王子様をキラキラさせるのが御役目ですわ!〜笑われて婚約破棄されましたが、背景演出師の私には必要とされて幸せになる輝かしい未来が待っていました〜
「君のような子供じみた恥ずかしい役目をしている女とは、結婚できない!」
――そう言った、婚約者のルビット様の隣では令嬢が笑っていた。
「殿下が国王となれば必要とされなくなる、未来のない役目だ」
信じたくなかった。私の誇りも居場所も否定されるなんて。
小さい頃、殿下をキラキラ輝かせて「凄い!」と笑顔になっていただいてからずっと、大切な御役目だったのに。
♢
「これからも私をキラキラさせてくれ!」
その一言で、私の人生は決まった。
王太子レオンハート殿下の“輝き”を演出すること。
それが、私――リュミエールの役目。
光魔法を使う“背景演出師”
殿下がバルコニーにご登場――
微笑んで片手をあげた瞬間。
星々のキラキラを散らす!
「あぁっ、レオンハート殿下!」
「今日もなんて素敵な輝きなの……!」
令嬢たちは、殿下の眩いばかりの姿に陶酔している。
――今日も完璧ですわ!
令嬢達の中に紛れて、一人満足した。
庭園で開かれるお茶会では、バルコニーとは違う演出もする。
殿下のウィンクに合わせて目元に小さな星を飛ばしたり、歯をみせて笑った時に口元に星を瞬かせたり。
キラリッ、キラーンと殿下は様々な形で輝きを放ち、令嬢達の視線を釘付けにしている。
殿下はこの小技を気に入られて、
「驚いたよ、リュミエール。私まで魅了された! 天才だよ!」
とキランキランと連続ウィンクと笑顔をくださった。
♢
「リュミエール、殿下がお呼びです」
お茶会も終わり、令嬢達が帰っていくなか、そっと声をかけられた。
ナハト・フォンセット侯爵様。金髪碧眼に白い軍服を着た殿下とは対照的に黒髪黒眼に黒いスーツを着た目立たない姿。
殿下の側近で闇魔法の使い手であり、私が密かに殿下にお会いするために目立たないようにしてくれる。
「今日の殿下も人々を魅了していましたね」
「ええ、日に日に素敵な王子様になっていきますわ」
歩きながらナハト様とはよく話をする。
今では、役目の合間の小さな楽しみになっている。
「私のような陰に居る者には眩しすぎるくらいですよ」
そう言いながら笑うナハト様。
陰に居るのが勿体ないくらい素敵な美しい方ですわ……
「貴女の光魔法はさすがだ、見惚れましたよ」
「ありがとうございます」
胸をドキリとさせるナハト様の眼差しと微笑み。
褒め言葉と共に心に残りそうですわ。
「そ、そうだわ、今度の夜会では、ナハト様の闇魔法のお力をお貸しいただけますかしら? 夜に殿下をキラキラと美しく輝かせるためにもっと工夫したいんです」
「ええ、いくらでもお力添えしますよ。私も殿下をキラキラさせる役目の一端を担えるなど嬉しいです」
ナハト様は本当に嬉しそうに笑ってくださった。
「ふふっ、私もナハト様と共同作業ができて嬉しいです」
心が弾んで楽しくて笑顔がこぼれる。
ナハト様は――不意に真剣な瞳を私に向けた。
「これからも御役目仲間として……貴女のために私は、全力を尽くしますよ」
「本当に、ありがとうございます……」
大切な御役目仲間――心強い方。
♢
「今日も見事だったよ、リュミエールのキラキラ魔法。素晴らしい使い手になったね」
殿下のお褒めの言葉と笑顔。
ナハト様とはまた違った美しさと魅了する力がある。
何よりキラキラしていて、
「ありがとうございます、殿下」
私に向けてくださることがとても光栄で、とても嬉しい!
