機械仕掛けの婚約者
7/25 12時 空想科学的にと思って書いていたのですが、追加して書けば書くほど、いつものヒューマンドラマテイストになってしまいました。その為、ジャンル変更しました。
内容は初書きよりも、だいぶん追加しています。
断罪後によるBL要素が含まれています。
苦手な方は、読まない方が良いと思います。
苦手なのにもう読んでしまった方は、ごめんなさいね。
「お前は素直に金を出せば良いのだ! クソッ。本当に愛想もない、可愛げのない女だ。それに比べてラビニュは………………」
はーっ、恐喝、暴言、浮気発言。
いきなり訪問して来て、何を喚いているのだろう?
私はいつもの命令通りに応接室にて、侯爵令嬢インフェルの婚約者である、第二王子カヴァルートの対応をしています。
この王子、金髪碧眼の副騎士団長、ガタイも良く王妃に似て儚げな顔をしているから、性格を知らない人には大人気らしい。
「申し訳ありません。私の一存では決めかねます。
父に相談してみます」
「駄目だ。内密にしろと言っているのだ」
「………………、少々お待ちください」
「全く。お前の家は金だけはあるのだ。お前に当てられている支給金(お小遣い)があるだろうが。それを寄越せば良いだけなのだ。時間が勿体ないじゃないか、早くしろ!」
そもそも、侯爵令嬢の支給金(お小遣い)はインフェルの物だ。
馬鹿王子のものではない。
けれど私は、言い返すこともなく席を立った。
長い廊下を通り、インフェルの部屋に辿り着く。
「コンコンッ」
「はい、どうぞ」
そこにいるのは、侯爵令嬢インフェル・アルガーゾン。
私の主人である。
「いつもごめんね、あんな罵倒を受けさせて」
「いいえ、何ともありません。私に感情はありませんから」
「もう、そんなこと言わないでよ、β。貴方が学習を積んで、感情領域も発達しているのを知っているんだから。本当にごめんね。この編集終われば、代わりなんてさせないから!」
私は侯爵令嬢の姿に扮していますが、実はアンドロイドなのです。
《個別識別番号は、アンドロβベータ113で御座います。一応男性型なのですが。 それと、基本的に丁寧口調で対応させて頂いておりますが、第二王子に対しては多少言葉が崩れるのはお許しください》
カヴァルート第二王子が言われていた通り、アルガーゾン侯爵家の資産は王国を軽く凌ぐ勢いで、益々増益を続けています。その大まかなものは、ロボットや精密機械・ロケットなどを担う産業を持つからです。
魔法がない世界なので、科学が進歩しています。
はっきり言ってアルガーゾン侯爵家が、カヴァルート第二王子なんて不良債権を引き取る義理はありません。単なる王命で押し付けられた契約なのです。
王家は、独立出来る程の資金や各国へ影響力のあるアルガーゾン侯爵家に、第二王子を婿に据えて操るつもりなのです。
あんな馬鹿でも、「将来的にインフェルに子が出来てしまえば、逆らえなくなる」と国王に言い含められ、婚約の継続をしているのです。
もう馬鹿王子と呼んでも、良いですよね。
但し、あの馬鹿は本当に馬鹿でした。
お嬢様にプレゼント一つ寄越さないのに、借金? でもないですね、金をねだっていくのです。それを愛人のラビニュ・レライ男爵令嬢に貢いでいるのです。
それは湯水のようにです。信じられませんよね。
そしてお嬢様を罵り、悪し様にするのですからますます理解不能です。
そこで私、βの出番です。
樹脂で特別加工した本物そっくりの皮膚を装着し、声もお嬢様の物を数パターン記憶します。そしてドレスを纏えば完成です。
非常に不愉快ですが、首から下のボディだけは今だけお嬢様仕様のパーツに交換しております。馬鹿を騙す為とはいえ、不本意です。
「ごきげんよう」
「申し訳ありません」
「そうですか」
「まあ」
「私の一存では決めかねます」
「父に相談してみます」
「…………………」←無言
「少々お待ちください」←お嬢様に相談案件
「本当は軽く200個くらいは音声の再生が可能なのだけど、これで十分よ」と言って、お嬢様は最小限で設定してしまった。
本当に足りるので驚く。
「流石に長い付き合いですね」なんて、口が避けても言わないけれど。
話は戻り、馬鹿王子のお小遣いのおねだりに、条件をつけることにしたようです。
「貸したくはないけれど、居座られても面倒なので。
こんな感じでどうかしらβ」
したり顔で私を見るお嬢様は、幼き頃と同じように悪戯っ子の顔をしておいででした。
「………どのみち、結婚なさいませんよね」
「そうね、しないわ」
「でしたら、収支はマイナスでは?」
「それがねえ、ヒソヒソ」
「ふむ、でしたら、まあ、良いでしょう」
ふふふっと、合格点ねと笑うお嬢様。
私も甘く絆されてしまうくらい、魅力的に成長なさいました。
私は彼女が初めてプログラミングしたアンドロイドで、人工知能のベースは亡くなられたお父様だそうです。姿もお父様そっくりだとか。
そのせいか私は、他のアンドロイドよりもお嬢様を守りたい気持ちが強く、何にでも果敢に取り組み傍らに遣える栄誉を賜りました。今では家庭教師も私の担当です。学習も武芸も、私を越えるものはまだ居ないと自負しておりますよ。
◇◇◇
「なんだこの誓約書は?
