①出会い
私の名前は、マティルダ=ヴァルデン。
ヴァルデン伯爵家の長女として生まれた私は、物心ついたころにはもう、
自分が「恵まれている側の人間」だってことを、はっきり自覚していた。
ヴァルデン領には、広大な平地とそれを取り囲むように広がる雄大な鉱山がある。
冬でも黒くそびえる切り立った岩山。
山肌にいくつも開いた坑道からは、昼も夜も、鉱夫たちの歌声と、
鉄を打つ、鈍く重い音が響きつづけていた。
地の底から掘り出された鉄鉱石や、貴重な金属鉱石は、
鋳造所や工房へ運ばれ、火と鋼の匂いをまといながら、
武具や精密な機械部品へと姿を変え、領地を支える「力」になっていく。
鉱石が鉄に、鉄が剣や歯車に変わるときに散る火花と、肌を刺すような熱。
そこで鳴り響く鎚の音こそが、この領地の「心臓の鼓動」そのものだった。
朝になれば、鍛冶商会の大きな看板が風にきしむ音がして、
武器を山ほど積んだ行商人の馬車が、石畳を一定のリズムで走り抜けていく。
皮と鉄と油が混ざった、少しむせかえるような匂いが通りを満たし、
工房のある街のにぎわいは市場へ流れこみ、
やがては貨幣と帳簿の数字の波となって、領内と他国を行き来していく。
商人たちの持つお金とコネは大きく、自然と金融も発展した。
石造りの重厚な銀行の本店や支店。
その扉を出入りするのは、上質な布の服を着た行員たち。
腕にかかえた分厚い帳簿と、夜更けまで灯りの消えない商館の窓明かり――
――それらすべてが、ヴァルデン家の影響力と、
長い時間をかけて積み上げてきた信用を、何より雄弁に物語っていた。
伯爵家は代々、鉱山の権利と関税、そして金融収入を土台に、
治水や交易路の整備、軍備や技術開発に、惜しまずお金をつぎこんできた。
山の細い獣道は、荷馬車がすれ違える立派な街道になり、
川には堰や水門が築かれ、鉄と石で組まれた橋が架けられていく。
そうして続けてきた投資は確かな実を結び、その結果として、
ヴァルデン家の経済力は、ただの一領主の個人資産をはるかに超えた。
今では、「ひとつの小国」にも匹敵する――そう評されるほどに。
だから、私の世界では、何もかもが最初から「スケールが大きい」のが当たり前だった。
屋敷には、数えきれないほどの召使いたちが仕えている。
朝夕の身支度を整える侍女、話し相手を務める者、学問の面倒を見る家庭教師。
庭仕事を取りしきる管理人、料理を統括する調理長、家全体をまとめる執事――
――彼らは、私の生活の細部にまで目を配り、
私が望めば、食卓にはいくつもの料理が並ぶのが「日常」だった。
庭先には、母の趣味である広い庭園が広がっている。
毎日のように手入れされて刈り込まれた生け垣と、
季節ごとに植え替えられる花々が、色とりどりに咲きほこる。
図書室の棚には、大陸中から集められた本がぎっしりと詰まっている。
最新の魔法理論の専門書から、遠い国々を旅した紀行文、
古くから語り継がれてきた英雄譚まで、なんでもそろっていた。
屋敷の一角には、武術や魔法の稽古場があり、
離れには、何百頭もの馬を収容できる巨大な厩舎がある。
祝い事や式典のときには、音楽団や劇団を他国から呼び寄せ、
広い舞踏室を開放して、盛大な祝宴を開く――
そんなことが、特別でもなんでもなく、
「ヴァルデン家のいつもの光景」として、当たり前のように繰り返されてきたのだ。
そしてそれが、私――マティルダ・ヴァルデンにとっての、「当たり前の世界」だった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そんな私が、十四歳の誕生日を少し前にひかえたころのこと。
宝石もドレスも、もう十分すぎるほど持っていた。
似たような細工の首飾りや、ちょっと色が違うだけのドレスが増えたところで、
正直、もう胸はときめかない。
だから私は、めずらしく自分から父にわがままを言った。
――今までに見たこともないような、「特別なもの」が欲しい、と。
それを聞いた父は、すぐに商人や鑑定士たちへ命令を出し、
各地の市場やオークション、さらには冒険者ギルドにまで、片っ端から声をかけさせた。
そして、数日後。