「やはり、バルコニーはキラキラが最も映えるな」
殿下は目を閉じて思い返しながら満足そうに頷いている。
「キラキラ、私という王子、バルコニー、この三つのシンフォニーが見たこともない輝きを生み出す。いつも同じではない、天候、季節、時間、日によって輝きは変わる。それがまた美しい」
殿下のお言葉は、いつも私に新しい気づきをくださる。
「私の登場は国中で評判になっているそうだよ」
「さすがです! 殿下!」
私の自慢の殿下ですわ――
ふと、そんな殿下の優しい微笑みが私に向けられた。
「本当なら、リュミエールのことを皆に自慢したいんだが……」
「……私のことを考えてくださり、ありがとうございます。ですが、お気になさらないでください、殿下」
私の存在を公にしたいと言う殿下を止めてきた。
人知れず殿下をキラキラさせて、皆に殿下の素晴らしさを見せてあげたいと思っているから。
ナハト様達側近のように、陰の役目として務めてきた。
私の役目を知っているのは殿下と近しい人々と私の近しい人々だけ。もちろん秘匿事項にされている。
「私は名誉も賞賛もいりません、ただ陰に徹して、殿下をキラキラさせる御役目を続けていきたいのです」
「ありがとう、リュミエール。これからもよろしく頼むよ」
「はい! 殿下の微笑みをずっとキラキラさせると誓います」
「ふふっ、頼もしいよ」
子供の時と変わらない笑顔を交わせた。
幸せ――
そして、今は。
もう一人、キラキラさせたい人が居る。
私の婚約者様――!
♢
「ルビット様!」
「リュミエール……」
御屋敷に来た私を出迎えてくれたルビット様の隣には。
令嬢が寄り添っている――この方は、アリシア伯爵家のカトリーヌ様……
「ルビット様?」
どうして、そんな冷たい顔をしているの?
「リュミエール、今ここで君との婚約を破棄する!」
え――
「婚約破棄……?」
「そうだ。そして、このカトリーヌと婚約するよ。君とはこれきりだ、リュミエール」
「ど、どうして、急に」
呆然とする私を一瞥して、ルビット様は溜息をついた。
「どうして? 君のような子供じみていて恥ずかしい御役目をしている女とは結婚できないからだよ」
「子供じみて、恥ずかしい?」
クスクスとルビット様に寄り添うカトリーヌ様が笑い出した。
「殿下をキラキラさせる御役目ですって? 面白くて笑わずにはいられませんわ」
二人は声を立てて笑い出した。
「そ、そんなっ」
笑われるようなことは――!
「わかったか? リュミエール。君の御役目は人に笑われるようなものだ。私まで恥ずかしいよ」
ルビット様は恥ずかしそうに私から顔を背けて片手で顔を隠した。
そんな彼に寄り添って、カトリーヌ様は尚も私を見ながら笑っている。
「キラキラ魔法を使う貴女に何の輝きも魅力もないのが……何より滑稽ですわね」
完全に勝ち誇った笑みを浮かべてる。
ルビット様は何も反論してくれない、呆れたような嘲笑さえ浮かべている。
「わ、笑わないでください! 私はともかく……私の御役目は大切なものです! 皆さま、喜んでくださっているし、何より殿下が必要としてくれています!」
「あんなマヤカシを見て喜んでいるのなんて、小娘くらいだわ」
大人の魅力を放つカトリーヌ様は冷ややかに私を見下した。
「殿下だって、いずれ目を覚まされます。いつまでも子供じみた王子様のようにキラキラしてはいられないと。国王陛下となられる御方ですもの」
「そうだ。そうなった時に君は何の役にも立たない。何の魅力もない、ただの伯爵家の娘だ。君の夫となれば我が伯爵家も特別取り立てられると思ったが、当てにならないな」
「そんな……」
それじゃまるで、ルビット様は私の御役目しか見ていないみたい。
そして、カトリーヌ様と一緒に――
「待ってください、ルビット様! キラキラ魔法のことは秘密だと言ったはずです」
秘密は守ると約束してくれたのに。
「どうして、カトリーヌ様が知っているの」
「ああ、婚約者はどんな令嬢か聞かれて、ついな」
つい!? 教えたの?
「最初は自慢するつもりだったんだが。君の特別な御役目を凄いと思っていた、しかし、こうして先を見通せるカトリーヌと出会えて目が覚めたよ」
二人は微笑みあってから、私を見た。
キラキラする光に誘われてきた虫を見るみたいに。
「さようなら、リュミエール。私と婚約していたことも、殿下をキラキラさせていることも誰にも言わないでくれよ。笑われたら私まで恥ずかしいからね」
背を向けて笑いながら、お二人は屋敷に入っていった。
私の御役目のせいで婚約破棄……?
