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妄想と演繹 ~私の推論によれば、この村は明日滅びます~  作者: 松下村塾
第一章 妄想の始まり

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第四話 少女邂逅

 今一度、黒衣の変人がいないか確認するため、消えていった方向へ歩みを進める。


「本当に……俺の気のせいなのか?確かに見えたんだが。」


 考え、家と家の狭い空間にも目を凝らしながら歩いていると、何かにぶつかる。



――「きゃっ。」


 馬車から女の子が降りてきたことに気づかずに、よそ見していた燧輝は正面からぶつかる。

 女の子の声だ。さっき出会った少女よりは年上だろうが、俺より2歳ぐらい若そうな感じだ。


「ごめんなさい!」


 とっさに謝罪をする彼女に、黙ったままにはいかない。


「大丈夫ですか?」


 燧輝は右手を差し出す。彼女は差し出した手を見ると、無表情に――


「いいえ。結構です。」


 と言われ、俺の神聖なる右手は、言葉に弾かれる。なんかまずかったのか?


――彼女の見た目は、この村には合わない、綺麗な白い衣に身を包み、他では見ないような宝石のイヤリングやネックレス。そのすべてが、美しい蒼で、髪もその目でさえも、蒼い宝石を埋め込んだかのように美しかった。


「あなたは、どうしてここにいるのですか?」


 それは俺が聞きたいことだ。

 しかし、その蒼天がごとく美しい目と髪に見ほれる燧輝は何も答えられずにいた。


「申し遅れました。私はアイラ。導く者。」


 この世界では二つ名みたいなのがあるのだろうか。


「こちらこそ。高貴なお方に名乗らず申し訳ございません。」


 サフィアにもやった自己紹介したら、流石に引かれるかな……。


「お初にお目にかかります、アイラ様。僕は、小糸燧輝と申します。どうぞスイキとお呼びください。以後お見知りおきを。」


 皇族の可能性も考慮して、丁寧にしておいた方がいいだろう。


「そこまで紳士的に、ありがとうございます。ですが、そこまでの丁寧な挨拶を、貴方のような方ができるなんて、変ですね。」


 なにか、強く誤解されているような気がする。


「ええと……具体的にはどのあたりが変なのでしょう?」


 思い出すようなそぶりで、蒼宝を瞼で隠す。


「例えば、さきほど私に手を差し伸べてくださいましたよね?」


 無残にも砕け散った右手を悼み、左手が今も泣きわめいている。


「そうですね。」


「先ほどのようにふるまえる方なのに、私……いえ、会っていきなりの女性に対してあのような素行は矛盾しています。」


 ん?どういうことだ?増々わからなくなってきたぞ。

――とりあえず、わかったふりでもしておくか。


「申し訳ありません。反省しております。以後、二度と同じ素行を繰り返さぬよう心に留めます。」


 謝罪三種の神器。謝罪、反省、改善の意思。これがあれば大抵は大丈夫。


「わかったならいいんです。スイキさん。」


 初めてこの世界で呼ばれるその声は、宝石のように透き通る、綺麗な声だった。


「それでは、貴方とはまたどこかでお会いする気がするので……ここで失礼します。では。」


 一瞬の瞬きのうちに、アイラはどこかへ行ってしまう。


「めっちゃタイプ。というか、すごく好き。」


 独り言が周りに聞こえたのか、周囲の人は変人を見る目で通り過ぎていくが、燧輝にとってはすでにそれは常態と化していたようだ。


「あの子は”導く者”?って言ってたかな。勇者でも導いてるのかな。」


 自分はただの妄想狂らしいから、そんな大層な”勇者”なぞにはなれない。それに、仮にこの時代に勇者が存在するのだとすれば、魔王が存在するというロジックが成立しかねない。それは困る。大変困る。