「ダンジョンの奥から、冒険者が持ち帰った特別な宝を手に入れた」
との報告とともに、重々しく包装された箱が屋敷に届いた。
私の部屋に運びこまれたその箱は、黒檀のような、つやのある黒い木で作られていて、蓋の合わせ目には、魔力封印と盗難防止の刻印が何重にも刻まれていた。
魔法の触媒としても優秀そうなその刻印を、私は思わず食い入るように見つめてしまう。
「封印の解除は私がいたします」
執事長のハンネスが、鍵と封印を慎重に解き、蓋を静かに押し上げる。
その瞬間、箱の中から、ひやりとした空気が一筋、部屋の中へと流れ出た気がした。
蓋の内側に敷かれた、深い紺色のビロードの上に――それは、静かに置かれていた。
琥珀色の魔石がはめこまれた指輪。
光を受けるたびに、宝石の内側で淡い模様がゆっくりと渦を巻き、
その輝きは、ただの装飾品というより、何かの「目」がこちらをのぞいているような、
不思議な存在感を放っていた。
指輪がそこにある――ただそれだけで、部屋の空気が少し冷たく変わったように感じる。
ふだんは冷静なハンネスですら、わずかに息をのんだ気配が伝わってきた。
そばに控える侍女たちは、こわごわと、それでいて憧れをにじませた視線で指輪を見つめている。
私の胸は、久しぶりに抑えきれないほど高鳴っていた。
こういう“力ある品”を好むのは下品だと誰かに言われようと、欲しいものは欲しい。
これは――私が身につけるべき「運命の品」だと、本能がささやいた。
軽くあごをしゃくると、侍女が白いハンカチで指輪をそっと包み込むように持ち上げ、
両手で大事そうに、私の前へさし出した。
琥珀色の魔石は、近くで見るとさらに深い金色に輝いている。
私はそれを受け取り、手のひらの上にそっと乗せると、片手でかんたんな検査魔法を発動した。
魔力干渉、呪詛刻印、精神支配系の罠――
ごく薄い魔力の膜を指輪の表面に這わせ、怪しい反応がないか確かめていく。
(……よし。“罠”の類は仕込まれていないわね)
確認を終え、私はためらいなく、左手の人さし指にそれをすべりこませようとした――そのとき。
腕の内側を、あたたかい何かが、するりと走り抜けたような感覚がした。
皮膚の上ではなく、もっとずっと奥。
血管の中か、あるいは骨の髄をなでられたような、
これまで一度も味わったことのない、奇妙で不気味な感触。
「……っ」
(……今のは、なにかしら?)
思わず、眉間にしわが寄る。
「マティルダ様?」
すぐそばの侍女が、不安そうに声をかけてくる。
私は左手を胸元に引き寄せたまま、もう片方の手をひらひらと振って制した。
「大丈夫よ。下がっていいわ」
声だけは、いつも通りの冷静さを装う。
それから視線を横に流し、部屋のすみに控えている使用人たちにも、
少しだけ鋭いまなざしを向けた。
「皆もよ。あとは一人で確かめるわ。……邪魔はしないで」
侍女たちはあわててスカートの裾をつまみ、一礼して退室していく。
執事長ハンネスも、しばし私の顔色をうかがうように見つめたあと、おそるおそる口を開いた。
「まだ日が高うございますゆえ、せめてマティルダ様の専属侍女だけは、傍らに控えさせていただけませんでしょうか」
その申し出に、私は軽くうなずいた。
「――ご配慮、感謝します」
そう、執事長は言い残して深く一礼し、部屋を出ていった。
重い扉が静かに閉まり、音が消えたころ、部屋には私と侍女だけが残った。
――そんなことより。
外見だけはいつも通りに見せていたけれど、その内側では――
見慣れない魔力の渦が、静かに、でもはっきりと回りはじめていた。
最初に気づいたのは、魔力の「質」の変化だ。
いつもの自分の魔力とは、明らかに違う。
とがったところもクセもなく、やわらかくて、ほんのりあたたかい。
それでいて、山の清流みたいに透きとおって、こわいくらい静かだった。
私の魔力は、本来もっと荒くて力強い。
大地を揺らし、岩を砕くような、重くて硬い流れのはずだ。
なのに今、全身をめぐっているものは――
その荒々しさをどこかに置いてきたみたいに、きれいに整えられた、「別物」としか思えない魔力だった。
(……これが、ダンジョンの宝の力?)