笑われて、恥ずかしい?
そんなことない――!!
信じたくない、けれど。
婚約破棄は悪夢ではなく本当に正式に行われた。
お父様とお母様も驚き、私と御役目の将来を心配している。
ルビット様だけでなく、いずれ、殿下も居なくなるの?
私の御役目はいずれ必要とされなくなる……
確かに、国王陛下はキラキラさせていないし。
殿下にその気がなくとも、国王陛下になれば必然的に、キラキラすることもなくなるのかもしれない。
そんなことになったら……
いいえ、もう殿下を……上手にキラキラさせられないかもしれない。
ルビット様、カトリーヌ様、嘲笑するあの方たちの見ているなかでこれ以上は……
ドレッサーの鍵付き引き出しを開けた。
中には一通の封筒がある。
隣国の王太子殿下がくださった置き手紙――
殿下は国に招かれていらした時に、レオンハート殿下のキラキラした姿に魅了され、キラキラ魔法の使い手である私を探しだされた。
「ぜひ、我が国に来てくれ。私をキラキラと輝かせてほしい」
そう密かに願われた。
私はレオンハート殿下の専属背景師ですからと、お断りしたけれど。
こうして、気が変わったらいつでも連絡してくれと、使者への連絡手段を残していかれた。
今の私には……必要なもの……
新たに隣国の殿下を……
「レオンハート殿下、御役目を降ろさせてくださいませ」
こっそり行くなんて出来なかった。
最後に、正面からお別れを言いたかったから。
「どういうことだ、リュミエール。なぜ、急に……」
殿下の顔がこわばって体が震えだした。
婚約破棄を突きつけられた時の私みたい。
ごめんなさい……
「お許しください、殿下。私は隣国に参ります。これからは隣国の殿下をキラキラ魔法で……もうこの国には居られません!」
♢
「隣国をキラキラさせるだと!?」
手紙を読んだ殿下は震えだした。
怒りの表情を見せたけれど、みるみる泣きそうになっていく――
「嘘だろう? リュミエール! 君のキラキラ魔法がどれほど重要かわからないのか!? 私が輝きを失い隣国の王子がキラキラしだしたらっ――!!」
殿下は頭を抱えて天を仰がれた。
「あああっ――」
それから、下を向いて嘆きはじめた。
「そんなにっ、殿下……私のキラキラ魔法がなくても殿下なら御自身の輝きでっ」
私は元々そうだった。
殿下の本来のキラキラした輝きに星々を足しただけ。
「そんなことはない! 私にとって、リュミエールのキラキラ魔法はなくてはならないものだ!」
殿下はキッとした瞳を見せた。
「誰にも渡さない! 隣国に行くなど許さない!」
「で、でも……」
「 隣国の王子は確かに美しいとか格好良いとか評判だが、だからって、リュミエールの輝きが似合うとは限らないんだからな!」
殿下は駄々っ子のようにイヤイヤと首を振っている。
「そもそも、どうしてそんな考えになったんだ? 話してくれ、リュミエール」
殿下の表情と声音が弱々しく優しくなった。
それで、私の心も弱々しくなって泣きそうになりながら。
ルビット様とカトリーヌ様の言ったことをお話すると。
殿下の顔は恥ずかしそうに赤くなっていった。
私の胸もドクリドクリと落ち着かない音を立てた。
「キラキラする私を、リュミエールのキラキラ魔法を、笑うものは許さない!」
断じると、殿下は私に悲しげな顔を見せた。
「すまない、リュミエール。君がどれだけキラキラ魔法を、御役目を大切に思ってくれているかはわかっている。辛い思いをさせてしまったね……私がもっと早く君の重要性を公にしていれば」
「いいえ、それを止めていたのは私ですからっ。殿下こそ、私のせいでっ……」
侮辱されるような目に遭わせてしまった。
