33 徳川秀康の野望side徳川秀康
ブックマークありがとうございます。
33 徳川秀康の野望side徳川秀康
西暦1588年――。美濃関ヶ原。
東西両軍合わせて二十万規模の大戦が始まる美濃関ヶ原は濃霧に包まれていた。
関ヶ原と言う地は要衝であり、平地が中央にあり、その周りを山地が囲う。
徳川秀康は東軍を率いて三万の兵を満を持して桃配山に本陣を敷いた。
――父上を廃して家督を強引に相続して正解であったわ。
九州で異常事態が起こった事を知った徳川秀康はまさか、と思った。
師である佐吉の嫡男である三吉が上方軍を掌握し、秀吉は廃されてしまった。
馬鹿な、と思ったが、三吉という小童に何が出来ると秀康は一笑に付した。
物見の兵から聞いた三吉の特徴は女子のような美形だと言う。
確かに秀康としても大いに興味がある。
敬愛する師の子である為に相まみえぬ三吉に興味が沸いた。
「三吉め……もしかすると、女子だな」
「まさか……!」
秀康は顎に手をやり、ニヤリと笑みを零した。
それを見た側近の井伊直政は驚愕の顔色を浮かべた。
幼き頃より、秀康の感はよく当たる。
それを知っている徳川直臣達は成程と唸った。
「私の読みでは、佐吉……師は生まれた女子を男として育てておる。
成程な。敢えてそうしているのは将来必ず超全とした人物となる事は確定だからだ。
師の人物眼は天下に比類ない。しかし……何てことを師は娘にやらせるのか。
それに応えようとした三吉も超人的だ。秀吉を廃し、天下の半分を掌握するとはな。
末恐ろしい娘だ。ならば満を持して迎え撃ってくれよう。狙うは三吉の首だ!」
秀康は己の読みの鋭さを何よりも信じている。
女子の三吉に後れを取る自分ではない。
軍配を高らかに掲げて、天を仰ぎ見たが、まだまだ懸念がある。
三吉の奴が、李朝軍を雇っているという情報が舞い込んできた。
李朝軍……李舜臣を始めとした李氏朝鮮の両班を核とした兵団である。
だが、李朝軍内で亀裂が生じて同士討ちを始めたらしい。
――馬鹿な三吉め。不穏な軍隊を平気で雇うからそんな事が起きるのだ。
残ったのは東中華の軍神である楽毅の子孫である楽毅乗と言う将軍らしい。
厳密に言うと、楽毅乗は李朝の両班ではない。
元々は明国の将軍であり、明国第一の将である李如松の麾下の将だ。
だが、突如、楽毅乗は李如松を真正面から心臓を抉り屠った。
そこから反転して、楽毅乗は李朝に移ったが、更なる戦場を求めて三吉の元へはせ参じたのだ。
日の本に楽毅の子孫が、やってくるとは何と感慨深いのだろう。
楽毅については当然、師から習った。
軍神と形容するに相応しい最強の大将軍であると謳われていた。
楽毅の流れを汲む、楽毅乗も相当練度の高い兵を持つと噂されていた。
どうやら、敵先鋒は楽毅乗軍四千だと情報を掴んだ。
元々、楽毅乗軍は兵五千だったが、李舜臣軍と同士討ちで多少削られたらしい。
これは思いもよらぬ好都合だった。
――勝手に兵を削ってくれたのだからな。
敵先鋒は楽毅乗軍四千の精鋭にして強兵。
だが、此方の先鋒も負けじと思いがけぬ戦力を充てることが出来た。
「前田利家の奴……東軍と西軍、どちらが勝っても家が残る選択肢を取った。
全く賢い奴だ。虎の子の娘に兵一万を割くのだからな」
その名は豪姫……前田利家の娘にして天空竜と謳われる天下一の女傑。
しかも完全武装の騎馬隊一万を率いているのである。
それを天下一の女傑、豪姫が統率するのだから負ける道理がない。
「西軍は鶴翼の陣を敷いた。
鶴が翼を囲うような布陣……西軍の方がかなり兵力が勝っているから取れる陣容だな。
だが、私も抜かりはない。三吉以外の敵将に寝返りの文を送り込んだ。
必ず、三吉の軍は綻びがどこかで生じる」
秀康は自分を何よりも信じている。
如何に三吉が天才でも、偉大なる師の教えを受けた自分が負けるなどとは露にも思わなかった。




