第一章 プロローグ 赤に染まる
「クソッ。なんで誰も信じてくれないんだよ。」
雑草の生えた地面に靴をねじこむ。
自分の正義を振りかざす彼の姿は、ヘルト村では忌避され、もはやその言葉を信じる者はいなかった。足を運ぶ家の人々には、お前の言うことは妄想、虚言、妄言、ただの思い込み、ねじ曲がった推理、事実に基づかない推論に基づく推論などと罵倒される。
そんな彼はもう、この村は助からないと思った。
「もう……いいか。俺はやれることをやった。ただ、俺の言っていることに説得力がないだけだったんだ。」
そう言い聞かせることで、自分の正義が間違っていないと脳に叩き込む。
?「私はあなたの言っていること……信じるよ。」
背後から、少女の声が聞こえる。
「つまり……それは……。」
”信じる”という言葉を、生まれて初めて聞けた。
?「うん。この村の人たちは、きっと何を言っても聞いてくれないと思う。勇者の像が守ってくれるって、信じてるから。」
少女の見つめる先には、勇者とやらが彫られた銅像が煌々として、堂々と剣を高く掲げている。
「じゃあ、君は俺についてきてくれるということで、いいんだね?」
?「だからそういってるでしょ。」
彼は少女の言葉を耳にすると、村の出入口に足を向ける。
「絶対に俺は、間違ってなんかいないのにな。」
小柄で華奢な少女は、小さな足取りで彼についていく。
――――――翌日……元の地点から南へ1km
北方の来た道の先には、黒煙が上がっている。その根元に広がる鮮紅と黒紅は
――燃え盛る炎、無残にも飛散した人々の血か、あるいは焦げたのか。そのどちらともわからない。ただわかったのは、村が滅んだということだけだった。
その焦げた臭いは―――人の脂が溶けたのかもしれない。
嗅いだことのない、嗅ぎたくもない激臭だった。