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妄想と演繹 ~私の推論によれば、この村は明日滅びます~  作者: 松下村塾
第二章 見守りの地・リューベリヒ

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第十六話 勇者。そして世界の「原理」

『勇者冒険譚~勇者の真実と虚構~』


 手に取ってみるが、分厚い。通常の文庫本5冊を重ねたほどで、研究の成果としての学術書なみにある。


「どんな人が著者なんだろう。」


 もしかしたらその人にここで会える可能性もある。ヘルト村には勇者像もあったわけだし、北方に勇者の調査に来ていても何ら不思議はない。


『メルク・フォルシャー……

ケルベック国立大学民俗学博士・考古学修士取得。現在はリューベリヒ国立大学共同研究所にて、勇者信仰について研究中。』


 知らん。ていうかこの世界の研究者なんて誰も知らんわ。覚えておいて損はないだろうが、今はそれよりも内容の方が気になる……。


『目次――

P1――勇者の旅路ー序説ー

P21――対峙的存在ー魔王ー

P78――勇者の功績

P125――勇者の虚構ー偽りの前提ー

P269――仲間という条件の必然性

P346――自説

P549――終わりに~P564』


 まてまて。概説といっている割にかなりしっかり目のやつな気がする……。冒頭部だけでも読んでみるか。


 ページを繰り、文頭に目を向ける。


『勇者。これを聞いて何を思うかは人それぞれであろう。魔王を倒した英雄。人々を救った英雄。あるいは偽善者。ペテン師。様々な解釈がありうるであろうが、本書では筆者の見解を交えつつ、客観的な資料から、我々の言う400年前の勇者の存在について合理的に説明を与えることを趣旨として、その旅路を検証するものである。』


 この辺りは新蔵書の説明文と似てるが、偽善者やらペテン師やら、かなり酷く言われていた可能性があることはわかる。


『まず、前提として共有されるべき事項は勇者の三条件についてだ。』


 あぁ。サフィアに教えてもらったやつか。ここは少し流し読みしてもいいかもしれない。


『しかし、"勇者"が勇者と呼ばれない場合はほとんど、この3つ目の条件を満たして、帰還することができなかったことによるものだ。』


 3つ目の条件……?もしや……。

 気になって少し戻して読んでみる。


『3つ目の条件は仲間全員と共に帰還し、議会にそのことが認められることである。勇者たるもの、仲間を犠牲にしないことが大前提とされる。』


 なるほど……。つまり、400年前の"勇者"は仲間とともに帰還できなかったということだろうか。


「そういえば、ヘルト村のあの銅像……仲間がいなかったような、少し寂しい感じがあった……。」


 近くの人間でさえも聞こえないような独り言が、自分の体内でこだまする。


『勇者に仲間が必要とされる理由。それは、勇者を内から見るものが必要だからであるとされている。学説の多くは、勇者自身の精神性を問うために外部からの評価だけでなく、内部からの評価、すなわち仲間からも勇者として認められることの必要性を説いている。一方、かつての多数説で、現在もなお少数説として残っているのが、魔物に対する戦闘上、勇者1人では対抗できない魔物が存在するという主張である。』


 なるほど、勇者は世界に選ばれるとか、そういう異世界的ぶっ飛んだ解釈をせず、外部と内部の双方から認められる必要があるとしてるのか。その一方で有力説はサフィアの言っていたことと大体一致する。ただ……。


『なお、この有力説は魔物との戦闘経験のある我が国軍のベテランでさえも、「大抵は1人で対処できることが多く、複数の魔物が主軍をなして、分散する兵を各個撃破していくような事態は遭遇したことがない」との証言があり、また戦闘記録からもおおよそ、その証言と一致していることから、現在は多数説ではなくなっているという経緯がある。』


 なるほど。まぁ細かいことはいいから、今必要なのはステータスについてだな。勇者はステータスが全てカンストしていたって話だけど……。実際はどうだったのだろうか…。

 どこから読めばいいだろう。条件の一つ目あたりに情報あるかな。


『勇者になる条件の1つ目は、すべてのステータスがカンストしていることである(以下、第一条件)。これは非常に有名な話ではあるが、伝聞により少しずつ形を変えていったものと考えられる。そのため、第一条件についてはその真実性を検証するため、「勇者の虚構」の部にて詳細に述べ、ここでは提示にとどめたく思う。』


 ……え?第一条件……つまり……ステータス全部のカンストが”虚構”なのか?実はそもそも”勇者”は第一条件すら満たしていなかったとでもいうのか?

