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妄想と演繹 ~私の推論によれば、この村は明日滅びます~  作者: 松下村塾
第二章 見守りの地・リューベリヒ

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第十五話 北部中央都市・リューベリヒ市立図書館

―――この町に来てからずっと根付いている違和感。


「若い人が少なすぎないか?」


 正直、ヘルト村の方が若い人を見る回数が多い印象だった。特にこの町の若者率が低いのかはわからないが、中年以降が多い印象があるのだ。


「だから街中で、私たちが手をつないでいるのを見てる人が多かったのかもね。」


 サフィアの言うことは俺の考えと一致している。だが、それよりも拭えないこの奇妙な感覚が、気持ち悪い。


「大丈夫?少しぼーっとしてたけど……。」


 ぼーっとしているのはいつものことだから、サフィアに心配されるとは思っていなかったが、この違和感も含めて、あの図書館で、色々調べてみないとわからない。


「あぁ。大丈夫だ。いろいろありすぎてちょっと頭の中で整理してただけだし。」


 サフィアは少し不満げな顔をするが、心当たりがない。


「俺、なんかまずいこと言ったか?」


「別に……大丈夫ならいいけど。」


 人ごみを縫いながら歩みを進めていく。


『この先 リューベリヒ市立図書館』


 となるとこの町はリューベリヒ市か。


「ビンゴだ。」


「図書館だね。」


 まあ。問題は目的の情報が簡単に手に入るかどうかだ。市民じゃないと読めないとかそういう類だったら手詰まりになりかねない。


「ていうかサフィア、図書館知ってるんだ。」


「馬鹿にしてんの?図書館ぐらい知ってるし……。」


 単純な疑問。


「どうやって知ったの?」


「爺ちゃんが本持ってて、それがだいぶ前に図書館でもらったものだったんだよ。」


 それはいいのか?借りパクしたんじゃなく?

――と怪しそうな目をすると、


「ちなみに、盗んだわけじゃなくて、蔵書から外れたやつをもらってきた本で、その印字もあったから。」


 なるほど。たしかに俺の住んでいた地域でも似たようなことをしている奴がいたな。


「その本はどんなやつ?」


「……。」


 サフィアがしゃべらなくなる。なんというか……。話題を変えた方がいいか。


「この道渡ればもう着くな。離れんなよ。」


「離れたくても離れないし。」


―――ギュッ


 握る手が強くなる。二人で図書館の門へと足を運んでいく。


 端正な装飾と、落ち着いた色の荘厳な受付と門構えに、二人は静かにたどり着く。

―――そして門の表札を見る。


『北部中央都市・魔法研究所附属リューベリヒ市立図書館』


―――その外観に圧倒される二人は、近くを通り過ぎる白衣の男に気づかなかった。


「このでかさは確かに……研究所付きじゃないとおかしいな。」


 市立図書館にしては規模がでかすぎる。ここに来るまでは道の外側線上の建物で隠れていた研究所らしき建物が、メインの図書館の周りに、増築を繰り返しながらも整然さを失わないように配置されている。


「横に広いタイプなんだな。」


 この町は三階建てが限度……というか合わせられていたような感じだ。この図書館自体も三階建てのようだし、遠くからわかりづらいのも頷ける。


「正面玄関から入るのが正しいのかな……。」


 大学の研究室は俺自身が大学生だったこともあり、割と自由な感じだったが、ここはそうとも限らない。


「護衛とかも居なさそうだし。大丈夫か。」


「ブツブツ言ってないで、早くいこーよ。」


 考えるよりも先に行動するタイプのサフィアは少しうらやましい。尻込みせず、何でも前向きに進んでいけそうなサフィアが。


「はいはい。」


 サフィアは歩を緩め、一緒に受付の眼鏡をかけたおじさんに聞く。


「すみません。ここって、リューベリヒ市民じゃないと入れないですか?」


 受付がいる以上、入館ができない可能性がある者もいるということだろう。少なくとも、武具やら危険物を持っていないかどうかが基準だろうが。


「いいえ。ここの図書館は一部資料を除き、国民すべてが閲覧可能です。ただし、閲覧が一部制限されている資料は市を介して国への申請を行い、許可が下りる必要があるものもございます。」


