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地味な女の子の勇者騒動  作者: 国見炯
誤解召喚(完)
10/27

誤解召喚・4




 ふわりふわりと私の周りを食べ物が漂う。



 食べれなかった牛丼!


 副委員長がくれたホールケーキ!!


 委員長や緑化委員や他の皆がくれたお菓子の数々!!!



 存分に食べれてた食料なのに、お腹が盛大に鳴った所で口に入るものは何も無い。手を伸ばしても伸ばしても、その分だけ食べ物が遠ざかる。

 ヒモジイ。

 本当にヒモジイ。

 お腹すいた。

 水飲みたい。

 兎に角食べ物が欲しい!!

 叫んでも、やっぱり見慣れてた食べ物は遠ざかるだけだった。


 くすん。


 本気で泣きそうになった所で、突然口の中に生まれる温かな食感。仄かな塩味。これはスープかな。喉に流れ込む食感と味は優しいもので、病人食っぽい。

 けど、そんなスープあったかな、なんて辺りを見回してみるけど、そんなものは何もない。でも、次から次へと口の中に放り込まれる食べ物。

 むぐむぐととりあえず噛みつつ、喉の奥へと流し込んだ。


 ほぅ。生き返る~。


 暫くの間口の中に生まれる食べ物を味わいながら、さっきよりは余裕のある精神状態で辺りを見回して見た。

 何もない真っ白な部屋?

 

「夢…かなぁ」


 流石に、これは現実じゃないだろうと思う。

 眠る前の事を思い出せば、樹の幹にもたれ掛かって死ぬようなフラグを乱発させてたはず。となると天国?

 でも、天国だったらきっと、目の前には美味しいご飯が沢山置かれてるはず!

 という事で、夢の中だと決め付けながらその場に座り込んでみた。

 何もないから、何もやる事が思いつかない。

 どうせだったら自分で食べたいけど、肝心のスープが見当たらないから仕方ない。そんなわけで、口の中に生まれ続ける食べ物をひたすら咀嚼してみた。

 結構な量を食べてる気がするけど、まだまだお腹がすいてる気がする。

 やっぱり固形物を食べなきゃ駄目かなぁ、と呟いた私の耳に、聞きなれない声が届いた。



 そろそろいいんじゃないか?


 あぁ。もういらないか。


 じゃあ、このスープは片付けて…。



「──ッッ!?」


 なんと不吉な事をっっ。


「もっと食べるッッ!!!」


 そう叫んだ私の前には、突然色々な色で溢れかえった。


「ほぇっ??」


 ちょっと馴染みの薄い室内だけど、家具や窓がある部屋になった。


「「「…………」」」


 そして二頭身な小人が沢山いる…。

 しかも、ジッと見てる…?


「……えーと…」


「「「…………」」」


 やっぱり小人さんたちは無言のまま私を見上げてるんだけど、その手が持つ器から湯気を放つそれはまさしく、さっきのスープ!

 小人さんじゃなく、ジィッとスープを見出した私に、スープを持っていた小人さんは恐る恐るといった感じで差し出してくれた。


「ありがとう!! いただきますっ!!!」


 半泣き状態で受け取って、それをスプーンを持った自分の手で口の中へと運んでいく。ジィィンと染み渡る仄かな風味と温かさ。


「生き返る…ホントに美味しいぃぃ」


 はぐはぐと食べてたら、別の小人さんがパンらしきものを持ってきてくれた。やっぱり湯気をたててる。焼きたてって感じのパン。

 お礼を言いながらもそのパンを頬張る。

 美味しいぃぃぃいい。

 素朴な味だけど、身体に染み渡るというかなんというか。小人さんたちが次から次へと持ってきてくれるから、お礼を言いながらドンドンと食べていった。

 

「ありがとう。生き返りました!」


 手の平サイズのパンを10個。

 スープは6杯。

 それにサラダと美味しいお水。

 腹八分目でいい感じだし、ひもじかったお腹が満たされて漸く一息つけたような気がした。


 …けど、ここは何処だろう??


 ログハウスのようなシンプルな作り。

 必要最低限の家具に、奥には小さなベットが5つ。小人さんは五人だから、間違いなく小人さんたちの家だと思うんだけど…。


「えーと…助けてくれたんですよね??」


 これだけ食べといて今更だけど。

 そう思いながら聞いたら、始めにスープを差し出してくれた青色の髪が眩しい小人さんが、微かに目を細めた気がした。

「助けた──が、それよりアンタが落ちてきた。が正解だ」

 小人さんが指差すのは、天井。促されるままに視線を上げてみれば、天井の隅に人が一人入れそうな穴が開いてる。

「あれ?」

 じぃぃと見て見たら、穴が結構上の方まで続いてるのが分かったんだけど、その通路っぽいのが樹の幹に見えなくも無いんだよね。


「あれれ??」


 私が最後に見た光景も樹の幹だったような。


「…あそこには、ここへの隠し扉があったんだ。アンタ、運がいいな」


「んー…隠し扉。まったく気が付かなかったけどありがとう! ご飯美味しかった!!」


 隠し扉から落ちてきた見知らぬ人間にご飯をくれるなんて、何て良い小人さんたちなんだろう。

 にっこぉと頬を緩めながら小人さんたちにお礼を言ってたら、赤い髪をした小人さんが私の鞄を指差した。


「アンタは…森の加護があった。だから助けたんだ」


「んん??」


 森の加護?

 そんなもの…ってまさかっ。


 鞄の中には緑化委員から貰って家宝にしたリボンが入ってる!!

 なんか私以外が付けたら不運過ぎる装備に変わる、多分レアアイテムっぽい効果があるやつ。

 美術部員が作ってくれた翻訳機と一緒に鞄の中に入れてあったんだよね。

 ごそごそとそのポーチを取り出して小人さんに見せると、それだ!って次々に指を指された。


「すさまじい森の加護を感じます。森の王が加護を与えたような輝きです」


 緑の髪の小人さんが、瞳を潤ませながら手を組んでリボンに拝みだす。

 他の小人さんたちは緑の小人さんよりは淡白な反応なんだけど……色なのかな?

 緑の小人さんが拝む横で、今まで沈黙を守ってた白と黒の髪の小人さんが私へと近付く。


「アンタ…そんなものを持ってるなんて、勇者か?」


 始めに、黒の小人さんが口を開いた。

 続いて、白の小人さんが黒の小人さんの言葉を付け足すように、真剣な眼差しを私に向けながら恐る恐ると口を開く。

 まぁ…なんていうか言われた言葉に吃驚したけどね。

 本当に吃驚したけどね。








「七色の魔力を操り、神魔獣を従え異界の扉を閉めた伝説の勇者様ですかっ」







「………………は?」







 いやいやいや。


 その色々とごちゃまぜになった噂はなんなのかなっ。

 

 寧ろ空気だから!


 空気勇者で扉を閉めたから!!




 だからそんなにキラキラの瞳で見上げてこないで、と言葉に出来るはずもなく、どうやって誤解を解こうかと心底困ったね!!


 なんとか誤解は解いたけどね。


 なんとか解いたんだけどさ。


 空気勇者で納得されるのもなぁ……微妙だよね~。

 

  



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