クエスト67[亮の居ない世界で]
「ハァ…」
結月は紅茶を飲みながらため息を付いていた。
そろそろ亮が居なくなってから一年が経とうとしている。
朝に2人で飲んでいた楽しい時間は今では億劫な時間になりつつある。
朝ご飯に並ぶのは、亮が作ってくれた綺麗なオムレツではなく、自分が作った形の崩れたオムレツ。
いつも明るかった家は、暗く静かになった。
そんな時、事務所の南田さんから電話があった。
「もしもし、赤月です。」
「あっ!天狐さん!赤…亮さんって…」
「…家には私一人ですよ。」
「…ですよね…では、緊急ですので烏天狗さんと、天狐さんのお二人は何時でも出発できるように準備をお願いしてもいいでしょうか。」
「何かあったんですか?」
「教会からのS級緊急徴収です。
長野県上空にてゲートの外殻が確認されました。
詳しくは、車で迎えに行きますのでその中で。
烏天狗さんに、連絡ってお願いできますか?」
「分かった。伝えておく。」
「よろしくお願いします。十五分後に下に着きますので、それまでに準備をお願いします。」
そうして十五分後、車に乗り込んだ。
「それで、ゲートの大きさはどのくらいなんだ?」
「詳しくはわかりませんが、恐らく尖閣諸島のゲートと大差ないかと。」
「でも、ダンジョンブレイクまではまだ時間が有るでしょ?
どうしてそんなに急ぐの?」
「日本には飛べるハンターが居ないので、必然的にダンジョンブレイクが起こるまで何も出来ないんです。
こんな事は前例が無い。
どうなるか分からないから、上も急いでいるんです。」
そして、南田さんはボソリと言った。
「…こんな時、亮さんが居たら…」
そうして、三十分もしない内に会議室に着いた。
そこには、北宮ハンターと虎山ハンターと魚部ハンターが揃っていた。
そこに私と兄さん、それと分からない事があった時のために南田さん。
日本の最高戦力がここに集結した。
「これで、全員だな。」
皆を一望した魚部ハンターはモニターを操作し始めた。
「全員知っていると思うが、今回のダンジョンは、ダンジョンブレイクが起きた後でないと何もできない。
したがって尖閣諸島のときと同じく、総力戦をするしかない。」
「自衛隊の派遣は?」
「ここは木が多すぎるから戦車等には期待できない。
それに、ダンジョンがS級だから、半径二キロの一般人の避難が終了したら自衛隊には撤収してもらうつもりだ。」
「予測被害範囲は?」
「S級のボスとなると半径一キロは確定だろう。だから大きめに見て半径二キロだな。だから、そこまで避難勧告を出している。」
今回は合同ではなく、更に最高戦力の亮も居ない。
だから、S級ダンジョンのダンジョンブレイクは5人で止めなければいけない。
全員に緊張が走る。
「それじゃあ、編成を話し合おうか。」
《約2週間後》
「いよいよだな…」
全員がフル装備で山に囲まれた平地でダンジョンブレイクが起こるのを待っている。
待ち始めてから三十分が経過した頃、上空でゲートを見張っているドローン部隊からインカムに知らせが入った。
『ゲートにひび割れを確認!まもなくダンジョンブレイクが発生します!』
「全員、戦闘用意!」
そしてほんの数秒後、パリン!という音とともに上から一体のモンスターが降ってきた。
『ダンジョンブレイクを確認!モンスターの種類は…『トレント』です!』
ズドン!という爆音とともに強風と、砂煙が舞う。
空から落ちけ来た巨大な樹木には裂けた口と吊り上がった空洞な目のようなものがある。
落ちてきたのはただ一体だけだった。
「一体だからといって油断はするな!」
トレントが居るダンジョンは木が覆い茂っている。
そして、モンスターが出る代わりに休みなく根が襲ってくるという厄介さを持っている。
その根を持つのはボスであり、そのダンジョン唯一のモンスターであるトレントである。
ヒュン! ズバババ!
トレントの根はまるで鞭のように強く、速く、何十本も生えていた。
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