高貴なるブルーマリーの準備
食事を終えた後も話を続け、数日後、王室からの返信が届いた。
「ブルーマリー、二週間後に第三皇子殿下がここへ来られるそうだ。」
「承知しました。」
アスターはそれだけを言い残し、部屋を後にした。
(二週間後、まだまだ時間があるわね。なにから始めるべきか。)
コンコンコン
ブルーマリーの部屋の扉がノックされた。
「失礼します。お嬢様。」
入ってきたのはメイド長のコリンだった。
「コリン。あなたが来るのは珍しいわね。何かあったのかしら。」
「二週間後、第三皇子殿下がお越しになると聞きましたので、お嬢様に確認をしに来たのです。」
(確認?何をかしら?)
「お嬢様、お茶会に来て行かれるドレスはどうするおつもりですか?」
「ドレス?今あるものの中で見繕おうと思っていたけど、」
「それではいけません!」
ブルーマリーの言葉を遮るようにコリンが声を張る。
「第三皇子殿下といえど王族です。新しくドレスを仕立てないといけません。今、お嬢様がお持ちになっているドレスでお迎えするなど、失礼に当たります。」
「そ、そうね。仕立て屋を呼んでくれるかしら。」
「かしこまりました。」
そういうとコリンは素早く部屋から出て行った。
(コリン。何かあるごとに色々な理由をつけてドレスを作らせようとするのよね。)
(それにしても、第三皇子殿下の評判は最悪ね。王室に詳しいメイドやお父様についてともに王室へ行く秘書のダコンにも話を聞いたけど、皆口をそろえて良くない噂を話してくる。)
(王妃であるクレア様といい関係ではないことは知っていたけれど、噂に聞く第三皇子殿下は母親であるシェリア様がなくなった後、人格が変わり、メイドや執事に厳しくあたるようになった。)
「母親が亡くなったショックで、ね、」
(私も生まれてすぐに母を亡くした。きっと、そのことも知っているから国王陛下は、私に。)
コンコンコン
誰かが再び扉を叩く。
「お嬢様~!仕立て屋が到着したので広間までお連れするようにとメイド長に言われたのですが。」
「も、もう来たの?わかったわ、すぐに行きましょう。」
(コリン、私の部屋に来る前から仕立て屋を呼んでいたのね。)
呼びに来たマーガレットと共に広間へ向かう。
「メイド長、お嬢様をお連れしました。」
「お嬢様!お元気そうで何よりです!お嬢様がお倒れになったときいて、このデイニス、夜も眠れないほど心配しておりました。」
部屋に入るなり大げさな話をし始めた人物は、ロッツ家御用達のデザイナー、デイニス・ブラッテンだ。
(デイニスは国内一人気のブランド「ロイヤル・ブラッテン」のデザイナーだが、昔はただの傭兵で、訓練の休憩中に書いていたドレスのデザインを、たまたま視察に来ていた私の母が気に入って出資、ブランドを立ち上げるまでにいたったと聞いたわ。母への感謝の気持ちとして、どんな以来よりも先にロッツ家のドレスを仕立てるようになったのよね。)
「心配かけてごめんなさいねデイニス。でも、もうこの通り元気になったから大丈夫よ。」
「それならよかったです!それで、今日はどのようなドレスを仕立てましょうか。」
デイニスはスケッチブックとペンを取り出した。
「二週間後、第三皇子殿下との茶会の約束があるので、それに合うドレスをと」
メイド長のコリンが答える。
「第三皇子殿下との茶会!?なんてこった、お嬢様にとっては一大イベントじゃないですか!」
デイニスは立ち上がり拳を握り締める。
「このデイニス!国一番のドレスを仕立て上げます!」
「よろしくお願いします。」
デイニスとコリンが盛り上がっている。
(私が口を出す暇はなさそうね。ドレスはコリンとデイニスに任せましょう。)
「デイニス、ドレスはあなたのセンスに任せるから、先に帽子とアクセサリーを見せてくれる?」
「はい!承知致しました。少々お待ちを。」
執事やメイドに手伝ってもらいながら、机に色々な種類の帽子やアクセサリーがならべられる。
(ドレスと合わせるものはドレスのデザインが完成してから選ぶとして、他のものを選びましょう。最近は庭園を散歩するのが日課になっているからつばの広い帽子が欲しいのよね。)
「マーガレット。つばの広い帽子が欲しいのだけれど、どれがいいと思う?」
「そうですね~、どのお帽子も素敵ですけど、、、」
マーガレットは帽子が置かれている机の周りをウロウロしながら考えている。
「これなんかどうですか!」
マーガレットが選んだのは白色の帽子に、ブルーマリーの花飾りがついた帽子だった。
「この花!ブルーマリーですよね!お嬢様のために作られた帽子なんじゃないですか!」
「おぉ!マーガレットよくわかったね!それはお嬢様に差し上げようと思って作ったものなんだ!」
コリンとドレスの話で盛り上がっていたデイニスが食いついてきた。
「差し上げるって、こんな素晴らしいもの、代金も支払わずに受け取ることなんてできないわよ」
「そんな、代金なんて気にしないで!お見舞いにこれなかったお詫びも兼ねているんですから。」
子犬のような瞳にうっすらと涙をうかべてデイニスはブルーマリーに詰め寄る。
「わ、わっかたわ。ちょうど帽子が欲しいと思っていたの、ありがとう。」
「いえいえ!よかったです!」
ブルーマリーが帽子を受け取ると満足そうにコリンとのドレスの話に戻った。