29 楽毅の末裔side楽毅乗
29 楽毅の末裔side楽毅乗
李舜臣の天幕を去った楽毅乗は思わず笑みを零した。
――李舜臣の脳筋め……この私の方が遥かに強いわ。
馬鹿の極みだ。
相変わらず楽毅乗の事をポンコツだと思い込んでいると見受けられた。
楽毅乗は何れ李舜臣は破滅すると思っていた。
李舜臣……彼の御仁は自分が最強だと思い込んでいる間抜けにすぎないと実感した。
確かに李舜臣は強い。
李舜臣軍は指揮官クラスが多数在籍しており、李舜臣自身も天下無双の豪傑。
全員が矛の達人と言う稀に見る強軍であることは明白であった。
そんなことは楽毅乗とて、百も承知。
正直、日の本で立身出世を図っていく為に李舜臣は邪魔な存在。
李舜臣軍の兵力を少しでも削るために策を練らなければならない。
考えを巡らしながら、自身の天幕へと戻っていった。
「おお! 楽毅乗様! ようやくお戻りになられた」
楽毅乗の側近たちが出迎える。
それを楽毅乗は手で制した。
「兄上、李舜臣将軍は何と?」
楽毅乗と瓜二つの見た目の女が鋭い目を光らせて言葉に出した。
楽毅乗の双子の妹で副将の楽毅辛であった。
やや癖が強いが、大陸一の弓の達人である。
楽毅兄妹はまだ二十一歳という若さである。
楽毅乗は今後の方策を練っていた。
李舜臣軍の兵力をどうすれば大幅に削ることが出来るのか。
待てよ、と思い李舜臣兵を削るのではなく、李舜臣の大駒を削る策を思いついた。
まずは李舜臣の側近、元均……こいつは李舜臣軍の要である。
「愚かなる妹よ……」
その言葉の意図を察した楽毅辛は、
「兄上、李舜臣軍の要である元均将軍を討てと?」
「そうだ。お前の弓の腕だけは認めている。
その弓で元均を消せ。弓しか能のないお前にはうってつけの大役だな」
「分かりました。兄上……兄上の命に従います。
私の手勢を率いて、今晩夜襲を仕掛けます。それでは準備を致します」
やはり、兄妹は以心伝心するものである。
これが兄妹の絆の強みであった。
楽毅辛は深々と礼をして、楽毅乗本陣から千人の兵と共に消えた。
「馬鹿な妹め……無駄に美形なことで。
妹じゃなければ、あわよくばと思っていたが」
楽毅乗はそんな妹の背中を見つめていた。
――昔はこんな兄妹間ではなかった。
いつのまに私に邪な心が芽生えたのがいけなかったのだ。
そう。
楽毅兄妹は幼少のころは本当に仲が良かった。
楽毅乗が変わったのは、明国第一の大将軍李如松を斬って捨てたのだ。
それが原因で、楽毅兄妹は李朝に移籍した。
それからだった。
妹が、自分に恐怖が芽生えているのは明らかである。
大切な妹の前で李如松を斬って捨てたのだから。
妹が去った後で、楽毅乗は今更引き返せぬと思った。




