第三話 ハードモード?な初心者村
―――ここがいわゆる初心者村というやつなのだろう。
少し歩き回り、銅像のある広場の周りを散策して見る。
――八百屋?いや、でも……
「ジャガイモばっかじゃねえか。」
思ったことが口に出てしまい、店主にそれを聞かれる。
「あん?なんだお前は。うちの売り物にいちゃもん付けるんだったら他に行ってくれ。お前みたいな変な恰好のやつがいるせいで商売悪化すんだよ。ほら、いったいった。」
手であっちへ行けという仕草をしながら険しい顔をする店主。
――推しTシャツを変と言われるのは心外だが、この村の様子を見る限り、それも仕方なく思える。
「あぁ、店主。聞きたいことが一つあるんだけど……。」
サフィアがこの村でどういうポジションなのか把握しておけば、仲良くなれるかもしれないし、さらには、このハードモード(俺にとって)の異世界を攻略していく大事な仲間になるかもしれない。
「このカルトッフェル三つにつき一個、質問を聞いてやろう。」
カルトッフェル……ドイツ語でジャガイモという意味なのはかろうじて覚えていた。ここで大学の授業が役に立つとは……。先生も涙目。
「ええと。お金はないんだけど……。」
「じゃあ無理だな。」
交渉から入るのではなく、自然な会話から情報を聞き出してみよう。
「ところでおじさんは、この村でどのぐらいカルトッフェル売ってるの?」
自分のことはみんな話したがるはずだ。情報、といえば財産的価値があるかもしれないが、自分のことを話せるとなると、みんなそんなの度外視する。
「そうだな。村で唯一の主食売り場だから、実質独占状態さ。他にもあったんだが、うちのが一番おいしいって、みんなやめちまったんだよ。」
「そうなんですね。だからみんなこの村のことを、カルトッフェル村って言ってるんですね。」
村名で何かわかるかもしれないと考え、ほらを吹く。
「あ?この村はヘルト村だぞ?何言ってんだあんた。」
こめかみに少し浮く血管が、俺を怪しんでいる。この作戦も見破られそうだ。
「じゃあ、僕はこれにて失礼します。またお金ができたら買わせてもらいます!」
そそくさと逃げようとするが、
「おい。」
首根っこを掴まれる。上着らしき服を着ていたからわからなかったが、かなり筋肉質だ。
「な…何でしょう?」
燧輝は恐る恐る反応するが、振り向かずにしゃべる。
「6個買ってけよ?」
ば……バレてた……。
「あの、何のことでしょう……?」
冷汗が背筋をたどる。
「まあ、今すぐにじゃなくてもいい。明日にでも買って行ってくれ。それでチャラだ。」
ゲルマン系特有の、堀の深い目でにらまれ、足がすくんでいたが、意外にも優しい言葉に、安堵の息を漏らす。
「わかりました!明日、必ずカルトッフェル6個買わせてもらいます!」
元気よく、小学生のような感じで返事する燧輝に、店主は微笑む。
「お前のために一番いいやつとってきてあげるからよ。」
随分と優しいじゃないか。明日、約束は約束だし、行かないとな。
「ありがとうございます!」
――店主に別れを告げ、再び散策を開始する。
「ふむ……。ヘルト…………。知らんな。ドイツ語なのだろうが、そんなの知らない。」
―――ふと見るのは綺麗すぎる銅像。見た目と俺の前の世界の知識で判断するに、勇者みたいだ。
「ていうか、そもそもこの世界に勇者っているのか?」
その言葉がまたも聞こえてしまったのか、しつこそうなおば様につかまる。
「あんた、勇者様も知らないでこの村にいるとは、とんだ無礼者だね。とっととどっかの村に行っちまいな。じゃないと、勇者様の聖剣で切られちまうぞ。」
あの勇者像のことだろうか。確かに、今にも動き出しそうなほど立派に、精巧に、美しく仕上げられている。
「あの銅像ができたのは最近なのですか?」
ふと思ったことを口にすると、想像もしていないような答えが返ってきた。
「あれはもう、400年間ずっとこの村を守り続けてきた勇者様の像だ。最近の話なんかじゃないさ。」
それでいて、あの銅の光沢はおかしい。銅は酸化すると色褪せが激しく、普通はもっと青銅、青みがかってくるはずだ。なのにあの像は……。
「そうなんですね。」
まるで理科の実験で使う、銅線のように美しい。
――散策をある程度して、情報が出てきたところで、一度この世界で俺が何をすべきなのか整理したほうがよさそうだ。
まず、俺は妄想力と言うしょうもない能力値しか高くない。そして、少なくとも勇者は400年前に存在していた。
それに対峙する形で魔王という存在がいたかは今のところ明確ではないが、おそらくいたのであろう。
そして、サフィアという少女。15歳ぐらいだろうが、異世界だから見た目はあまりあてにならない。もしかしたら口の悪い餓鬼っぽい、合法ロリばばあという可能性もあり得なくはない。仕草からして、本当の少女にしか見えないが。
そして、いきなり火であぶってきた爺さんと、サフィアが身に着けていた宝飾のリング。あれで対象のステータスがわかるらしい。それに加えて、俺が火にあぶられるとき、青い宝石が光っていた。さらにさらに、サフィア曰く俺があれを身に着けた場合、アパタイトという青い宝石が光るらしい。
――アパタイト……誕生石でもないし。よくわからんな。俺は9月生まれだから普通サファイアが光ると思うんだけどな……。
しかもお金も力も食料もない……。こりゃ、明日にでも死んでるかもな……はは……。
燧輝は何度も『考える人』状態になりながら、苦悶するがスッと、座っていたベンチから立ち上がる。
「まだまだ情報が足りなくて推理しきれないや。妄想とやらで補完しても良いんだけど……いかんせん、俺は金も食料もないから、そもそも明日というのが来るかどうかの方が問題だな。」
と意気込んでいると、何かをのせた馬車が目の前を通り過ぎる。綺麗な紺碧の何かをのせていることだけは分かったが、それが物なのか、人なのかまではわからなかった。
「なるほど。馬車がメインの移動手段ってことは、少なくとも時代的には、近代よりも前ってことかな。」
また一つ情報が増えた。意外にもこういった細かいことに気づくあたりは、俺の父さんに感謝しないとな。
――ベンチから歩き出そうとしたその瞬間、自分と同郷の匂いがした。
類は友を呼ぶというのだろうか。燧輝という変人の真後ろを通っていくのはさらなる変人だった。
「え?」
何も言うことなく立ち去っていく。その背格好は自分とよく似ているが、全身が黒の服に包まれているせいで、自分と似ているというのも、感覚がバグっているせいなのかもしれない。
「今の人、誰ですか?」
気になって自分以外の人に確認してみる。
「今の人って誰だよ。」
お兄さんには少し嫌な顔をされるが仕方ない。
「さっき真っ黒の服着た、俺と同じ背格好の人!通ってったじゃん!」
「そんなやつ見てないし、こんな村にそんなやついるわけないだろ?なんでそんな興奮してんだよ。落ち着けって。」
奴の去っていった方向を見ても、いるのは先ほど通り過ぎた馬車。
「気のせいなのか……?」
「気のせいも何も、お前さんの方が変な格好だけどな。」
それは余計なんだよ。
「ありがと、お兄さん。」
疑問が疑問を呼ぶ。あいつが俺にしか見えてないというのはおかしいし、となると、あいつは俺の妄想で"視えた"だけなのか。




