第二章 第十四話 宿というか……。
――――ザワザワ……。
「なんかすげー見られてない?」
この視線の量は流石にサフィアも気づくはずだ。
「どう考えてもあんたのせいだけどね。」
「え?」
と反応してみるが、俺が原因なのは、俺自身がよくわかっている。目立ちまくる推しT、そしてドイツ人とは全く異なる顔つきに、低身長。そして何より一番は、
「ステータスが原因だろうな。」
しかし、道行く人の腕を見てもサフィアやアンファーゲ爺のような宝飾のバングルではなく、小さなアクセサリーをそれぞれ身に着けているようである。
「あと、これかもね。」
と言いつつも握る手は強くなる。
「そんなに離れたくないの~?」
とからかうと、
「痛っ!!!やばいやばいって!足つぶれてるから……許して!」
想像もしていないような激痛は、サフィアが俺の足を思い切り、全体重乗っけていたことによるもの。
「次、似たようなこと言ったら今度は足、失くしてやるから。」
鬼の形相、というかとんでもない目で睨みつけられる。
―――しかし、サフィアの行動によって、周りの視線が散開する。
「あれ、やっぱり俺らカップルって思われてた感じ?」
「あのさ。さっき言ったばっかだよね。」
「マジで言いません。気を付けます。」
今度は本当に足を失くされかねない。
「さっさと宿見つけないと、日が暮れるから。こんな茶番してる場合じゃないし。」
全くの正論だ。
「近くの人に聞いてみるって手は?」
サフィアは微妙そうな表情だ。
「ヘルト村ですら情報に価値があるんだから、この町じゃ猶更、簡単にはいかないと思うよ。」
何でも価値が生じて、人への親切心とか、そういうのが無くなっていく世界……俺の生きていた世界、時代と一緒じゃねえか。
「まぁそうだよな。」
しかし、町の宿教えるぐらいは別によくないか?
「地道に探そうよ。ほら早く。」
そういって俺の手を引っ張る。
「そうするしかないか。」
そうしなくてもよかったかもしれないけど。俺はサフィアと一緒に宿を探すのを、楽しんでいるのだと思う。だから、自分を納得させた。
「あれとかは?」
サフィアが指さすのは―――
『~Hotel Schlummer~』
「だいぶ古そうだね。」
サフィアのことだからめちゃくちゃ高くてきれいな宿を探すのかと思いきや、意外と現実的なところを探し当てるあたりはギャップがある。
「古いほうがサービスがしっかりしてて長続きしてるってことじゃないの?」
そういえば村から出たことないんだったか……。
「それはよくわからないけど……その可能性もなくはないかもね。」
しかし……外観は三階建ての石造。1階の内装は木材メインで温かみのあるデザインだ。
「一応受付に聞いてみようか?」
サフィアは手をつないだままだ。
「私も行くし。」
―――どこまでもかわいすぎて困るやつだ。
――――ガチャッ。
「すみません~。」
おや、思ったよりも中は暗め、というか雰囲気が……。
「こんにちは……。本日は休憩ですか?それとも宿泊されますか?」
奥から受付らしきカウンターに老婆が出てくる。
休憩とは……。まさかね……。異世界だからまぁ、普通の宿でもあるのかもしれない。
―――サフィアはホテルの受付の”休憩”の二文字に首をかしげる。
「ええと、宿泊はしたいんですけど……。」
「どうしたんだい?」
片方の眉を上げる老婆は意味深な表情を浮かべる。
「それが、お金がないのでここで働かせてもらいながら数日間お部屋を借りたいなって思ったんですけど……。」
そういうと老婆はにやりと笑い、
「お前さん……まぁ、いいだろう。」
「へ?」
いや、断られるパターンじゃないのか?
「最近はこういう場所を使う若者も少なくて、困ってたからねぇ。」
なんとなく、人のにおいが残っている雰囲気と、老婆の言っていることに察しはつくが、ここでたじろいでいては老婆に見透かされかねない。
「とにかく、泊めさせてもらえるんですね?」
先ほどまで閉口していたサフィアが口を開く。
「おや。可愛いお嬢さんはこの男のどこに惚れたんだい?」
うん。流石に”そういうホテル”の受付にしては干渉しすぎじゃないか?