俺を馬鹿にしているのか?」
誓約書の説明は、流石にお嬢様がしてくださいました。
「駄目でしたら、お金は差し上げられません。お帰りください」
毅然としたお嬢様、お美しいですぞ。
実際に、プラチナブルーの腰まで伸びる長い髪と、水晶のように透き通る紫の瞳、すっと通った鼻梁、薄い唇はクールビューティーとしか言えない輝く美しさです。資金力なしでも多くの方が、妻にと望まれるでしょう。
それをあの能無しが!
失礼、ついアンドロイドらしくない言葉が。
これも多くの人間を観察して、接してきた弊害でしょうか?
まあ、話が進みませんので、私は口を閉じますね。
「まあ、待て。俺がこの家に婿に入れば帳消しになるのだな。本当だな?」
「ええ、そうなれば返却は不要ですわ。家族になれば問題はございません」
「ふむ。後1年後だな。お前に不満はあるが、婿に来てやる。ならばもっと、金を出せ」
「まあ! でももし婚約が破談になれば、カヴァルート第二王子殿下から直接に一括返済して頂きますが、よろしいですか?」
インフェルは困ったように首を傾げた。
「良いと言った。早く、金を寄越せ」
「では、サインを」
「面倒なことを。何れここは全て俺の物になるのに!」
馬鹿王子は、誓約書を引ったくりサインをした。
そしてインフェルが用意した札束の入った紙袋を、無造作に掴み取り、また来ると捨て台詞を残していった。
「まあまあ、お礼も何もないなんて」
「あの態度を見れば、もう慈悲は湧きませんね」
「そうなの、実は。もうね、カップリング考えているのよ」
「その性癖、他に漏らしてはいけませんよ」
「大丈夫よ、βにしか言ってないから」
「それならば(ん、良いのか?)」
◇◇◇
「あぁん、カヴァさまぁ。ラビニュ、これ欲しいの、これも、あれも、ぜーんぶ欲しい」
ピンクプラチナの童顔美人は、大きなタレ目でうるうると馬鹿王子にねだる。遠慮は一切感じられない。
実は金遣いが荒く、3回程婚約解消をされている事故物件。年齢も26才で18才の王子よりもだいぶん年上であるが、王子は年下だと勝手に思っている。
胸は大きいがお肌の曲がり角だから、令嬢とは言い難く
他にも彼氏が数人いる。
彼女の舌足らずの言葉は、馬鹿王子の庇護欲にジャストミートした。
(か、可愛いラビニュたん。もう好き、愛してる!)
普段が頼られなさ過ぎて、甘えてくるラビニュにメロメロだった。顔も服も話し方も可愛い過ぎるぞ!!!
なんてことを考えて、インフェルのお小遣いで課金しているのだ。
「どうせ、俺の金になるんだから」と、反省も感謝もない溺れっぷりだ。
「ああ、良いぞ。買うと良い。その代わり、今日は寝かさないぞぉ」
「イヤァん、カヴァさまのエッチ。チュッ」
好色な目でラビニュの腰を寄せ、頬にキスする馬鹿王子。店員だって流石に馬鹿王子のことを知っているが、声に出すことはないが、呆れていた。
(この王子、婚約者には何も宝飾品を買わないのに、こんなチンチクリンにお金かけてるわ。昼間っから仕事もしないで、しょうもない)
ここは王都一の宝飾品店。
だから、金の行方は丸わかりである。
隣の服飾・装飾店も同様だろう。
馬鹿王子曰く、
「あいつは金があるんだから、自分で買えば良いんだよ。その方が好きな物を買えるだろ?」
だ、そうです。
◇◇◇
まあ、そんな感じで迂闊なので、インフェルの雇った探偵はサクサクと証言を手に入れていく。
平民に横柄な馬鹿王子は嫌われているから、誰も彼も惜しみなく情報をくれる。
「ホテルに泊まってました」
「路上でキスしてました」
「何百万、一回で使ってました」
「アルガーゾン家の悪口言ってました」
「インフェル様のことを、陰険って言って悪口を。許せません!」
「皆さん、協力ありがとうございます」
いつもキリリとした顔を、悲しげに俯き目元にハンカチを当てれば、民衆はイチコロだった。
「あんな下衆王子でも、責任感から支えようとしていたんだな」
「何でも王子の代わりに、王子の仕事もしていたそうだぞ」
「マジか?」
「それが出来が良すぎて、文官も彼女を崇めているらしい」
「それな、わかるわ」
「そんなに頑張っているのに」
「「「「馬鹿王子は地獄に堕ちろ!!!!!」」」」