 ほう。行政文書とかだろうか。


「ところで貸し出しは……?」


 おそらく図書カード的なものが必要なはず……。


「当館の蔵書はすべて、国及び市の共有となっていますので、貸し出しの際は図書貸出確認証を発行してもらう必要があります。確認証の発行は市が行っておりますが、当館の受付でも可能です。その場合は1週間ほどいただくことになります。」


 なるほど。かなり厳重な貸し出しの要件があるようだな……。にしてもマニュアル的なおじさんだな……。


「なるほど。ありがとうございます。」


「では、ごゆっくり。」


―――サフィアと燧輝は軽く礼すると、脇の大きめの扉へ向かう。


「なんか、すごいね。」


 抽象、曖昧。あまりにも語彙に富まない言葉で図書館に嘲笑われそうではあるが。


「おじさん、感情なかったよね。」


 燧輝は相槌を打ちつつ、


「この町自体も、謎が多い気がするな……。」


「そうだね。とにかく調べてみよっ。」


 サフィアの姿勢に倣ってドアを開ける。


―――ギィィ……。


「おぉ~。」


 図書館だから静かにしなければならないのはわかっているが、それにしたってすごすぎる。

 外から見たら、三階建てでフロアごとに分かれているのかと思いきや、


―――目の前に広がるは、天井10m以上の高さまでそびえる本棚。異世界というにふさわしい図書館。


「もはや壁だな。」


 てかこれどうやってとるんだ?上の方の本とれなくないか。


「すごいね。私、ちょっと怖いかも。」


 握る手が少し震えている。


「大丈夫だよ。あの本棚が倒れてきたら、俺も一緒に死ぬから。」


 と笑顔で冗談を言うと、


「シャレにならないからそういうのやめてよ……ね。」


 シャレにならない。確かにそうかもしれないが、本当に倒れてきたら明らかに市の設計ミスとしか思えない。そうなると、この設計を認可した以上は相応の安全性は担保されているはずだ。


「普通は俺が助けるから大丈夫。とかでしょ。なんで私が死ぬこと前提なんだし。」


 と少し不機嫌なサフィア。まあ、普段の感じだと図書館では少し迷惑になるかもしれないから、これくらいの方がいいかもしれない。


「大丈夫。必ず助けるから。」


「もう遅い。」


 そっぽを向かれてしまう。同時につないでいた手がほどかれる。


「どうした?」


 いきなり離されて困惑する。


「ここからは別行動でもいいかもね。安全そうだし。」


 ずっとつないだままというわけにもいかないだろう。それに、街中とは違い、人の数もそう多くなく、みな本に集中して、誰かとかかわろうという意識は専らない。


「そうだな。ある程度調べがついたら入ったところのでかい本棚の近くにいるわ。」


「わかった。私も調べものしてくるから。またあとでね。」


 そういって、入ったところの右側にあるおそらく北館に行く。


「よし。俺もいろいろ探して、調べて、考えてみますかね……。」


 まずはこの図書館の蔵書目録を見ようか。


「どれどれ……。」


『101~哲学・倫理学、201~歴史……』


 歴史じゃちょっと物量が多すぎるかな。というか前の世界と似たような感じだな。もっと後の方から見てみるか……。


『8101~原理学』


 ?原理学……。何じゃそら。これはチェックしておいた方がいいだろう。あとは……。


『10001~一次魔法学』

『11001〜二次魔法学』

『12001〜三次魔法学』


 お……。これはサフィアにあとで教えてあげないとな。てか、いくつあるんだ……?


『13001〜四次魔法学』

『14001〜五次魔法学』


 五次魔法までか……。そういえば元の世界では魔法陣の組み合わせはまだ5×5の組み合わせまでしか分かってないんだよな……。もしかして、この世界の魔法は割と数学的な要素が強いのか?


 魔法はいったん場所だけ把握しておくか。


 少し歩みを進めて中央階段らしき場所に着く。その脇には新蔵書コーナーがあるが、そこに大大と表される本がある。


『勇者冒険譚〜勇者の真実と虚構〜』


 この世界には勇者というものがいるのかもしれない。それが架空のものなのかもしれないけれど、それがあたかも事実であったかのように目の前で堂々と鎮座している。


 説明にはなんて書いてあるんだ……?


『400年前、魔王を打ち倒した勇者の道のりを、歴史資料から合理的に推察した概説版。』


―――運命の歯車が動き始める。そんな気がした。

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