飛行機雲の聖域
掲載日:2025/10/19
飛行機雲はこの世界を操っていた。今日も『聖域』は世界の中心で神々しく輝いている。先端が尖った白い三角柱。そこには禍々しくも美しい模様が描かれている。全人類は毎日その方角に祈りを捧げ、聖域の上空に現れる飛行機雲の色に合わせて感情を顕にする。赤色なら怒り、黄色なら笑い、青色なら泣く。そうすることで、いつか聖域の恩恵をこうむることができると信じていた。しかし、私だけはその真実を知っていた。聖域の深部には、柔らかな光を吐き出す投影機がひとつ、静かに息づいている。飛行機雲は、その光によって染め上げられていた。いつ聖域ができたのか。なぜ人々はそれに従うのか。聖域の恩恵とは何なのか。それらを知る者は、どこにもいない。けれど人々は、聖域の美しい景観とその上空に現れる神々しい飛行機雲に本能的に見惚れてしまう。それに抗うことができる人間は、世界を見渡しても私だけのようだ。私は今日も雲を突き抜け、聖域の上を旋回する。それがただの空虚だと知りながら、光を求めている。私はそうすることで恩恵をこうむると、なぜか信じていた。