インフェルは利益の為なら、笑いも泣きもする合理主義者だ。貴族の矜持など生まれた場所に置いてきたといつも言う。
「そうじゃなきゃ、今頃死んでいたわ」
◇◇◇
私βがお嬢様の代わりに馬鹿王子とお茶会などをしていた時、私の視覚と聴覚からの情報をお嬢様は自室で録画して、編集を繰り返しておりました。
お嬢様ご本人が、聞いただけでは証拠にはなりません。
わりと狡猾な馬鹿王子は、金の無心の時はプライドの為か使用人を近づかせないのです。
そこで私βの出番だったのです。
私の情報は、ダイレクトでお嬢様のパソコンに繋がっていますからね。
こうした情報を持って、お嬢様と私とお嬢様の父方の祖母マリアン様は、国王の元を訪ねました。有無を言わさず書記官同席の許可も得ました。それだけアルガーゾン侯爵家の力は強いのです。
そこに宰相も加わって頂き、カヴァルート第二王子を呼ばない状態で婚約破棄を募りました。
広い謁見室では、階上から国王の焦り声が響きます。
「なんと、婚約破棄だと? カヴァルートからは上手くやっていると聞いていたが、どうして急に?」
ああ、愚かなのは、馬鹿王子だけじゃなかったみたい。
「ええとですね、これが証拠です。後は殿下は私から資金をむしり取り、ラビニュ・レライ男爵令嬢に貢いでいます。もう10億円近くになります」
驚愕の国王に、さらに追撃する。
「この資金は婿に入れれば帳消しになりますが、流石にこんなにマイナス部分が多くては困りますわ。婚約破棄をしてください」
インフェルは祖母マリアンと共に国王に迫った。
「この子の母は、私の息子が死んでから愛人と再婚しました。そして生んだ子を跡取りにしようとしている痴れ者です。この子の頭脳がなければ、アルガーゾン侯爵家の事業は成り立たないのに。カヴァルート王子殿下を言い含め、インフェルとの間に生まれた子を盾にして、死ぬまで使い潰す気でしょう。それくらいならば、私は孫を養女にして籍を抜かせます。インフェルが居ない状態で好きにやれば良い。私と孫は新天地を目指しますから。侯爵家はくれてやりますわ」
そう、祖母マリアンに言われ、焦るのは宰相だ。
この国の経済基盤は、今やアルガーゾン侯爵家頼みだ。
侯爵家が残ろうと、インフェルが抜けては何れ崩壊するだろう。
宰相は急ぎ国王と王妃の下へ走り、婚約破棄を認めるように言い募った。インフェルのが居なければ、国が潰れると説明して説得したのだ。
只でさえ酷い状況証言と、音声入りの暴言VTRの証拠。
世論はインフェルに傾いており、最悪国も捨てると言う。
完全に詰んでいた。
詰みとなったから来たんだろう。
そして馬鹿王子の借金は、国に支払って貰わないことを条件にしてあった。それも一括返済だ。
国が立て替えたとしてもかなりの金額だ。
カヴァルート第二王子が支払えるわけがない。
「どうするつもりなの?」
顔を蒼白にした王妃が、我慢しきれずに聞いてくる。
「お聞きになりますか?」
頷く王妃に、自分のビジョンを聞かせるインフェルは、とてもハキハキとして楽しそうだった。
「実は私、取引先の王族に、ある人員の採用を依頼されておりまして。その人員を連れていけば、紹介料が貰えるんです。借金も人員採用の必要経費と認められましたよ。」
どうして過去形なの?
訝しがる王妃は、じっとインフェルを見つめていた。
「ええ、きっと、王子殿下は幸せになられますわ。殿下はきっと、包容力のある方が好きなんだと思います。今お付き合いしているレライ男爵令嬢も、26才で複数人と付き合う豊満で包容力溢れるお方ですもの。隣国で殿下をお待ちの方は、世界一のイケメンで金持ち、おまけに男性のハーレムをお持ちの方ですから、少しぐらいヤンチャでも、元気ヤンチャ枠で可愛がって頂けますわ。32才の男性盛りなので、きっと殿下もご満足頂けます! 責任感のある王子ですから、買い取られた資金分をきっちりと体で返済されることを信じておりますわ。
誓約書まで書かれておりますし。内緒なんですが、殿下の伴侶は帝国の王弟殿下ですわ。結婚式だけは挙げられないんですの、それだけは申し訳ないです」
キリッとキメ顔で、プレゼンをやりきったインフェル。
「ああ、酷い、わ……… 売ったのね?
