第十三話 次なる場所
――歩き始めて1時間程。
「お、あれ町っぽいぞ?」
燧輝の視線の先には外壁が高く積まれ、外敵からの侵攻に備えているような町らしきものが見える。
「ほんとだ。でも、結構まだ距離あるよ。」
隣で一緒に歩くのは碧眼金髪の(口は悪いが)美少女サフィア。幼いながら辛い出来事を経験し、乗り越えていこうとする、魔法少女。
「これは……今日中はキツイかもな…。」
さすがに村から逃げてきてそのままというのも大変だ。あの町でしないといけないことをリスト化した方がいいだろう。
「じゃあ、野宿か……。」
「まぁ、そうなるな。」
仕方のない事、だが町に行けば宿ぐらいはあるはずだ。
「町に行ったらまず、宿探しだな。」
「でも、泊まるためのお金なくない?」
お金に関しては完全にサフィア頼みだった自分が恥ずかしくなり、切り替えて一つ提案する。
「そういう時は交渉するんだよ。」
「例えば?」
サフィアや、マヒトおじさんともした交渉。
「労働力。」
「本当にそれで泊まれるの?」
サフィアは少し不安そうだ。
「まぁ、働くのは俺だけでもいいぞ。あるいは、二人で働いてもいいし。」
サフィアはまだ16だ。日本では15歳から働くことはできるものの、実際に15歳から働いている少女はそう多くない。文化、時代的背景もあるだろうが……。
「そんなのやだ。それだとあんたにやってもらってるみたいで、気に食わない。」
と気に食わないことをストレートにかましてくる。まあ、それが良いんだけど。
「じゃあ、二人で働いて宿は確保する。てこと?」
サフィアは町の方を見て、
「それか、スイキは情報集めたら?まだ知っておきたいことたくさんあるんでしょ?」
心を読まれているような感覚で内心がざわつくが、別にやましいことでもないし。
「そうだな。知りたいこと、まだまだたくさんある。」
切実な言葉とトーンにサフィアは笑う。
「まだまだたくさんある……とかカッコつけても全然カッコよくないからね。」
「カッコつけてないから。もしかして、今のかっこいいとか思ったりしてくれたわけ?」
とありもしない期待を寄せるが、答えは火を見るより明らか。
「そんなわけないでしょ。いつもきもいって言ってるの、聞こえてないの?」
「え?そんなこと言ってたっけ?いつもかっこいいって言ってくれてなかった?」
とあえてボケてみる。
「誰があんたのことかっこいいなんていうかっ。」
とそっぽを向いてしまうサフィア。なんだかその仕草をみると、少しは気を取り直せたのかと思ってしまう。…………。
「じっと見ないでよ。視線わかるし。」
そんなことを聞いたことがある気がする。女性は視線に対して非常に敏感で、どこを見られているのかわかる人が多いと聞く。だから、俺は女性と喋るときはいつも、相手の眉間に目を向かせるようにしている。これが、現代で生きる健全な男子大学生の涙ぐましい努力なのだ。
―――まあ、大学生になって女性と話すことはほぼなかったんだけどな。
「そう考えると、今は割と女の人と話せてるのか……。」
と思ったことが口に出てしまう。それをサフィアに聞かれてしまっていた。
「スイキは確かに女の人と話すの苦手そうだし。ていうか、話しかけられなさそう。」
おいおい?それは言いすぎじゃないか?俺にも男としてのプライドってもんが……。
「でも、サフィアは話してくれるから、俺はうれしいんだよね。」
その言葉に耳を動かすサフィア。少し歩くのが速くなり、横顔も見えなくなる。
「なにそれ。きもっ。」
もはや何回目かわからない”きもい”という言葉に、安心感を覚えるようになった。
――――翌日。
<<ヘルト村から約10㎞南地点>>
1日明けてサフィアの様子はだいぶ良くなった。昨日は結局ほとんど歩けず、一日野宿(ミニ結界内)することになってしまった。けれど、前の気強さを少しずつ取り戻している。
「ここが、次の村……というか町って感じだな。」
見渡す限りの人。活気。蹄鉄が石畳を蹴っていく音。昨日いた村とは全く、何もかもが違う。
「なんか……思ったよりもこの世界って発展してるんだな…………。」
サフィアは頭の上に、クエスチョンマークを浮かべている。
「スイキってたまに変なこと言うよね。なんかこの世界以外を知ってるみたいなさ。」
そう言われると、確かに俺がこの世界に転生してきたことは誰にも言ってなかったな。というか、確信がなかったから言ってなかったんだけど。今なら確信をもって言える気がした。
「いやぁ、実は俺違う世界から……。」
――――キィーーーー!!