「ダンジョンの宝は、持ち主の潜在能力を引き出す」
そんな噂話が、初めて“実感”として腑に落ちた気がした。
体の中の魔力の通り道ひとつひとつが、内側から細い指でなぞられているみたいにくっきりして、ふだんは意識もしない細い経路にまで、ふっと明かりが灯っていく。
――これが、「力の覚醒」というものなのだろうか。
指先の感覚や魔力の流れをひと通り確かめたあと、
外見にも何か変化が出ていないか確認するため、私は鏡台の前へ歩み寄った。
姿見の前に立ち、少し首をかしげて、自分の顔をのぞきこむ。
見慣れた碧眼。
金の髪も、乱れなくきちんと整っている。
外側はいつも通りの、私――マティルダ・ヴァルデンだった。
――その瞬間。
『おっす、マティルダ! 元気!?』
頭の中に、まったく知らない女性の声が、いきなり響いた。
鼓膜は震えていない。
それなのに、「聞こえた」とはっきり分かる。
甲高くて、落ち着きがなくて、息つぎもろくにしないでしゃべり続ける、聞いたことのない調子の声。
『うわー、実物ちょー綺麗。こんな人間いるんだ〜!』
軽いのか本気なのかよく分からない感嘆のあと、すぐに続きが飛んでくる。
『近くで見ると、お肌めっちゃ綺麗だね。
ああっ! こんな細い腕なのに、なにこの完璧スタイル!』
『ずるい、こんな不公平、断じて許せない!!』
頭の中で、見知らぬ女の子が、勝手に私の体を品定めしながら騒いでいる。
頬の筋肉が、ぴくりと引きつる。
私は、喉の奥で小さく息を鳴らして、自分の声帯の振動を確かめた。
返ってくるのは、いつもと変わらない、よく通る冷たい声。
姿も乱れていない。
表情も所作も崩れていない。
そこに立っているのは、誰が見ても「完璧な」私自身。
けれど――
私の体を、知らない誰かの声が、好き勝手に評価している。
(……“異常事態”ね)
即座に、そう結論づけた。
「ハンネス!」
思わず声が出て、執事長の名を呼ぶ。
部屋の外に控えていた見張りの兵が、すぐさま廊下を走っていく足音が聞こえた。
ほどなくして、重い扉がノックもそこそこに開き、
「マティルダ様、いかがなさいました?」
執事長ハンネスが、数人の使用人を連れて、少し早足で入ってくる。
けれどその間も、私の頭の中では、さっきの声がきゃあきゃあと騒ぎ続けていた。
『うわ! 執事さんも渋くていいね!? この屋敷、美男美女しかいない感じなの。
めちゃくちゃ眼福なんだけど!』
「ハンネス!」
私はもう一度、今度は少し強めに彼を呼んだ。
室内の視線が、一斉にこちらへ集まる。
サッと近づいてきたハンネスに、声の大きさだけは抑えながら問いかける。
「今、女の甲高い声が聞こえたかしら?」
初老の執事ハンネスは、一瞬だけ目を細め、それから静かに首を振った。
侍女たちや、彼が連れてきた魔術師や役人にも視線で問いかけるが、皆、顔を見合わせたあと、同じように首を横に振る。
(……やはり、私だけ)
さっきから全身をめぐっている、いつもと違う、柔らかく温かな魔力の感触だけが、今起きていることが勘違いではなく、現実であり、しかも“異常”だと告げていた。
危険の可能性があるなら、まずは隔離。
異常事態への初動としては、それが基本。
私はためらわず、左手から指輪を引き抜き、そのまま床へ投げた。
カラン、と硬い音が、広い部屋に乾いて響く。
数人の侍女が、小さく息を呑んだ。
私はすぐに魔力を立ち上げ、防御魔法の詠唱に入ろうとする。
精神防御と対呪詛の複合結界――
その術式を頭の中で組み上げかけた、その刹那。
『ちょっとまったーーー!! いきなり何するのよ、こんな展開聞いてないんだけど!』
甲高い声が、私の思考のど真ん中に飛びこんできた。
私の急な行動に、部屋の空気は一気にざわつく。
侍女たちの手元にも、わずかな乱れが出はじめる。
けれど――頭の中の声だけは、その緊迫した空気とはまるで無関係に、無邪気に続いていた。
『私は怪しいものでもないし、危険でもないから、とりあえず話を聞いてよ〜』
『“成仏”しちゃうかもよ? ねえお願い、聞いてってば!』
(“成仏”……?)