―――横を見るとサフィアは苦笑いをしている。
「ゴホン。あの、おばあさん。その話と引き換えに泊めさせてもらうという条件は?」
「最近若いのの話なんて聞いてないから。すまんね。」
謝ると、笑顔で俺の条件を呑む。
「いいさ。どうせこのホテルも只の住家みたいなもんだしねぇ。」
「「ありがとうございます!!」」
ほぼ同時。俺とサフィアが頭を下げる。
「まぁ。礼儀正しいこっちゃ。好きなだけゆっくりなさい。」
「あぁ。水はどこにありますか?」
老婆はふりかえりもせず、
「部屋に冷蔵庫がある。好きに使っておくれ。」
それだけ言うと奥に消えていく。その脇に、小さな本棚がありいくつか分厚い本が置かれている。
――――しかしこれは完全に、あのホテルだな……。
「やったね。スイキ。」
うん。何もわかっていない純粋なサフィアが隣にいると、こちらの心の穢れが露になって恥ずかしい。
「う……うん。そうだな。」
下手な返事をしてしまうが、サフィアは切り替える。
「よし。っじゃ、スイキ行こっ。」
一人心の中で、反省会をする燧輝は先へ手を導くサフィアに後れを取っていた。
――――「泊まる場所も決まったし、何なら働かなくても泊まれるし。ラッキーだね。」
「サフィアの目利きはすごいな。」
「別に褒めてもなんもないからね。」
目をそらすサフィア。いろんな意味の目利きなんだがな……。
「それで、まずは何から探すの?」
頭を切り替える。意識を可能な限り老婆の話から切り離す。
「そうだな。とまる場所は決まったけど……食料どうしようか。働く?」
「えぇ。少しはお金あるけど、数日も持たないし……。」
困ったものだ。いっそのこと、どこかに本気で雇ってもらった方がいいかもしれない。
「あのおばあさんにお金もらうわけにもいかんしな。」
「当たり前のことを、仕方ないな、みたいな感じで言うなし。」
ふむ……。異世界転生ものとかのアニメでは生存とか度外視で、基本は出来事中心だから普段どうやって生活してるのかわかんないんだよな。というか、転生もののスタートマジ大変じゃね?
「図書館的な場所を探しながら、働き場所を探すか。」
「私働き場所探すから、スイキは図書館っぽい建物探して。」
一緒に探すが、探すものは別。こうすれば効率も良い。
そして、この町は割と発展しているし、市長がいるのなら市立図書館ぐらいはあってもおかしくはない。
「大きめの建物をしらみつぶしに当たってみるか。」
サフィアは頷くと、俺に歩みを委ねる。
―――市内探索中……。
町行く人々の顔をちらりと見ると、やはり男性は特に顕著。堀が深く、鼻が高い。そして何より……。
「身長高いな……。」
「周りちょっと見づらいよね。」
とはいえ、人の歩く間を縫って、石畳の道路の端には出店があったり、パン屋があったり。あるいはカフェらしきものもある。
街路樹が街の景観を整えている印象を受ける。街そのものは整然としていて、道の先まで見える。建物は統一的に石が基礎、三階建て。大学でかじったぐらいだが、建築制限的なものもこの世界にあるのか、あるいは技術的な限界か。
「でもこの町にはシンボル的なのはなさそうだね。」
俺の見えている限り、ヘルト村の勇者像のようなものはない。
「そうだね。街の中心っぽいのに、あるのは噴水とその周りにベンチがあるぐらいだし。」
サフィアは周りを見て物足りなさそうな顔をする。
「どこにでもあるわけじゃないんだ……。」
独り言のようにしゃべるサフィア。その瞳は大きく、何かを発見したような顔だ。
―――しかし……。
「てか、全然なくない?」
にしても、思ったよりもこの町が広いことに気づいた。可能な限り泊まる場所から複雑に行くのを避け、大通りを何度も通って道を覚えようとしているため、行ったり来たりしているのだ。
「あと通ってない道ってどこだ?覚えてる?」
聞くと、サフィアは指を折って数えていた。
「スイキが働けそうな場所、7個ぐらい見つけたよ。」
俺の質問は聞いておらず、サフィアは自分の任務を完遂している。
「おぅ。それはありがとう……。ところで、道は覚えてる?」
「帰りの目印になるようなところに、働けそうな場所があったから大丈夫だと思う。」
そこまでできるとは……。なんか、図書館すら見つけられていない自分が悲しくなる。
「ありがとな。」
「図書館、もしかしたらこの道かもね。」
とサフィアが向く道の先には藍色の屋根に頑丈そうなつくりの大きな建物。
「マジであれなんじゃないか?」
まさかのサフィアが全部見つけるという始末。
「俺役立たずすぎないか?」
「大丈夫。最初から役立たずなのは知ってるから!」
と笑い飛ばすサフィア。その笑顔を見ていると、自分の弱さなどあっという間に消え去っていく。
「もしかして最初からバレてた?」
「だって、スイキは妄想しかステータスないからね!」
妄想力のおかげでサフィアと楽しい時間ができていることには感謝したいと思う。
「よしっ。切り替えていきますか。」
「うん。」
―――はたから見れば仲のいい兄弟。それでもつなぐ手は信頼というには少しくすぐったい。




