口の中に放り込んだ。

 鼻腔をくすぐるバターの良い匂い。

 どうやら気に入ったらしく、ガツガツと食べ出す小人さんたちを確認した後、私もパウンドケーキに手を伸ばした。

 久しぶりの甘いデザート。

 食事も大事だけど、デザートも譲れないよね。


「いただきます!」


 小人さんたちよりも身体が大きいという理由で、白い小人さんが厚めに切ってくれたパウンドケーキをはぐり、と口の中いっぱいに頬張る。


 うぅーーー。

 美味しいぃぃぃぃいいい。


 やっぱいいよね。

 甘いものって!


 口の中に広がる久しぶりの甘味。

 甘さは控えめなはずだけど、胡桃と干した果実の優しい甘みが身体に染み渡る。



 その時、バターン、と大きな音が聞こえ、その直後に懐かしい声が響いた。



「はるちゃんっ!」


「リョウッ!」



「………」


 はむはむはむ。


 委員長と緑化委員だ。後ろには副委員長もいる。


 もぐもぐもぐ。


 何か甘味と同じぐらい久しぶりに見たなぁ。



「うふふ」



 何故か不自然に動きが止まった二人と、頬に手を当て微笑む副委員長の笑い声がシィィンと静まり返った部屋に響いたんだけどね。



 ちょっと待ってね。

 久しぶりの甘味をお茶でサッと流し込んじゃうのは勿体無いから!


 もぐもぐとパウンドケーキを頬張る私を凝視したまま、どうしてか委員長と緑化委員の二人は固まったまま動かないでいた。

 珍しいよねー。

 固まるチートって。

 




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