それは0.1秒のこと ー短編集― 第2話
メジロのエピソードを母の会話で描いてみました。
第2話 メジロ
「突然、バンッって音がしたの」
久しぶりに帰った実家で、母が話したいことがあると言っていたので、私は黙って聞いていた。
「この前、玄関を開けて掃除をしてたらさあ、玄関から鳥が入ってきたの。そして家の中を飛んで行って、どうしたと思う?ベランダのガラス戸にぶつかってしまったの。ひどい音がして、本当にびっくりしたわ。掃除止めてそのガラス戸のところへ行ったら、メジロが倒れてたわけ。少し痙攣してた。もう、どうしていいか分からなくて、ああいう時に動物病院とか連れて行けばいいのかな。ともかく、あの時はお母さんも怖くって、触っていいものか分からなくて、そのままにしてた」
「するとね、動かなくなってしまった。かわいそうに。死んでしまったのよ」
「ずっと見ていると手のひらの中にすっぽり入るくらい小さくって、あの、目の周りが白くなっているでしょう。それを見てメジロだってわかったの。今、春でしょう。玄関あけていたから、間違えて入ったんでしょうね。かわいそうだったから、ほら、昔かったブランドのハンカチあるじゃない。それで包んであげたのよ」
「一晩タンスの上に置いていたのよ。もしかしたら息を吹き返すかもしれないって。でも、やっぱりだめだった。ハンカチの上からでも冷たくて、固くなってた」
「近くの公園へ行ってね、こっそり木の下に埋めて上げたのよ。ごみにして捨てるなんてかわいそうで」
「そしたら、不思議なことがあったのは、その後よ。あれから1週間した頃。ついこの間のことよ。ベランダに出て花に水を上げていたら、メジロが来たの。ベランダのあの、ちょっと高いところがあるじゃない、その柵のところに来て、きれいな声で鳴くわけ。お母さんがいるのによ?逃げないの」
「まさかと思ったわ。それで、ベランダから家に入ったら、私についてきたの」
「すると、家に入ってきてさ。で、あの、死んだメジロがいたところがあるじゃない。あの死に場所のところに行ってうろうろしているの」
「あれって夫婦なのかしらね。絶対そうじゃないとおかしいと思う。もう、ほんと、びっくりして、追い出そうと思ったけど、かわいそうじゃない。そのままにしていたのよ」
「しばらく居たわね…、5分もいたかな。満足したのか、また去っていったよ」
「言葉が分かるわけないんだけど、『ここにはいないよ。もう死んでしまったんだよ』と言ってみたんよ。それで分かって、もう諦めて外に出て行ったんかな」
「そのあとも、一度だけ、ベランダの柵に停まったのがいたけれど、同じメジロじゃないかね。その時は、お母さん家の中だったから、戸を閉めていたんよ。中に入るかもしれんから、開けずに、中から『もう死んだんよ』と言ったわ。それでもしばらくいて、きれいな声で鳴くわけ。なんだか、かわいそうでね」
「しばらく居たけど、飛び去って行ったわ。あれから来てないけれど」
「小さい鳥でも何か感じることがあったんかもね。ガラスにぶつかった時、あれも一瞬だったし、どうすればよかったんかと後悔したけれど、分からんけん、どうしようもなかったね。本当にかわいそうやった。あんなに小さいから、透明なガラスを見て勘違いしてぶつかったんやろう。体を痛めて死んでしまったんやわ。今度から玄関を開けっぱなしで掃除しないでおこうと思ったわ」
「でも、どうしてここで亡くなったって分かったのかしら。遠くからガラスにぶつかるのを見ていたんかな。そうでもせんと、中に入らんよね。もしかしたら生きてこの家にいるのかもって思ったんかなあ」