それなのに、殿下は優しく微笑んでくださっている。
「リュミエール、もう彼らの言ったことは気にしないで。誰がなんと言おうと私は君のキラキラ魔法が大好きだし、必要としている。これからも変わらないよ。私の言うことを信じてくれ」
「はいっ……殿下、私もキラキラ魔法が大好きです! 殿下をこれからも変わらずにキラキラさせて差し上げたいです!」
私は両手を広げてキラキラ魔法を発動した。
今回は思い切り、想いをこめて。
殿下の全身を大きな星々が包んでいく――
「凄いよ! リュミエールッ」
キラキラのなかで私達はまた笑顔を交わせた。
それから、殿下は真剣で切実な顔になり私の肩を掴んだ。
「隣国にも行ってはいけないよ。君は私の専属背景演出師だ、いいね?」
「はい、殿下」
殿下の独占欲の前に抗う気は起きなかった。
嬉しさを感じたから。
「よかった!」
殿下はキラキラした目元の涙を拭われて、私の涙も拭いてくださった。
「よし、隣国の王子には諦めるように私から伝えよう。これで国の秘宝とも呼ぶべき魔法と使い手の流出は防げた」
秘宝とは大げさなようですけど。
大真面目に言ってくださる殿下が愛おしいですわ。
「近く開かれる夜会も予定通り、キラキラさせてくれるね?」
殿下の問いかけで思い出した。
大切な人の存在を――
「はい、殿下。今度の夜会では、ナハト様の闇魔法のお力を貸していただいて二人でキラキラさせたいと思っております。よろしいでしょうか?」
「二人でか、もちろんだ。待ち遠しいよ」
♢
秘密の練習部屋に行くと、ナハト様は変わらない嬉しそうな笑顔で迎えてくれた。
その顔を見た瞬間に、私も婚約破棄の前の気持ちに戻れて笑顔になれた。
「よろしくお願い致します、ナハト様」
「よろしくお願い致します、リュミエール」
二人で向かいあい、手を差し出す。
ナハト様の闇魔法が両手に広がり、私のキラキラ魔法が重なる。
闇の中で星々が輝く――
「美しいですわ」
「ああ、美しい」
思わず呟きあって、微笑みを交わしていた。
闇と星の範囲を広げ徐々に距離を取っていき、お互いの定位置で魔法を操ってみる。
魔法の予行演習の息はぴったりだった。
「もう少し、闇を濃くしてみようか」
「はい、星の輝きも強くしてみますわ」
ナハト様の真剣な様子を見ていると、今までにない使命感も生まれてきて、没頭できていた。
一人の時とは違う楽しさもあった。
休憩中、ナハト様をキラキラさせてみせて笑いあった。
「私では可笑しいですよ。やはり殿下でなくては」
「そんなことありませんわ、素敵です!」
「ありがとう、リュミエール……できればまた、貴女とこうしていたい」
ナハト様は可笑しそうに笑っているのに眼差しは真剣で、私をドキリとさせた。
「ナハト様、私のほうこそ、ありがとうございます。これからもお願い致しますわ……!」
二人だけの秘密の練習は、かけがえのない輝きに満ちて私の胸に残った。
♢
本番も不思議なほど完璧にできた。
夜会の開かれた城、明かりを落とした庭園。
キラキラと輝く殿下が主役だった。仄かな明かりの中、殿下の周りだけ闇がくっきりと星々を浮かび上がらせている。
殿下が歩く度にキラキラと星々がついていく。その後を、令嬢達が嬉しそうについていく。
「素敵……!」
「今宵の殿下、妖精の王子様のように輝いていらっしゃるわ」
その光景を、国王陛下と王妃様も会場から椅子に座り眺めていた。周りには貴族達が取り巻き見守っている。
私は令嬢達の中から、ナハト様は側近達とパーティー会場の柱のそばから見ていた。
目をあわせることはないけど、お互いの表情や呼吸までわかるようだった。
完璧ですわ――!
