クエスト69[ただいま]
ブワァン…という感じの魔力がそのゲートから出てきた。
トレントは驚いて攻撃を止め、慌てて上を向いた。
最上位モンスターであるS級の自分より格段に強いものがこの地に降り立とうとしている。
トレントには自分が火達磨になったときですら余裕があった。
しかし、今は違う。正真正銘の焦りだ。
「今だ!」
その時に結月が帯雷炎を発動し、根の拘束から脱出。
魚部ハンターも自分に対して水刃を数回撃つという荒技を使い、脱出に成功した。
しかし、トレントからするとそんな事はどうでもいい。
腹や胸を貫かれた瀕死の獲物が逃げようと、その辺でくたばる為自分の脅威には到底なり得ない。
実際、結月達は脱出はしたが、怪我のせいで意識を保つので精一杯。
それに、呼吸も満足にできないし、とてもじゃないが、助けになんて回れない。
幸いな事に、傷が直径数センチで根が刺さったままなので、失血死はなさそうということだ。
しかし、このままだとほぼ間違いなく死ぬ。
魚部ハンターは刺されたのが右の二の腕だった為、そのまま他の人達を救出に向かった。
もはや自分にできるのは北宮ハンターと星に矢弧火を渡すことだけだ。
しかし、まだ北宮ハンターは救出されていない。
その時、インカムから衝撃の言葉が放たれた。
『いつの間にか同じ所にS級と思われるゲートが出現!しかも、それがダンジョンブレイクを起こしかかっています!』
ハンター達の顔には焦りと絶望が入り乱れた。
後ろで色々おこっていたが、トレントは一切気にしていない。
わかるのだ。後、数秒でそいつがゲートを破って現れることが。
そいつがゲートから出てくる以上、モンスターだ。
なら、S級として逃げるのはプライドが許さなかった。
…後、3、2、1… パリン!
ヒュー…ドン!
その生き物の着地と共に大きな土煙が舞い、全員が気が付いた。
トレントは壊された根を再生させ、戦闘態勢に入った。
そして、先手必勝と言わんばかりに根で攻撃を仕掛けた。
しかし、その根たちは一瞬で細切りにされた。
それはトレントだけでなく、ハンターからしてみても驚きだった。
炎が付いていないただの斬撃攻撃で簡単に切断した。
しかも、それが恐らく通常攻撃。
尖閣諸島でのあいつの姿が脳裏を過った。
その生物はトレントには目もくれず、こちらに一直線に来た。
しかし、土煙から出てきた生物はモンスターではなかった。
その人物は約一年前に地球から姿を消した男。
世界最強の男。
髪がだいぶ伸びていて1年前とは似ても似つかないが、間違いなくその人物だ。
男は結月に近づき、スキルを使い始めた。
「結月、遅くなってごめん。」
「あ…あ…」
「心配かけた。ごめん。」
その時、トレントが後ろから根で攻撃してきた。
しかし、それも簡単に斬った。
「でも話は後だ。けが人を連れてきて。」
そして、トレントの方を振り返った。
「よぉ。久しいな。ちょっと前にお前と同じ種を屠ったばかりだよ。トレント。」
トレントの目には恐怖が映った。
「ゲギャギャギャ!」
トレントはすべての根で男を取り囲み、全方位から攻撃を仕掛けた。
しかし、それらはすべて燃やされた。
「俺は今怒ってるんだ。
結月を二度も守れなかった自分と、結月を傷つけたお前にな。」
そして、ゆっくりと一歩一歩トレントに向かって歩み出す。
「ゲギャギャギャ!」
トレントは負けじと根を再生させ絶え間なく攻撃を続けた。
しかし、どれだけ再生し、攻撃を仕掛けたとしても必ずすべてが切り落とされる。
そして、遂にほぼゼロ距離までに近づいた。
しかし、トレントは恐怖で動けなかった。
かなわないのだ。
自分はこの生物の足元にも及ばないと悟ったのだ。
そして、自分の命に王手がかかったのだ。
「…死ね。」
トレントに近づいた亮は、力強く拳を握り、トレントを殴った。
「終わりの破壊。」
ベキバキベキグシャベキ
異様な音を立てて、トレントは粉砕し、木屑と化した。
「亮!」
後ろでは結月が全員を集めて呼んでいる。
直ぐに駆け寄り、傷を治す。
全員の傷が治り、みんなが安心した時、皆は空気を読んだのか少し離れた所に行った。
そして、その場には結月と亮が取り残された。
「…遅い」
「…ごめん…ただいま」
「…おかえり」
そうして2人は抱きしめ合った。
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