表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地味な女の子の勇者騒動  作者: 国見炯
勇者騒動(完)
1/27




 私の人生といえば、ついてるのかついていないのか良く分からない。つまりは普通の人生だった。


 学校の成績は中。可もなく不可もなく。

 体育の授業も中。程よく中間。

 友達も派手でもなく地味でもなく、平々凡々を絵に描いたような学校生活だと思う。そんな私の平々凡々な人生に翳りが見えたのは高校受験の日。

 高校は余程の事がない限りは合格って場所を受験した。

 滑り止めは無し。私立を滑り止めに受けるのはもったいないし、私の後に続く弟妹の存在もある。滑り止めを受けた所で、私立の高い入学金なんて払いたくないしね。

 少し早めに家を出た。

 荷物はばっちり。自己確認は三回。身内の確認も三回。朝もしっかり食べたし、お弁当も鞄の中。

 ちなみに高校は徒歩圏内。

 考えすぎると失敗するという事を経験上嫌っていう程分かってた私は、晴れ晴れとした空を見ながらのんびりと歩いてた。

 良い天気。

 今日はきっと晴れそうだ。

 そんな私の前を歩くのはおばあちゃん。日傘を差してのんびりと歩いてる。

「おはようございます! 朝の散歩は気持ち良いですよね」

 にっこにこと笑顔を作りながら声をかければ、おばあちゃんがゆっくりとした動作で顔を上げたんだけど…。

「大丈夫ですか!?」

 顔面真っ青。

 空が青いんじゃなくて、おばあちゃんの顔が青かった。

 ぅぎゃーーー。

 悲鳴をあげてもいいですか? 

 いやいや駄目でしょ。朝が早い所為か人通りは無い。

 経費節減の為に私は携帯を持ってないからSOSも無理。

 悲鳴をあげてる暇なんかない!

 頑張れ私の筋肉!!

「捕まって下さい!!!」

 私と然程体格の変わらないおばあちゃん。

 おんぶして、ふんっと鼻をならして顔を上げる。

「すまないねぇ」

 息も絶え絶えの状態のおばあちゃんの声が聞こえる。

「大丈夫です! すぐ人通りのある場所まで行くので、安心して下さい!!」

 ずるずると、おばあちゃんだけは引きずらないように顔を上げて前を見つめて重たい足を動かしていく。

 頑張れ頑張れ私。

 おばあちゃんを座らせて人を呼びに行くという、今の時点で一番現実的な事は私の頭にはなかった。

 筋肉と体力を限界まで使い果たし、偶々自転車に乗って見回ってたお巡りさんを呼び止めた私の気力は、そこで限界だった。

 コテン、と間抜けな音をたてて頭からひっくり返った私。

 受身も何も取らないと、人は頭が重いから落ちるんだ。と実感する間もなく、ゴンッッと痛そうな音が響いた。

 さようなら私の意識。

 さようなら私の受験。


 うふふふふ。

 

 お布団暖かくて気持ちがいいなぁ。

 ゴロンゴロンといつまでも寝ていたいと思わせる、今まで体験した事のない心地よい布団。


「大丈夫かい?」


「んあ?」

 そんな夢見心地状態で聞こえた声。

「おばあちゃん!!」

 倒れる直前にお巡りさんに託したおばあちゃんの声に、私の意識は一気に覚醒しておばあちゃんを確かめる。

 顔色は良し。

 呂律も回ってない。

「良かったー」

 本当に良かった。

 へたへたと全身から力が抜けた私は、そのまま後ろへと倒れこむ。ぽすっと聞こえる音と布団に受け止められる私の身体。

「あたしは助かったけどね……あんたには申し訳ない事をしたよ」

「え?」

 心底申し訳ないといったおばあちゃんの表情と声。

「あー…」

 そういえば。

 そういえば受験だったよねー。滑り止め無しの本命一発挑戦。

「来年があるから大丈夫です!」

 しかーし、ここは前向きに行ってみよう。もしくは二次募集。本命より遠くなってレベルは落とすけど仕方ない。

 そんな私に、おばあちゃんは真面目な顔で私の両手を握ってくる。

「んん?」

「あんたが良ければ、あたしの経営する学校の入らないかい?

 勿論あんたは命の恩人だ。色々と考慮させてもらうからさ」

「ありがとうございますっ!」

 考える間もなく頭を下げた。

 こんな有り難い話しはない。

「おばあちゃんお世話になります!」


 けれど、もう少し冷静に考えていればと心底思う。


 平均的な私。

 十数年間それで過ごしてきた私は、平凡に慣れきって平凡のまま行くんだろうって思ってた。

 この時、冷静に考えていなかったばかりに今に続いたんだろうと思えば後悔しかないかもしれない。





「あらら~。ハルカちゃんどうしたの~?」

 窓際の一番後ろを陣取る私の元には、絶えず誰かが訪れる。

「別に…ちょっと眠たいなぁって思いまして」

「あらら。そんな遼ちゃんに飴をあげるわね~」

 人気者とかじゃない。

 別に苛められてるわけでもない。

「はい、お口あ~んして?」


 1学年1クラスのみ。

 ぶっとんだ仲の良いチート集団が集まる為だけに、建設され認可された学校。絶対認可の裏には取引があったであろう普通は何処いったと思う生活風景。

 男子の平均身長は180。

 女子の平均身長は165。

 男女共に容姿端麗頭脳明晰家柄最高。

 世間一般でいうチートだ。

 このクラスのチート集団は25人。学校全体で80人。

 ちなみに学生は81人。

 つまり、チートじゃない一般人の私を合わせて81人という事になる。


 チート80人と一般人(並)1人。

 勉強をやらせても普通。運動をやらせても普通。容姿も特筆すべき所はなく普通。そんな普通の私が貴重で珍しいらしく、何故か愛玩動物扱いをされているような気がしなくもない。

 これだけ劣る私に対して、本当に虐めは無い。

 仲の良すぎる繋がりが同じ学校に通いたいね!をコンセプトに作られた学校だけに、普通の学校みたいな渦巻くドロドロは驚くほど無いのだ。

 寧ろ他人と自分を比べる必要の無い方々。

 出来ない私を不思議そうに見てたけど、とある日に私の横を通りかかったお嬢様が私に飴をあげた事で事態は一転した。

 

 そこに美味しそうな飴があったんだもん。

 良い匂いだったんだもん。


「おいひぃ」


 貰った飴をフゴフゴと頬張る私をじぃっと見ているお嬢様。


「そんなに美味しいの~?」

「うん! すっごくすごく美味しいです。ありがとう!」

 こんな高級な飴初めて食べた感動をそのままにお礼を言えば、お嬢様が今度はチョコをくれた。

 人差し指と親指で挟んで私の口元に近づけるから、思わずぱくっと食べてモゴモゴと頬張ってまた頭を下げる。

「おいひぃです」

 にへらっと間抜け面を晒す私。

 美味しいものは幸せになれるのです。



 その件をきっかけに、何故か学校全体の愛玩認定を受けた気がするのはきっと、気のせいじゃないはずだ。

 まぁ…せめてもの救いは自宅通いが出来た事かな!

 一般庶民の感覚から離れまくってる学校に馴染むと、今後危ないからね。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