二人での御役目も無事にできた。
喜びと共に使命感が満たされていく。
♢
にこやかな殿下が会場のほうへやって来た。
さりげなく、私とナハト様に笑顔をくれて。
「いかがですか? 今宵の私は?」
殿下は会場の人々に問いかけた。
「素晴らしい輝きだよ」
国王陛下が微笑まれた。
「昼間の王子の輝きも目を見張るものだが、夜の幻想的な輝きもよいものだ」
「ええ、我が子ながら魅了されましたわ」
王妃様も微笑まれた。
「私は常々思っていますの。こんなにキラキラした輝きが似合う王子は他にいないと。今宵は特に美しいですわ」
「また、評判になるな」
「ええ、もちろん」
お二人の言葉に貴族達が微笑んで頷いている。
殿下も優雅に微笑まれてお辞儀をしてから、
「父上と母上もキラキラしてみてはいかがですか?」
突然言った。
私もナハト様も慌てなかった。
お二人に向ける仕草に合わせて、星々を移していく。
「おおっ、私達まで!」
「キラキラに!」
「はっはっは」
「ほほほっ」
会場中が楽しそうな笑いに包まれた。
ルビット様とカトリーヌ様だけが笑っていなかった。
♢
「キラキラは実に良いものだが、しかし、これは王子にこそ相応しい」
「ええ、レオンハート、貴方のものですわ」
お二人のお言葉と共に星々を殿下に戻すと。
「父上、母上、会場の皆、このキラキラとした輝きについて公に話したことはありませんでしたね」
殿下が改まった口調になった。
「私を輝かせてくれる、この星々は」
手で触れる仕草をしてから、
「あそこにいる、リュミエールの魔法です」
殿下の顔が私に向けられた。
「さぁ、リュミエール。こちらに来てくれ」
思いがけない事態。
私が注目されてしまうなんて。
だけど、殿下の意思を前にもう覚悟を決めた。
婚約破棄を招いてしまった秘密。
それを知った人々の反応は? 緊張が全身を包む。
会場中の視線を浴びながら、キラキラを消さないよう、落ち着いて歩く。
「改めて紹介致します。私の "背景演出師" リュミエールです」
隣に立った私に殿下は誇らしげな微笑みをくれた。
「彼女のおかげで、私の王族としての品格と美しさは輝きを増し、国内外でも評判の王子となれています――どうか、リュミエールに称賛を!」
会場に拍手がおこった。
「素晴らしい令嬢が居たものだ!」
「あの輝きはリュミエール様の魔法でしたの!?」
「なんて素敵な御役目……!」
私への称賛の言葉が飛び交い、キラキラした眼差しが注がれている。
この瞬間。殿下との子供じみた秘密が、大人の公然の契約になった。
「改めて、これからもよろしく頼むよ」
「はい、殿下」
誰も異議を唱えなかった。
国王陛下も王妃様も、誰一人。
予想外の事態に――
カトリーヌ様の顔が引きつっていた。
ルビット様はオロオロと周囲を見ている。
やがて、二人は会場の雰囲気に居たたまれなくなったのか、まるで逃げるように出ていった。
「殿下とリュミエール様、本当に美しいお二人ですわね」
「ええ、まるで星と夜空みたい」
その後も絶えない称賛が、心の傷も消していく。
私は自然と笑顔になれていた。
♢
夜会から数日後。
私は再び殿下に呼び出された。
いつもと違い、兵士達が控える重々しい空気の部屋。
ルビット様とカトリーヌ様が殿下と私の前に跪いていた。
「ルビット・デイル伯爵」
そんな二人を冷徹な表情で見ながら殿下が呼びかけた。
キラキラと輝きを放ちながら。
いつも通り輝かせてくれ――そうだな、裁きを下す天使のような輝きで頼むよ
わかりましたと言ったものの、こんな殿下を輝かせるのは初めてで。
いつもと違う緊張感がある。魔法に影響がないようにしつつ。
裁きの天使の御威光を殿下の背景に演出する――
「お前は、リュミエールのキラキラ魔法が原因で彼女と婚約破棄をした。間違いないな?」
「は、はい、それはっ……」
「カトリーヌ、君がルビットの目を覚まさせたそうだね?」
「それはっ、その……」
殿下の穏やかな口調と眩しい輝きを前に。
二人は言いしれない恐怖を感じたようで、口籠り震えながら顔を下に向けた。
「ルビット、カトリーヌ、お前達は、私のキラキラした姿を笑い者にし屈辱を与えた」
殿下の声は氷のように冷たくなり、二人を見下した。
星の輝きも鋭く冷たいものに――
「そ、そんなことは!」
「私は、殿下を笑ったわけではありませんわ!」
ルビット様もカトリーヌ様も顔を上げ急いで否定してから、殿下の輝きを恐れるように片手で顔を覆い眩しそうにした。