聞き覚えのない単語。でも、なぜか胸の奥がざわつく。
警告か、脅しの一種か。
床に転がる指輪をにらみつけながら、私は改めて状況を整理した。
指輪が罠である可能性は、まだ消えない。
けれど、ヴァルデン家に届く品はすべて、屋敷に運びこまれる前に、何度も鑑定と検査を受けている。
もし誰かが悪意を仕込んだうえで、「声を発する仕掛け」まで後から埋め込んだのだとしたら――
かかる手間も、途中で見つかる危険も、あまりに大きい。
(干渉系、あるいは精神系の魔術付与の“起点”として、指輪が利用された。
……幻覚や幻聴を誘発する類いの可能性もあるわね)
まずは防御結界を優先して展開し、外部からの干渉を遮断すべき――
そう判断しかけたとき、ハンネスが一歩前へ出て、低い声で私を制した。
「お嬢様。差し出がましいようで恐れながら、いきなり魔法を行使なさるのは危険かと。
もし罠付きの品であれば、破壊や封印、それから魔力の発動そのものが“起動条件”であることもございます。
どうか、まずはご冷静に」
(……なるほど。私が魔術を使おうとしたのを見て、「攻撃か封印系だ」と判断したのね)
私はふだんから、外に向けて魔法を使うときは、わざと詠唱や動きをあいまいにしている。
どの属性・系統を使ったのか、簡単には読ませないためだ。
そのせいで、今のハンネスには「何か強力な魔法を使おうとしている」としか見えなかったのだろう。
彼の言葉に、「まず落ち着いてほしい」という空気が、部屋全体に広がる。
私はひとつ、深く息を吸いこんだ。
胸の奥に渦巻く不快感と、逆立った魔力を、呼吸と一緒に押し流し、無理やり理性を前に引き出す。
(……そうね。まだ、指輪から明確な害意や敵意は感じない。ここは一度、冷静になるべきかしら)
感情より、状況整理を優先する。
体内の魔力への未知の干渉と、その発生源と思われる指輪。
それから、私にだけ聞こえる謎の女の声。
『……ねえ、私はほんとに危険じゃないって。むしろ“助けに来た側”なんだけどなあ。
それに、壊したりしたら呪っちゃうんだから』
相変わらず調子は軽いけれど、中身は冗談ですまない。
その言葉に、背筋をひやりと冷たいものが走る。
さっきからこの声は、こちらの行動と考えを、きちんと理解したうえで返事をしている。
今のところ、意識を乗っ取られている感覚はない。
けれど、「他人の知覚」が内側に入りこんでいることだけは確かだ。
――私の思考を読んでいる可能性も、十分ある。
試しに、心の中だけで問いかけてみる。
(あなたは誰?)
