5 大いなる布石
5 大いなる布石
1574年――。
佐吉は大谷や虎之助、そして市松と幼少期を過ごし、見事に元服を果たした。
石田三成を名乗り、晴れてようやく武将としての名乗りを上げた。
次期はもうすぐ織田が、武田との雌雄を決する間際、情勢は目まぐるしく変化する。
佐吉は武田と雌雄を決する前に徳川家康を見てみたいと思った。
「殿、私は徳川家康と言う人物を見てみたいのです。
彼は殿と並ぶ才覚と持ち前の我慢強さを持った大器量の人物。
必ずや、大出世を遂げます。彼の懐に入り、見てみたいのです」
佐吉はすぐさま長浜城の天守閣で上座に座す主に言いのけた。
秀吉は手に持った扇子を閉じると、目を閉じて思考にふけり、そしてカッと目を開けて言った。
「佐吉、ならばこうしよう。徳川殿にお前を献上する。
建前は羽柴と徳川の共有家臣……すなわち、二重工作」
こうして佐吉は荷造りをして、盟友となった大谷に別れを告げて、三河に出発した。
数か月の道のりの後、辿り着いた三河の地は徳川の地盤の盤石さを表すがごとくであった。
街並みは活気があり、商人が往来し、治水も完璧。
正に統治の極致。
「羽柴筑前の守秀吉が家臣、石田三成にござる。
手前は羽柴家臣なれど、徳川殿に助力いたす所存ござる」
浜松城天守閣で上座で饅頭を頬張る肥えた君主、徳川家康が目を見張る。
「これはこれは、石田村の神童の名は遠く離れた三河の地にも鳴り響いている。
三成殿は剣術も算術も教養も最強クラスの腕前だと存じておる。
それだけの人物を貸してくれるとは羽柴殿には本当に申し訳ない」
徳川家康は驚くほど、腰が低い人物であった。
佐吉が当代に並ぶ者なしと言われる文化人で武人であることを加味していても扱いやすそうな人物。
このお人の懐に入り、徳川家中を見て行きたいと佐吉は思った。
「そうだ。英明なる佐吉殿にはこの儂の息子……於義伊の傅役になってほしい。
まだ生まれたばかりだが、儂の子は必ず大人物になる。お主を置いて他にはない」
「良いでしょう。私が傅役となり、究極の才人に育て上げます」
二つ返事で了承し、佐吉は徳川家康が次男、於義伊の傅役となった。
しかし、安穏とした生活は待ってくれない。
次の日、仕えるべき主徳川家康が野犬に嚙まれたのである。
佐吉はすぐさま狂犬と判断。すぐには発症はしないが、有効打がないと誰もが思った。
だが、佐吉は持っているのである狂犬の特効薬を……これは佐吉が調合した秘匿されし秘薬。
「徳川様! これを体内に注入いたします」
佐吉は狼狽える家康の体内に薬液を注入した。
「佐吉殿、助かった。儂はもう終わりかと思った。
佐吉殿は正に神懸かりの人物……一生返せぬ恩が出来た。佐吉様とお呼びします」
こうして佐吉は見事、徳川家康の懐に入るのに成功し、徳川家臣団の列に加わった。