目の前を通り過ぎていく、いくつもの馬車のうちの一つがとんでもない音と同時に、停止する。
「こんにちは。」
馬車の中から聞こえるのは、落ち着いた中年の女性……マダムといった方がいいのか?
「こんにちは。どちら様ですか?」
顔も見せずにしゃべるとは相当ご身分が高いか、相当ヤバいことをやっているかの二択。
「私はこの町の市長。エアヴルディガー=ヴァン=アデリッサ。皆さんからはアデリッサ市長と呼ばれています。」
ほう。市長直々にお出迎えとは、この世界はいろいろと変な設定が目立つ。
「わざわざご足労いただきありがとうございます。私はオイトスイキ。どうぞスイキとお呼びください。」
すると、アデリッサ市長は先ほどの来客態度ではなくなる。
「スイキ…………。どちら様でしょうか……。蒼閃の威光と呼ばれる御仁には関係なさそうですね。」
そう言うと、馬車を操る者が、
「国家防衛戦略・魔法部局会議がこちらより東で行われていたので、東の門から来てくださるかもしれません。そちらに向かいましょうか?」
「そうかもしれないわね。もうしわけないわ。」
馬車は二人の前から去ってゆく。
「どういうことだ?」
「いやいや。普通に考えて、あんたみたいなのが市長に呼ばれるわけないでしょ。」
ただの人違いなのか?なんとかかんとか会議って言ってたし……蒼閃の威光って誰なんだ?
「ていうか、今の人のステータスって見えたりするのか?」
サフィアは首を横に振る。
「相手の顔が見えないといけないの。」
確かに……。顔は生物のアイデンティティだし、その点を接続点にしているあたりは前の世界と共通するところが多々ある感じだ。
「まぁ。いったんいいや。とりあえず、助け呼べるか近くの人に聞いてみるか……。」
と意気込んだはいいものの、話しかけられそうな人はいない。みな忙しそうに動き回り、露店の店主さえも、暇なく働いている。
「これじゃ、話しかけられる人いなさそうだよ……。」
ここで諦めるしかないのか……?
「いや……。今じゃなくても、必ず、助けてやる。あの村を……。必ず……。」
そう決意したとき、サフィアの「最初に、戻りたい」という言葉を思い出す。
―――しかし、始めに戻ることはできない。時間とは不可逆的で、前に進むしかないのだから……。
「じゃあ、とりあえずは泊まる場所探そうか……。」
魔法のこと、ステータスのこと。そして、あの村を襲った速の兇人のこと。いろいろ調べないとわからないことだらけだが、それらを調べるためにも先に寝食ができる場所は見つけておかねば。
「手分けして探す……?」
俺が言いかけると、サフィアは腕をつかむ。
「これだけ人が多いと、あんた迷子になるかもしれないでしょ。」
なんだ。そういうことか。
「はいはい。"サフィアが"迷子になるかもしれないし、一緒にいこーね。」
実際、俺もこのぐらいの人の数がいるところを歩くのは初めてレベルで、一瞬でサフィアのことを見失いかねない。ましてや、この世界ではスマホのような連絡手段もなさそうだし、集まろうと思ってもすぐに集まれるとは限らない。とすれば、一緒に行動した方がより安全だし、より効率的だ。いちいち互いを探すのは手間だしな。
「それに、スイキ約束したし。」
昨日のこととはいえ、サフィアはちゃんと覚えてくれている。
「そうだな。俺がいないとまた泣いちゃうし。」
「さっさと行くよ。」
そうして、知らない町を2人は手を繋いで歩いてゆく。