……だが、返事はない。
(通じていないのか、わざと無視しているのか……今はまだ判断できないわね)
ならば、確実にできる対策から進めるしかない。
頭の中の声は、さっきの騒ぎから少し落ち着いたのか、明るいトーンで続けた。
『ようやっと落ち着いた〜。いやー驚かせてごめんね!』
(……何をのんきなことを言っているのかしら)
心の中でだけ冷たくつぶやきながら、顔には出さず、
部屋の中に向かって、はっきりとした声で言う。
「――皆、落ち着いて聞きなさい」
ざわめきが、すっと引いていく。
視線が再び私に集中し、空気がひとところへ集まるのを、肌で感じた。
ひと呼吸おいて、状況と命令を、短く告げる。
「今、私の身に“異常な魔術的干渉”が発生している可能性が高いわ」
「干渉者は、私の“視覚”と“聴覚”を通じて情報を集めていると考えられる。
各自、軽はずみな発言は慎みなさい」
静かに、それでいて一語一語を区切って告げる。
私はハンネスへ向き直り、続けた。
「ハンネス、緘口令を敷きなさい。
ここにいる者は――この件が外に漏れた場合、屋敷全員の責任とする。
漏洩が分かった時点で、違反者には相応の処分を行うわ」
侍女たちは表情を変えまいとしているが、膝の角度や、トレイを支える指先に、わずかなこわばりが浮かぶ。
張りつめた緊張が、所作の端々ににじみ出ていた。
ハンネスは深くうなずき、低い声で命令をなぞる。
「畏まりました。――この場にいる使用人全員に命ずる。本件に関する一切を口外無用とする。違反は、ヴァルデン家への反逆と見なす」
廊下に控えていた見張りが、扉をさらにしっかり閉める音がする。
そのタイミングで、頭の中の声が、少し言い訳がましい調子でつぶやいた。
『だからね、私はそんなヤバい存在じゃないってば〜!』
『とりあえずさ、私の話を聞いてみてよ? きっと“面白い話”、してあげるから!』
その軽さに、胸の奥を苛立ちがかすめる。
けれど、感情より先に、計算が動いた。
(その無邪気さが本心か、演技かは分からない。けれど――まずは“謎の声”について情報を集めるのが先決ね)
今は、相手のペースに乗せられるわけにはいかない。
侍女の一人に指輪をはめさせて反応を見る方法もある。
でも、正体不明の存在が相手なら、巻き込む人数は最小限に抑えるべきだ。
情報が広がることは、そのまま「敵」になるかもしれない。
優先すべきは、正確な現状把握。
そして同時に――すでに私自身の思考が“誘導”されている可能性も、頭に入れておく。
深く息を吐き、表面だけは冷静さを保ったまま、さらに命じた。
「ハンネス。お父様に現状を伝えて、すぐにここへ来ていただいて。
それから、医師と魔術師も手配しなさい。私の状態を、専門家に診させるわ」
「人払いもする。関係のない者は直ちに退室を。とくに侍女は、この部屋に近づけさせないこと」
「そして――指輪と箱には、誰も触れてはだめ。厳重に保管する準備を整えなさい」
「畏まりました。直ちに」
私の一言ごとに、屋敷全体の緊張がじわじわと高まっていくのが分かる。
侍女たちは一礼して下がり、必要最低限の者だけを残して、静かに部屋を出ていった。
足音が遠ざかり、扉が閉まる音がいくつか重なったあと――
室内には、私と数人の護衛、それから記録係だけが残った。
私はその様子を見ながら、胸の内側で、何かがぽろりと崩れ落ちるのを感じていた。
ほんのさっきまで、十四歳の誕生日祝いの「特別な贈り物」だったはずの指輪が――
あっという間に、屋敷全体を巻きこむ「危険物」へと変わってしまった。
胸のどこかが、きしり、と小さく鳴る。
その、かすかな痛みを知ってか知らずか――
頭の中の声が、小さくつぶやいた。
『大事になってきちゃったな……どうしよ……』
さっきまでの軽さとは少し違う、弱気な声。
叱られる前の子どもみたいな、不安と後ろめたさが、そこには滲んでいた。