私の愛し子を……… ああっ、いやぁーーーー!!!」
王妃はついに限界突破し、気絶した。
国王も己の欲望に、王子を巻き込んだことを後悔した。
(あの子に、インフェルを扱えるわけがなかった。すまん、息子よ)
宰相は思った。
(取りあえず、最悪の選択は免れただろう)と。
王妃が連れ出され沈黙が支配した後、既に18才になっていたインフェルは国王に直訴し、実母の侯爵代理権限を無効にし、自分へ継承権を移行させアルガーゾン侯爵に就任した。
祖母マリアンは少し寂しそうだ。
国王達はそれどころじゃない絶望的な顔色をしているが、知ったことではない。
「一緒に起業して、世間をブイブイ言わせてやろうと思っていたのに。もう一緒に居られないのね」と。
インフェルは祖母マリアンの手を取り、呟いた。
「いいえ、ずっと一緒に生きましょう」と満面の笑みだ。
因みに父方の親族は機械技師が多く、祖母も一流の技術者である。
◇◇◇
彼女は、実母アロスが嫌いだった。
父アンドレの生前から、紫頭で父のライバルであるハッカジュと浮気していたからだ。
父が突然死んだのにも疑問が残っていた。
それは彼女が、偶然聞いた一言からだ。
「私が妊娠したのを、夫に知られたわ。貴方の子を産みたいのよ。だから、あの人を殺して」
嘘っと思い、ドアの前で口を塞いだインフェル。
それに答えるように、ハッカジュは言う。
「……わかったよ、愛しいアロス。その方面に知り合いがいるから聞いてみるよ。実行日はお互いにアリバイを作らなくてはね」
「ええ、やっと一緒になれるわ。好きよハッカジュ」
母の部屋のドアをノックする前に、喘ぎ声が聞こえた。
次の舞踏会の、ドレスの打ち合わせをしようと思ったのに。まさかこんな大っぴらに、情事や殺害計画を立てるなんて。
そして気がついた。
母の回りにいる使用人が、新しい顔に変わっていることに。
ああ、こんなことが自分に起こるなんて。
そうしてこの話を父アンドレに伝え、数週間後に彼は儚くなった。周囲に気をつけていたし、護衛も雇っていたのに、護衛ごと殺されていた。
「ああぁ、助けられなかった。お父様、ごめんなさい。うっく、うっ、ひぐっ……」
葬儀では泣き止むことが出来ず、祖母に縋りついたインフェル。
その横では白々しく、実母アロスが悲しそうに対応していた。
(人殺し、殺してやりたい)
強い殺意が芽生えるが、祖母マリアンに止められていたインフェル。彼女の母方の祖父母は既に亡くなり、アロスの兄達が跡を継いでいた。祖母マリアンの夫も既に他界し、今は王都のタウンハウスに住んでいた。
「今は時期が悪いわ。残念だけどインフェル、暗殺者の知り合いがいるのなら、分が悪いわ。警ら隊に駆け込んでも証拠不十分と相手にされず、貴女も狙われるわ。時期を待つのよ。きっと油断する瞬間が来るから。
………ごめんね、インフェル。私だって、刺し違えたい気持ちなのよ。でも私が死ねば誰も貴女を守れない。だから生きて抜いて、インフェル。必ず復讐しましょう!」
そこから彼女は今まで以上にロボット工学を学び、最初のアンドロイドに父の形見の記憶データを移植した。
もしかしたら父アンドレは、こうなることを予見していたのかもしれない。積算量が半端なく大量だったからだ。
「きっと自分の代わりに、貴女を守ってくれるように設定したんだわ、アンドレが。うっ……」
「ええ、負けないわ、私。お父様もお祖母様もいてくれるんだもの」
たった二人の復讐劇に、βが加わった瞬間だった。
βが出来上がるまでには、その間にもいろんなことがあった。
◇◇◇
その後ハッカジュと再婚した実母アロスは、生まれた息子を父アンドレの子だと主張した。でも私と祖母は知っている。確実にハッカジュの子だと言うことを。
だけど、血液鑑定をしろなんて言えない。
実母アロスが再婚したのは、父の死から1年後だから、周囲も父の子だと疑ってはいないだろうから。
