35 三吉の采配side三吉
35 三吉の采配side三吉
関ケ原笹尾山三吉本陣――。
三吉は首をコキコキと鳴らして、床几に座り、冷静に戦況を俯瞰していた。
先鋒に楽毅兄妹を指名して、前線に立たせている。
金で買った李朝軍には大いに働いてもらわなければならない。
しかし、近江七十万石の二万の三吉直属の軍は一兵の損失も許さない方針だ。
その後の戦略、先を見据えた三吉は後詰として宇喜多秀家軍を進めさせている。
これは父、王佐の才と歌われる石田三成の助言もある。
三吉本陣には黒田官兵衛と父、石田三成が正に三人寄れば文殊の知恵を巡らせている。
三吉は七歳を過ぎて既に身長は小柄な大人の女性ほどあった。
やはり、自分の睨んだ通り、超早熟の超高知能であったのだ。
「三吉、一気に敵軍を破るために総攻撃の狼煙を上げるべきだ」
「うむ。佐吉様の申す通り、一気呵成に出るべきですな。
何故ならば、我が軍は先の九州攻めで兵糧を使いすぎました。
実は……真に申し開きもございませんが、兵糧無いです」
黒田官兵衛は突如爆弾発言をかました。
それはまさかの想定外だった。
失念だった。
三吉は愕然としてガタガタ震えている。
もしもこの戦いで負ければ自分はどうなるのであろう。
「何!? 兵糧が……ない? ならば急いで軍を進めるべきだ。
ヤバい、今すぐ総攻撃の狼煙を上げよ! 私の軍も出陣させる。
一気に徳川を、東軍を木っ端みじんにしてやる」
三吉は慌てふためいて総攻撃の狼煙を上げた。
三吉本陣からモクモクと排煙の狼煙が挙げられて、西軍は全軍総攻撃となった。
三吉はいつになく焦っていた。
兵糧がないとか言われれば誰だって動揺するのは必然。
超然としている自分がここまで心揺れるなどとは到底信じられなかった。
飢え死には勘弁こうむりたい。
それに何で黒田官兵衛はこの重要なときに兵糧がないとか言い出すのであろうか。
――まさか兵糧がないとは……とんだ馬脚の現し方だ。
天下を統一するのは徳川ではない。この私だ。
反対に黒田官兵衛はニヤけていた。
まさか……と思ってハッとした。
三吉が馬脚を現すのを試していたのだ。
黒田官兵衛は馬鹿な小娘を見るような目で三吉を見て笑っている。
「三吉様、御自覚なされよ。貴女は天下人となられるのです。
この程度で動揺するようでは務まりませぬ!」
黒田官兵衛は急に覇気を漂わせて三吉を叱責した。
「官兵衛、申し訳ない。天下を取るのは私だ」
三吉は再び超然とした面持ちを作って、出陣の準備を始めた。