「私は、リュミエールのキラキラ魔法を笑っただけで」
「同じことだ。私をキラキラさせてくれているのが、リュミエールの魔法だからね」
殿下は、隣に立つ私の手を大事そうに握ってくれた。
私の手から生まれる星々が殿下を包む。
それを、ルビット様とカトリーヌ様は言葉を失い見ていた。
「ルビット・デイル伯爵、及び、婚約者のカトリーヌへの処罰を言い渡す」
殿下は冷酷に輝いたまま、羊皮紙を読み上げはじめた。
「デイル伯爵家は辺境の地イスキオスへ領地替えとする。婚約者カトリーヌは速やかに婚姻を結び夫となったルビットに着いて行くように」
ヒッと声にならない悲鳴を上げた後。
最初にルビット様が、縋るように前のめりに床に手をついた。
「そんなっ、辺境の地イスキオスといえば光届かぬ谷のそば! 犯罪者の流刑地にもなっている場所ではありませんか!」
「キラキラを笑い者にするという罪を犯したお前達には、お似合いだろう」
カトリーヌ様が縋るように前のめりになった。
「で、殿下も! 目を覚ましてくださいませ! キラキラ魔法などと子供じみたことだとっ……国王陛下になられる方に相応しいものは他にあるはずですわっ」
カトリーヌ様は大人の魅力を見せるためか、なおも媚びるように微笑みかけて小首をかしげてみせた。
けれど、殿下はフンと鼻を鳴らし、
「キラキラの背景がないと貧相に見えるな。たとえキラキラがあっても無駄かもしれないが」
感想をのべると、すぐさま顔をそむけられた。
カトリーヌ様は呆然と、殿下とキラキラを見つめた。
「殿下!」
ルビット様が前に這いずり出た。
「いずれ国王陛下となられたら、キラキラ魔法など」
「国王になったらか……」
殿下は未来を見るように遠くを見た。
そして、悠然と微笑えまれた。
「そうなったら、我が子をキラキラしてもらうよ。リュミエール」
「殿下の御子を?」
「ああ、子供は喜ぶだろうからね……」
キラキラ魔法を子供じみたと言ったカトリーヌ様を見下して殿下は告げた。
刺すような視線と輝きの眩しさに、カトリーヌ様は耐えられなくなったように泣き顔になった。
「殿下の御子……」
殿下に睨まれて震えるカトリーヌ様の隣で、ルビット様が呟やくと。
床に手をついたまま私を見上げて必死に笑いかけてきた。
「リュミエール! 君ともう一度婚約したい!」
「今さら、何をっ……」
ヒィッと悲鳴が出そうになるのを堪えて。
後ずさる私にルビット様は這い寄ってきた。
「君と私の子が殿下の子をキラキラさせる御役目をするんだっ」
この人は、名誉や出世のために子供まで利用しようとしている。
「ごめんなさい、ルビット様。私はもう貴方様と婚約する気も子供を作る気もありません」
キラキラ魔法と生まれてくる子供を守るために。
私は顔をそむけて、きっぱりと断った。
「そんな、リュミエール……今度は君を大事にする! キラキラ魔法もだ!」
ルビット様の弱々しい声音には後悔と絶望が滲んでいたけれど、もう本当に心には響かなかった。
私を裏切り秘密の約束まで破った。
そんな人の言うことなんて二度と信じない。
「これで、デイル伯爵の行く末は決まった」
殿下が冷徹に告げられた。
「別れも済んだな、もういいだろう。連れて行け!」
命令と共に、兵士達が二人を引き立てた。
「待ってください! 殿下、リュミエール! 」
「嫌あぁ! こんな男とは婚約破棄します! キラキラが好きです! 私もキラキラさせてくださいませ!お願いっ、許して――!」
「こっちこそ婚約破棄だ!私は最初からキラキラを称賛していた! カトリーヌ! お前のせいでっ、お前のせいで……!」
ルビット様とカトリーヌ様は互いを罵り合い喚きながら連れて行かれた。
「これで許してくれ。君を傷つけたことを、リュミエール」
静けさが戻ってから、殿下が私に顔を向けた。
キラキラのなかで悲しげで辛そう……こんな殿下はもう見たくない
「殿下、もうこれで充分です」
私の断言と笑顔を見て、ほっとしたように微笑んで頷いてくれた。
「君と私のキラキラ魔法はこれからも守っていくよ」
「ありがとうございますっ……!」
「これからも私と、私の子供をキラキラさせるということも引き受けてくれるだろうか?」
あっ、それも本気で――子供みたいに笑ってる。
「はいっ、光栄ですわ」
私達は未来の子供達を想像して、キラキラと笑いあった。
子供達――
婚約者を失った私には遠い話だけど。
殿下をキラキラさせる御役目を、そうして未来に繋げることができるなら嬉しい!