だから表面上では、当たり障りなく過ごした。
私が生まれたアロエスに関わらないように、実母アロスもその子を私に近づけようとはしなかった。
ある時ハッカジュが、酔って深夜に私の部屋へ入り込んで来た。
「あんた綺麗だよね。きめ細かい肌に穢れなんて知らない体、たまんないよね」
それはまだ12才であるインフェルは、強い貞操の危機を感じ、ガチガチと体が震えた。彼の欲望を含んだ目がギラギラしており、その対象に私がなるなど考えたことがなかったから。
「誰か、誰か来て!」
思った以上に大きな声が出なかった。
助けはやって来ない。
ベッドにいる私は、そのままのし掛かられた。
押し返そうとしても、体格差からびくともしない。
「嫌だ、止めてー!!!」
「うわー。可愛い声がたまらないね」
ネグリジェのボタンをはずそうと、手を伸ばすハッカジュだが、偶然に気づいた実母アロスが部屋に走り込んだ。
「何やってんのよ、こんな夜中に!」
「何って。義娘を可愛がってやろうかと思って。ふへへっ」
「っく。この子はまだ子供よ。酔ってふざけないで、戻るわよ」
「はーい。またね、インフェル。ははっ」
悪びれもなく、ヘラヘラと笑って立ち上がるハッカジュ。
「悪かったわね、インフェル。内鍵をたくさん付けて貰うから」
実母は怒ってハッカジュの腕を引き、私に悪かったと目を僅か逸らしながら、ぞんざいに謝罪して踵を返す。
そんな実母の態度なんかよりも、私は襲われたことが怖くて怖くて、眠れずに夜を明かした。
食事も摂らずに、祖母マリアンの元へ馬車で駆けつけ、泣きながらβを作り上げたのは、それから一週間後のことだった。
その後に侯爵邸に戻ったが、実母アロスには何も言われなかった。自室には頑強な内鍵が、備え付けられていた。ハッカジュが、あからさまに近づいてくることもなくなった。
ただ父そっくりのアンドロイドβには、嫌な顔をしていたが、アンドロイドを産業ベースに乗せたことで大金が舞い込むようになってからは、何も言われなくなった。
本当は父の口調そのままに会話させたかったが、丁寧口調になるように設定を変更した。これ以上母からの無用な関心を向けられないように。
その後もちょこちょこと、誘拐まがいや傷を負わせようとする者が近づいて来たが、βが追い払ってくれた。それが実母達か、別の者かは解らない。ただβ用に剣術訓練や家庭教師を付けたら、メキメキと上達し、賢くて強い執事になっていった。
他のアンドロイドよりも何十倍も優秀なのは、やはり亡き父のデータありきだ。まだまだ技術の研鑽が必要だと感じる私。
そうして年月が経ち、カヴァルート殿下との婚約破棄に辿り着けた。王家には殿下の処遇を私に任せて貰うことを条件に、慰謝料をなしにした。
あれから王妃が寝込んでしまったので、申し訳ない気持ちも少しある。自分に似ていたので、夫婦で甘やかした感はあるのだろう。子育て大失敗である。
王太子殿下は自業自得だと、カヴァルート殿下を切って捨てた。彼は心底、「今まで10億もの負債をさせていたんだな、済まない」と、非公式な面談で謝り通しだった。「大丈夫です、お陰様で回収完了です。なんならちょっとプラスになりましたし、お仕事も取れましたから」
私は本心から彼に微笑んだ。
いつもカヴァルートに、諫言してくれていたのを私は知っていた。私へも将来義妹に、家族になると、心を砕いてくれていたのだ。
私は彼が次期様で、本当に良かったと思う。
国王と王妃は、最後までカヴァルート殿下が可哀想だと泣いただけだ。国家が揺らぐ予算を立て替えるとも、分割で支払うとも言わなかった。一応駄目とは言ったが、考える猶予はあったのだ。所詮その程度の愛だったのだろう。自分達の生活が困窮する道を選ばないのは、国王としては正しいが、それなら愚痴も言わない方が良いと思う。宰相が睨んでいるのに、気づいていないのかしら?
