クエスト33[お姉ちゃん]
私は初め、バフォメットが苦手だった。
彼女との出会いは私が日本から中国に戻った後だった。
私の年齢は14。彼女は20だった。
恐らく、兄さんが私の家族になれる様に死ぬ直前に、年が近かった烏天狗と、バフォメットの2人を護衛にしたのだろう。(ちなみにこの時、2人共まだ再覚醒をしてないのでA級とB級です。)
私が苦手だった理由は一つだけ。
怖かったからだ。
彼女は兄の方とは違い決して笑わなかった。
けど、兄と喋るときなどは笑うこともあった。
私と喋る時だけ絶対に笑わなかったのだ。
仮面も一度も取らなかった。
兄は取ることもあったのに。
兄がする事を妹はしなかった。
それだけでも十分あの時の私からすると怖かったのだ。
皆さんは、当主と聞くとすごい人だと思うかもしれない。
上に立つからにはちゃんとした大人だと思うかもしれない。
確かに、その時すでに私はS級ハンターだった。
力を持っていた。
たが、子供なのだ。
まだほんの中学2年生くらいだったのだ。
当主が変わって、私を慕う人がまだ少なかった時、心を開かない人が身近に居るだけでも怖かった。不安だった。
自分が犯人だとは未だにバレてはいないが、証拠がないだけで、知ってる人はいるかもしれない。
その人にやられる可能性も全然あり得る。
その人が、護衛の可能性も全然あり得る。
だからあの時の私ははっきり言ってバフォメットを信用してなかった。
その考えが間違っていることが明かされたのは私がプチ家出をした時だ。
当主になってもついこの間までただの当主の子供だった。だから自覚がなかったのだ。
当主が消える事が何を意味するのかを分かってなかったのだ。
私が確保されたのは私が城を無断で出てから5時間後。
捕獲された私は上の役人みたいな奴等に物凄く長い説教を受けた。
その後、部屋に戻っても烏天狗に長々と説教をされた。
今思えば、その時は烏天狗も上からかなり怒られたのか少し機嫌が悪く、当主の私に向かって小声ではあったが、こんな言葉を吐いた。
「ッチ。これだからガキは。」
私はその時、また逃げようかと思った。
慕ってくれていると思っていた人ですら心のなかでは私をガキだと思っていたのだ。
所詮血統だけで選ばれた子供の私には誰も興味がなく、道具としてしか見ていないんだな。と思った。
そんな時だった。バフォメットが烏天狗の面をとり、頬を引っ叩いたのだ。そうして言った。
「当主様に謝りなさい。
こんな小さな子供が責任に耐えられなくて逃げたって良いでしょう。
頼まれましたよね?『雪を頼む。家族になってやってくれ。』って。
忘れたんですか?
最後のお言葉だったのに。
託されたのに。
貴方は妹に向かってガキって言うんですか?
言いませんよね?
私に言ったことないんですから。」
何が起こったのか分からなかった。
バフォメットが、私を守ってくれている?
何で?あんなに嫌ってたのに。
「貴方が上に怒られて苛ついているのは知ってます。確かにそれは当主様のせいです。
でも、もう十分怒られています。
何で家族の貴方が『おかえり』の一言も言ってあげないんですか?
何で説教から始まるんですか?
家出をするにはそれ相応の理由があるのです。
些細な反抗だったり、世の中に絶望したりとその理由にレベルはあるもの、皆現状が嫌になって起こすんです。
一種のサインなんですよ。助けてほしいっていう。
家族なら、家族くらい、助けましょうよ?
貴方は昔、私に向かってこんな事を言いました。
『妹を守るのは兄の責務』だと。
…できてないじゃないですか!本当にやらなきゃいけない時に!
妹が傷ついている時に助けてないじゃないですか!
何を偉そうなことを言っておいて!
はっきり言って貴方は『兄』失格ですよ!
…もう一度言います。当主様に謝りなさい。」
「…申し訳ありませんでした。」
「…いえ。いいです。」
その日からだ。バフォメットの印象が変わったのは。
彼女は相変わらず仕事中は絶対に笑わない。けれど話すようになった。
名前は何?とか、好きなものは?とか、他愛もない会話だけど。
本当の姉妹みたいに。
怖かってたのが嘘みたいだ。
むしろ今、一番好きだ。
彼女の守る翼はとても頼もしかった。
誰にも何も言わせない。
彼女は正真正銘、私の『お姉ちゃん』だ。
気軽に読んでください。初めての作品なので、少しでも良かったら、感想、評価、リアクションください。モチベーションに繋がります!