♢
「リュミエール」
「ナハト様……」
廊下に出ると、声をかけられた。
「馬車まで送ります」
「ありがとうございます」
今回の件、ナハト様は全てご存知。
いつもと違い少しの沈黙が間に流れている。
「伯爵と婚約者は、光届かぬ地に追放されても仕方ないな」
ナハト様は厳しい顔つきで言った。
「それにしても、リュミエールのキラキラ魔法の素晴らしさがわからないとは。御役目に徹している私さえ、魅了されてしまうというのに」
「ナハト様を魅了できているのはとても嬉しいですけど……私の魔法がまだまだなのかもしれませんわ」
馬車に乗せてもらってから、こっそりと両手にキラキラ魔法を出してみた。
小さな星々の輝き――
「もっと上手にならないと!」
「前向きですね。心が強く、リュミエール自身もキラキラして見えますよ」
「そんなっ、ありがとうございます……」
ナハト様にキラキラした瞳を向けられて微笑まれたら。
"リュミエールもキラキラして見える" その言葉を信じずにはいられなくなる。
「専属背景師でいられて本当によかったですわ……! 次は、殿下の御子をキラキラさせる新たな御役目も賜りましたし」
「……よかった。貴女が居なくならないとわかって本当に」
「ナハト様?」
ほっとしたような微笑み。
真っ直ぐな眼差しは、今まで見たどんな星より強く輝いていて、私を惹きつけて魅了した。
「リュミエール、君が伯爵と婚約したから諦めて幸せを祈っていたんだが」
ナハト様は私の手を取った。
「彼との婚約が無くなったなら、私と婚約してほしい」
「ナハト様……!」
「「令嬢達に紛れて、一人満足そうに笑う貴女を見ていた。貴女は既に眩しいほど輝いている。だが、私の手でも、キラキラ魔法は使えなくても、貴女をキラキラさせたいと思っている。どんな方法を使っても!」
――――こんなに熱い想いを持っていてくれたなんて。
陰に徹して隠していらしたのね。
こんな方がそばに居てくれたなんて気づかなかった。
ルビット様の飾りたてたどんな言葉より、胸に響く。
「ナハト様……ありがとうございます……喜んで婚約いたしますわ」
私は、ナハト様にこうして隣にいてほしかった。
キラキラ魔法のおかげで大切なものを見つけられましたわ。
♢
「お母さまっ、見てください! キラキラ~~!」
侯爵家の屋敷の庭園。
私とナハト様の息子ルークが手を差し出してみせた。
「まぁっ。上手ですこと!」
太陽の光にも負けない、星々が輝いている。
「小さなキラキラ魔法の使い手さん」
こう呼ぶと、ルークは嬉しそうに笑う。
「ルークも素晴らしい使い手だな。お父様もキラキラさせてくれ」
「はいっ、キラキラ~!」
ルークを抱くナハト様も小さなキラキラに包まれた。
とても綺麗で尊い輝きですわ――
「国王陛下も、王妃さまも、ルークがキラキラさせますっ」
「まぁ、凄い!」
「凄いぞ!」
「エトワール王女さまも。契約を交わしました "いい? 私だけをキラキラさせる御役目よ"って」
もう子供同士で専属契約を結んだみたい。
この国の王子様やお姫様だけの特別な背景は受け継がれていく。
「凄いわ、ルーク。だけど、お母様だって!」
愛する人達をこれからも――
キラキラさせて差し上げますわ!