◇◇◇
そして私が女侯爵になり、実母達を侯爵領の端に閉じ込めた。何故と聞かれたから、「父を殺し、私の命も狙い、侯爵家の血を引かぬ者を後継者にしようと簒奪に走ったからです」と答えた。
一瞬ギクッと、体を震わせていた二人。
「だってアロエスは貴女の弟よ。貴女がもし亡くなったら時にスペアは必要じゃない? 簒奪なんて考えてないわ」
「いいえ、もし私が死んでも継げません。彼には一滴も侯爵家の血が入っていない。ハッカジュの子は跡継ぎになれませんわ。それは貴女が一番ご存じでしょ?」
私はもう、実母のことを母と呼べなくなっていた。
ずいぶん前から、見切りをつけてしまったらしい。
「貴女の部屋の前で、父の殺人計画を聞きました。そしてアロエスが父の子であるかも父に確かめましたが、絶対に違うと父本人が否定しています。血液検査など不要でしょう」
「あぁ、貴女知ってたの、全部? 泳がしていたと言うの、私達を?」
膝から崩れ落ちる実母を、感情のない瞳で見つめた。
4才になる弟は、項垂れる母を見て私に憎々しげに抗議してくる。
「お母様を苛めるな、悪者!」
殆ど話したことのない異母弟に、罵倒される私。
普段からそう教えてきたんだろう。
「私は悪いことなどしていないわ。よく母上に聞くと良い」
冷たいかも知れないが、私は正論だけを伝えた。
今後彼らが頼るのは、私ではなく母方の生家である伯爵家だ。傾いていた伯爵家を立て直した伯父様だから、甘い待遇などは期待できないだろう。
せめて警ら隊につき出さないだけ、ましだと思って欲しいが、贅沢に慣れた彼らはどうするかは解らない。
馬車に積めるだけ荷物を持たせ、その日に旅立って貰った。最後まで罵詈雑言を吐いていたが、これが最後だと思って聞いた。
「アンドレが私をほっておくから。
彼の義父母がインフェルばかり優遇するから。
私をいつも馬鹿にするから。
良いじゃない、贅沢したって。
何で私には、何にも権利がないのよ」
実母は十分贅沢していた。
没落気味の伯爵家から嫁に来たことで、タガが外れたようだ。
若い時の辛さを補うように、買い求め満足しない状態だった。買い物依存症らしい。
そんなことをしたら、距離も置かれるだろう。
それでも、医師にもカウンセリングにも通わず、ハッカジュと言う愛人に逃げた。
「自分は病気じゃない」と、逃げ回って。
そしてハッカジュは悪い男で、実母は逃げられなくなり、自分が使う以上のお金をむしり取られていったのだろう。
実母は40才を越えるから、娼館なんかには売り飛ばされないだろうが、実母の生家に資金をたかるのは予想がつく。それに腹黒いハッカジュが、このまま終わろうとはしないはずだ。危険な奴らとの繋がりもあるし。
だから私は、帝国の王弟殿下に連絡した。
「年はいってますが、私の実母を堕落させた手管と妖艶な美貌は持っていますよ。ああ、殿下には及びませんが。頭はそこそこ良いので、事務仕事なんかにも重宝するでしょうから、何とか連れて行って貰えませんか? え、彼だけで良いのかって。ええ、ええ、彼だけで十分です。代わりに、頼まれていたアンドロイド犬は、無料で作成しますから。殿下の長年連れ添った愛犬ですものね。力作をお待ちください!」
あららっ、電話一本で解決したわ。
アデュー、ハッカジュ。
大人しく殿下の愛を受け入れなさいね。
逆らわなければ、安泰よ。
でもねえ彼、殿下と似てるのよ。
同族嫌悪っていうのかしら?
無事に生き抜けると良いわね。
まあ、私は死んでも構わないと思っているけれど。
酷い何て言わないで、だって父は殺されたし、私も彼のせいで男性恐怖症気味なのよ。
信じられる人が傍に居なければ、商談もできないのだから。結婚はたぶん無理ね。
でもお父様がいるから、寂しくはないわ、きっと。
実母達はみんなが離れていく前に、警ら隊に連れて行った方が幸せだったのかもしれない。
異母弟のアロエスのことは、実母の生家に任せようと思う。
戸籍は私の実弟だが、もう除籍させて貰ったので他人になったから。
彼らがどうやって生きていくかなんて、もう興味も失ったわ。初めから他人のようなものだし。
だから、迷惑だけは持ち込まないでね。
◇◇◇
ラビニュ・レライ男爵令嬢の生家は、王家により取り潰された。第二王子の婚約に重大な瑕疵をもたらしたとして。
男爵夫妻は常識があり、ラビニュと共に土下座をし、「娘が酷いことをしました」と深く頭を下げて、田舎に戻り田を耕していると言う。
ラビニュは「酷いわ、平民にされちゃった」と悪びれもせずに男の下に走る。
それを知り、許す王妃ではなかった。
「お前のせいで、私の王子が………くうっ」
そして王家の影に、何度も浅く刺されて失血死したらしい。
「痛い、痛い、痛い、どうしてこんな、
なんで、私を? 悪い、ことし、てない、のに」
そしてラビニュへ貢いだ宝石類を換金し、カヴァルート殿下に仕送りしたそうだ。せめてもの親心なのだろうか?