――魔王なんかいては、すぐに死んでしまうじゃないか。


「絶対に、勇者なんかこの世にいてほしくないね。魔王がいても倒しに行ってくれるならいいけど。」


 そんな願いはすぐに打ち砕かれる。


「おい、魔王はいるぞ。」


 は?ふざけたこと言ってんじゃねえ。と言おうと声の主を探す。


「あれ、どこいるんだ?」


 このパターン。また三次元方向にいるパターンか。


「発見!」


 見つけたのはサフィアだった。


「きしょいからそれやめろ。」


 相変わらず憎まれ口をたたく調子のいいやつだ。


「それで、ようやく何か頼みたいことでもできたのか?」


 サフィアは家の屋根から降りてきて、腕を組んで仁王立ちする。


「お前は、勇者なんかになりたいのか?」


 その青い瞳は、さっきのアイラとは違い、なにか黒光がさしている。


「なれるわけないだろ?勇者ってどうせ、イケメンで、剣さばきがすごくて、魔法もできて、みたいな最強キャラみたいなやつで、俺は妄想力しかないからなー。」


 と頭で構築した勇者像を並べてみるが、サフィアはきつい目をしている。


「ふん。あんな奴はどうせろくでもないよ。どうせ、みんなを助けるとか言いながら、そんな自分に酔いしれてたんだ。」


 どうも勇者に対して突っかかりの多い子だ。それに、まるで勇者のことを知っているような口ぶりだ。


「なんだ?勇者に親でも殺されたのか?」


 サフィアは硬直し、瞳の黒光が大きくなる。

 勇者に親が殺される。400年前の話だし、あるはずがないと冗談のつもりで言ったが、少しセンシティブだったことに思い至る。よく考えれば、勇者が魔王を倒しに行ったせいで亡くなった命もあったのかもしれない。


「ごめん。今のなしで。」


 真面目な表情で謝罪する燧輝に、皮肉顔のサフィア。


「別に。勇者なんているんだったら、この世界はもっと良くなってるはずだし。」


 確かに……。勇者が魔王を倒したのだったら、すでに魔王はいなくて、平和になっているはずだ。しかし……


「本当に魔王はこの世界にいるのか?」


 再度サフィアに問う。


「いるよ……。歴史上では、400年前に魔王を討伐したとされる勇者が、この村に帰ってきた。」


「だから勇者像があるわけね。」


 俺の反応に、少しの嫌悪感を示す。俺に対して……か?


「けど、その数十年後にまた現れた。」


 なるほど。周期的に現れるタイプの世界設定なのかもしれない。しかし、400年も放置とは……。


「その間、勇者は現れなかったのか?」


 サフィアは両手を広げて、わからないとでも言いたげな表情だ。


「勇者と呼ばれるには条件が厳しいんだよ。」


「条件なんかあるの?王様に認められるとか?」


 腕のバングルを突き出して、見せてくる。


「違うよ。まず、勇者自身が、ステータスすべてカンストしてること。今、私がつけてるバングルの宝石も全部光ってたって話だよ。」


 全能力カンスト?最強すぎて魔王フルボッコにできるんじゃないか?それはそうと、そんな奴が400年前にいたということが驚きだ。


「で、400年前の勇者は全能力がカンストしていたと……。」


 サフィアはうなずく。


「二つ目が3人以上の仲間がいること。」


「勇者一人で十分では?だって最強じゃん。」


「一人じゃ無理な魔物もいるんだ。だから仲間は必須なの。」


 ほぇ。


「最後は、全員生き残って帰ってくること。これが条件。だから、旅立ちと帰還の時は議会の承認が必要なんだ。」


 議会の承認?なんだ?国が関わってるのか?


「なんで議会の承認なんて必要なんだ。」


「さあ、国の権威のためとかじゃないの。」


 まぁ。そうだろうな。この世界でも国同士のかかわりはあるだろうし。


「それで、それとお願いに何の関係があるんだ?」


 本題に入るのに随分と遠回りしているが、本当にお願いとやらはあるのだろうか。


「あのさ。人がちゃんと経緯から説明してあげてるのに、早速本題に入るってのはないんじゃない?」


「それはそれは。サフィア様申し訳ありませんでした。」


 燧輝の丁寧な謝罪に、ゴキブリでも見たような顔をする。


「それ次やったらぶっ殺す。」


 数秒間をおいて、サフィアは、身に纏う茶色の外套らしきものを軽くはたく。


「私と一緒に、この村の外に”私が”張り巡らせた結界の外を見に来てほしい。みんな勇者のおかげだとか言ってるけど、ほんとは違うから。」


 サフィアという少女の目は嘘をついているようには見えなかった。

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