クエスト80 [右腕]
「…では、始めます。」
「具体的には何をするんだ?」
「カオスの分体たちには、ある程度の距離に自分より上の者がいた場合、吸収されに行くという能力があります。
その性質を利用し、この二人の間に私のコアを置きます。」
「そいつらを吸収して、起こせるかどうかやるって事か。」
「正直、できるかどうかは分かりませんが、やる価値はあるでしょう。
少なくとも、これで恐らくご両親は目覚めます。」
「…なら、もうちょっと前に試しても良かったんじゃない…?」
「これはだいぶご両親方に負担をかけます。
今回はあくまでも急を要するからやるのです。」
「わかったよ。」
「では、ここからコアを取って其処に置いて下さい。」
「…前、自分で動いてなかった?」
「ここは魔力濃度が薄すぎます。流石にこれじゃ無理です。
だからこそ、カオスの分体も殺した後、形を上手く保てないんですよ。」
「良いこともあるんだな。」
そう言って俺はシュヴァリエの胸甲冑に開いたところから、白と黒の混じり合った水晶玉みたいな物を取り出した。
以前見たものより大き…重たっ!
俺の筋力値が著しく下がったのもあるだろうけど、お、重い…
その後、俺は時間が少しかかりながらも運んだ。
「それじゃあ、時間がかかるので暫くお待ちください。」
そう言ってシュヴァリエは話さなくなった。
恐らく集中しているのだろう。
…もう数日経った。
世界中のモンスターの八割が倒された。
何時本体が攻めてきてもおかしくない。
シュヴァリエ…まだなのか…?
その時、後ろの扉が勢いよく開いた。
「赤月さん!」
「ここは立ち入り禁止と言ったじゃないか。」
「すみません!でも!街に!」
「…本体がもう?!」
チッ…最悪だ。まだ力が戻ってないのに!最悪のタイミングで本体襲来かよ!
「違います!」
「…え?」
「本体じゃないです!」
「じゃあ、何だ!」
「倒された奴らの死骸が集まって再び動き出したみたいです!」
「は?!」
俺は急いで部屋を出てテレビの前に向かった。
『そちらどのような状態でしょうか。中継が繋がっております。』
『えー、こちら上空です。
モンスターは赤月ハンターによって討伐されたものと、見られていましたが、モンスター2体が交わり、新たなモンスターとなった物と思われます。』
『このような事態、どう思われますか?』
『そうですね…モンスターが合体する…ましてや死んでいる奴が動き出すことは前例がありませんから…何とも…』
「…何で………ハッ!」
〈カオスの分体にはある程度の距離に自分より上の者がいた場合、吸収されに行くという…〉
普段は燃やすから分からなかったんだ。
本来、殺した直後はまだ体のあちこちに点在している状態。
つまり、本当にカオスの分体を殺していたのは最後の炎だったんだ!
今回、俺は封印されたし、一体シュヴァリエに任せたから2体を放置してたことになる!
「…最悪だ…!」
となると、そこに居るのは身体能力が馬鹿高い最強のモンスター!
しかも近くには柚月達が処理してるエリアや、救護所、公共シェルターがある!
「行かなきゃ…」
俺は走り出した。
「待ってください!」
俺はそれを無視して走った。けど、南田君は回り込んで俺を正面から停めた。
「僕に走りで勝てないような奴が行って何をするんだ!」
「…」
「今は他のS級に情報を渡して討伐してもらうしかない!」
「それじゃあ、ダメなんだよ…」
「どうして!」
「そこに一番近いS級は柚月だ!」
「ッ…」
「守られるんじゃない、守るって決めたんだ!
守る力が無いからいくな?
そんなわけないだろ!
アイツの狙いは俺だ。俺が行けば彼奴は止まる。」
「なら尚更駄目だろ!
あんたに残される柚月さんと、彩ちゃんの気持ち考えろよ!親の気持ち考えろよ!
自分のせいで人が死ぬ。それがどれほど心に来るか分かるだろ!
俺だって、未だに斎藤さんのことは覚えてる!
もう2年も前なのに!名前しか知らない浅い関係の人なのに!
あの人が直接守ってくれたわけじゃないけど、あの人が居なかったら襲われてたのは自分だった!
自分の知っている人が死んだらどれだけ悲しいか分かるだろ!」
「…誰が死ぬって言った。」
「死にたくなくても死んじゃうだろ?!」
「俺だって彼奴等とは一年戦ってきてんだ。力が無くったって、それくらい何とかしてやる!」
「…貴方は、止まる気は無いんですね。」
「あぁ。悪いが、説得できると思うな。」
「…じゃあ、数分だけ待ってください。」
「…なる早で。」
「はい。」
そして、三分後、南田君は一つの鍵を持ってきた。
「この鍵は家の倉庫の鍵です。
大広間から右手に進んだ突き当たりの部屋。そこが倉庫です。
そこにあるのは十個の魔道具です。」
「?!魔道具って…超高級品じゃないか!」
今の俺の全財産で一個か二個買えるかってレベルの能力付きの強大な武器や防具。
「使ってください。そのかわり、必ず帰ってきてください。」
「あぁ。」
そう言って俺は走り出した。
俺を見送る南田君の背後から南田君の父が近づいてきた。
「父上…」
「お前はこれで俺に莫大な借金ができたな。」
「はい。でも、僕は満足してます。」
「あの男の役に立つことがそんなに嬉しいのか?」
「えぇ。なんてったって、僕が唯一の彼の右腕ですから。」