本当は私のことも殺したかったようだが、宰相に止められて断念したそうだ。
隣国でカヴァルート殿下を待っていた王弟殿下は、本当に世界一のイケメンで金持ち(事業が成功している為)、おまけに男性のハーレムをお持ちの方だった。
ただ、身長が低いことがコンプレックスで、背の高い男をハーレムに呼ぶと言う。自身の背丈は150cm位で、痩せ型だ。
「私はこの通り、男性的な魅力に欠ける男だ。君のような美しくて鍛えられた人が来てくれて嬉しいよ」
そう囁いて、徐々にカヴァルートの心を開いて行き、自ら従うように誘導していったそう。王弟だもの、腹黒さがないと生き残れない。ただカヴァルートは、いつも優しい言葉をくれる王弟に心酔していた。王弟も彼の素直さに心を癒されていく。
「やだっ、こんな格好恥ずかしいです、殿下」
「恥ずかしくないよ。もう僕が知らない部分なんてないのだから。さあ、見せてごらん。そして僕のことはユキヤと呼んで」
「ユキヤ様」
「ユキヤと呼んで。チュッチュッ」
「あぁん、そこダメ。ユキヤぁ」
「ふふっ、良い子。だけど、可愛い声で煽らないで。明日の会議は、早朝なんだから。あぁ、また徹夜かなぁ? まあでも可愛いから仕方ないか。君も覚悟を決めなよ、ルートっ」
「やぁ、やっ、ダメ、それやだ。あぁ、あぁ、あぁーん……びくっびくっ」
ユキヤの獣のような鋭い瞳で、カヴァルートを一瞬も逃さずに押さえ込み、愛おしそうにキスを全身に落としていく。いつもの穏やかな彼とは逸脱し、普段は閉じ気味のつり目を大きく開けた熱い黄金の煌めきに、カヴァルートはまた胸をきゅんとさせる。細身だが筋肉があり、疲れ知らずのユキヤの甘い言葉の蹂躙に陥落していくカヴァルート。艶のある唇は言葉以外にも巧みに動き、今はただ嬉しそうに口角を上げている。
勿論周囲には、彼のハーレム要員達が熱いまなざしで見守っている。息も荒げているみたい。
今はカヴァルートばかりが可愛いがられて、嫉妬されているそう。意地悪されないと良いけど。
王弟殿下はドSなので、昼夜泣かされているカヴァルート。彼も王子の時はドSぽかったけど、本当は逆だったみたいね。お幸せに。本当、余談ね。
私は今までのことを思い出して、冷笑する。
カヴァルートがどう思おうが、思い通りに彼の自由を奪い、私の立場を蔑ろにし奪おうとした彼を断罪したことに満足していた。
「あんなに横柄だった貴方が、只の愛人に成り下がった。今度はゆっくりと、ハーレムに出向いて商談しようかしら? 私の顔がまともに見られるかしらね」
男性恐怖症のある彼女にとって、ハーレムに恐怖心はある。けれど祖母やβがいなければ、カヴァルートに虐げられ絶望した世界が、現実にあったかも知れない。いや、今回逃げ切れた方が奇跡なのだ。
だからこそ、確認に行こうと思う。心底安堵する為に。
その時彼が、どんな顔をするか楽しみだ。
快楽づけになった地位も名誉もない貴方に、優しく微笑んであげる。
そうそう、王弟殿下も私達のことは全てご存じなのよ。きっと素知らぬ顔で、貴方の紹介をしてくれるでしょうね。何も覚えない貴方だから、貴方をここに送り込んだのが、私だということさえ忘れているかも知れないけれど。
βもきっと、喜んで同行してくれるだろうし。
「私も強くなったものね。敵ばかりの中で生き残ったのだもの。そうなるわよね」
もう滅多なことでは泣かなくなった私は、父のお墓の前で絶望して動けなかった私ではないのだ。
そして今、私とお祖母様は、βの名を改め、アンドレお父様(お祖母様はアンドレ)と呼んでいる。人前ではアンドレと呼び捨てだけど。
実母がいるから呼べなかったけど、本当は心の中でいつもお父様と呼んでいた。
丁寧口調のプログラミングを解除し、父の口調へ戻したβは、父そのものだった。
「頑張ったね。インフェル、母さん」
「うん、私頑張ったのよ、お父様」
「ああ、アンドレ。アンドレ……」
「二人が無事で良かった。………愛しているよ」
泣きながら3人で抱き合う。お父様は涙は出ないけれど、気持ちは十分に伝わった。
これからはずっと一緒だ。
生前の父の記憶もダウンロードされているβ(アンドレお父様)は、本当の家族のように生活している。
祖母は寿命が尽きるまで息子と過ごせ、私はきっと父の生前年齢を越えて生きて行くだろう。
いつか私の方がお婆さんになるのだ。
アンドレお父様とは、一つだけ約束している。
みんなが居なくなって生きるのは辛いから、私が死ぬ時は動力を落としてくれと。
私はそれを約束した。
アンドロイドだって、AI(人工知能)により感情領域が発達していくことで、辛さや悲しさを経験していくだろうから、一人で残るのは寂し過ぎる。