 ダメだ……。いったんここで止めておこう。勇者の話はあとでもいい。とにかく今はこの世界について調べたいのだ。とすれば、世界について書かれたものが必要だ……。


―――本を元の場所に戻し、もう一度蔵書目録を見直すため、元の場所へ足を運ぶ。

……にしても人少ないなぁ。


『20101~生命学

 20201~生命分類学

 20301~生命構造学』


うぅーん。もうちょっと前かな……。


『8101~原理学

 8301~原初法学

 8901~応用原理学』


 ん?法学?ここで?分類ミスってないか?しかも原理学と応用原理学の間なのわけわからないんだが。


「なんかよくわからないし……。行ってみるだけ行くか……?」


 よくわからないまま進むのは、灯りなしで洞窟の中を進むようなものだが、その先が行き止まりでない限りは反対側の出口は明るいはずだ。それを探して求める。


「ええと……。8101、8101……。」


 本棚の近くには、白衣を着た研究者らしき人もいれば、ラフな格好で本をあさる人もいる。


――「ここか。」


 中央棟1階、入って右奥の方に8000番台の棚が奥の方までぎちぎちに詰められている。


「これは読書や研究にはもってこいの雰囲気だな。」


 床は大理石らしく、歩くと図書館全体に存在が響き渡るような優越感を得られる。


「蔵書はどんなものがあるんだろう……。」


 ゆっくり歩きながらタイトルを流して見る。紙と革製の背表紙のにおいが脳を刺激する。


『世界の原理について』

『原理学入門』

『基礎原理学』


 ふむ。原理というのは世界そのもののことなのかもしれない。そうだとすると、ステータス制そのものも、世界の法則の一部のはずだ。

―――もう少し見てみよう。


『「原」と「理」』


 ?そこで分けて考えるのか……。面白い学者もいるものだ……。と感心しつつ歩みを進めていくと、


「お、8301ってことは、原初法学か。どれどれ……。」


 見てみると、驚きのタイトルの数々。


『世界のエネルギーについて』

『原と理』

『理による魔法変換論<基礎>』


 俺の想定していた法学とは全く異なった。原初法という一種の原理のことなのか?そして、原と理を明確に分けて研究しているのは、もはや当然なのか……?


 しかも、魔法変換論?理って何なんだ?


「おや、今時の若者が原理学に興味あるとは珍しいな。」


 と横から話しかけてくる高身長の50代ぐらいのおじさん。


「いやぁ、何だろうなってみてただけなんですけどね……。」


 と少し距離を置こうとするが、白衣にぶら下がる従業員証のようなものが目に入り、止まる。

―――それを男性に気づかれる。


「おおっと。失礼。俺はこの図書館の隣にある研究所で働いてるんだ。」


 そうしてその従業員証のようなものを見せられる。


『リューベリヒ国立大学名誉教授・北部中央都市リューベリヒ魔法研究所所長 フォーアライト・シュミット』


 肩書長っ。ていうか、めちゃくちゃすごい人じゃん……。名誉教授である上に研究所の所長だと?そんな人間がこんなところで何してるんだ?


「ただの肩書だから、あまり気にしないでくれ。」


 と心を読まれているが、実際これを見させられたらみんな同じような反応をするのだろう。


「ところで君は大学生かい?」


 まぁ、元の世界では大学生だったけど……。


「いえ。ただの一般人です。」


「そうか。ただの一般人はこの書架には来ないんだけどな。」


 と彼があたりを見渡す。そしてその視線が最後にとらえるのは俺の着ている推しTシャツ。


「いやまぁ。物好きなだけですから……ははは……。」


 と笑ってごまかそうとするが、


「それで、本当のことを言うと?」


 すでに見透かされているような気もして、少しいやだけれど、もしかしたら強力な助っ人になるかもしれない。


「世界について知りたくて。ここの本を漁っていました。」


「ほう……。」


 彼は意味深な笑みを浮かべ、図書館の入口とは反対方向に進みながら、


「ついてきてくれ。君には少しだけ、興味がわいた。それに……君の期待にも私ならこたえられるんじゃないかな。」


 ついてくるようにちらりとこちらを確認しながら歩く。


「でも……待たせている人がいて……。」


 実際は待っているかわからないが、場合によってはサフィアを待たせてしまうかもしれない。


「そうか。なら、なおさらだ。」


 そしてこちらを見ることなく、彼は進んでいく。

―――彼についていく、という答えへ誘導され、それに従うしかなかった。

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