私はこれから、売り出したアンドロイド全員とその家族へ、面談をしていくことにした。
家族が旅立った後、どうしたいかを確認する為に。
子や孫のこともあるから、難しい問題かもしれない。
安くない値段設定でもあるし、メンテナンスも必要なのだ。
アンドロイド本人が、家族と離れてもずっと生きていきたいなら、私の産業部門でメンテナンスや新たな家族探し仕事を斡旋するし、
そうでない選択、例えばアンドレお父様と同じようにする者もいるかもしれない。
私は自分の子供を生む変わりに、動物型の探索ロボットをたくさん作り出すことにした。我が子のように慈しめる、愛らしい動物ロボットを。
小鳥型は、上空からの探索を高性能カメラを取り付けて。
犬型は、聴覚部を強調して情報収集を。
イルカ型は、海上での事故や犯罪を防ぐ為に、超音波で変化を捉えて、各小鳥・犬も同様にこちらに映像を送るように、それぞれを設定した。
私用に、自分のデータをダウンロードしたアンドロイド20体を、既に生産開始している。クローンと言うのか、コピーと言うのかはどうでも良いが、やはり家族しか信じられないのだ。
ただ父親のアンドロイドは増やさない。
父親はβ(アンドレお父様)一人で良いのだ。
もう私は、彼をアンドロイドとは思っていない。
完全に父親と認識し、依存している。
祖母は祖母のままでいて欲しいし、実母は論外である。
ただ自分なら、いくら利用しても良いと思う自分がいる。自分の価値を軽く考えているのかもしれないし、商売人の気質が強いのかもしれない。
《使えるモノは何でも使え》と言う感じで。
彼女達には私が死んだ後も、弱者を守っていって欲しい。私と同じ気持ちなら可能なはずだ。数もいるから、寂しくはないだろう。
警らの仕事では、個人の安全は守れない。
予防の為の対策が必要なのだ。
少なくとも私には、助けは来なかった。
だから何となく、それが私の生きていく意味のように最近感じている。
その為に神が、男性恐怖症にしたようにさえ思えた。
幸い私は救われた。
けどそれは、運が良かっただけだろう。
その運のお返しの為にも財団を設立し、志を同じとする者に引き渡していこうと思う。
財産ならば、奪われずに守れたものと現在産み出しているものが過分にある。
私のように周囲が敵ばかりで、守護者となる者が病気や寿命で居なくなりそうな時、最後に頼れるのはアンドロイドだけになる人も、いるかもしれない。
祖母が元気でなかったら、私の味方はβ(アンドレお父様)だけだっただろう。
そんな人達を救う為にも、アンドロイドの権利を強くしていきたいとも考えている。
お金が絡むと立場が弱い子供は、身ぐるみを剥がれてしまうことを自らが体験した。そんな子供を保護する為のメカが必要なのだ。
そして、まだ120機を作製のアンドロイドだが、今後の彼らの責任を取る必要が私にはある。
悪用されない仕様にはしているが、悪い奴は何処にでもいるから、プログラムの違法書き換え等をされないように、メンテナンスが随時必要だ。保護装置も。
そしてさらに、生産する予定も既に入っている。
彼らはもう、機械であって機械ではない。
家族として、生きていくのだから。
5年後。
「あらっ。インコですか? 肩にちょこんと乗って、かわいいですね」
「ええ、そうなんですよ。いつも一緒なんです」
「おっ! ワンちゃんもいるんですか? 膝にすり寄って離れない。可愛い」
「あそこの猫ちゃんも、こちらを見ているみたい。人間が大好きなんですね。とっても穏やかで、鳴き出したり、牽制するようなこともないし」
「ええ、懐いていますわね。ただ、苦手な人もいるのですよ、時々」
「そうなんですか? じゃあ、僕達は合格かな?」
「ふふふっ、面白いですわ。そんな、合格とかそんな」
「はははっ、これは失礼」
「ほほほっ、嫌われなかったので嬉しくて」
「そうですか?」
私はアルカイックスマイルで、彼らは胡散臭い笑みで笑い合う。
「何かあれば力になるから、いつでも声をかけてね」
「遠慮は要らないよ。親戚だろう?
それにしても、元気になって良かったよ」
この数年間に、両親亡き後に残された子を虐待し、実権を奪う親戚の乗っ取りや、女性当主を病気と偽り監禁して婿が愛人と豪遊し、あまつさえ秘書にさせて表舞台に立つなどの多数の噂があがった。
私達は外部から調査を行い、それらの人々を救い出した。噂になっている時点で秘密は漏洩しており、詰んでいるのだ。私達がいなければ成功したかも知れないけれど、既にいる存在にもしもはない。
その噂の先の被害者は、一般人もいれば大富豪や権力者のこともあった。私達の聞き取れる範囲で、全ての人を救い出した。
彼らは言う。
「ありがとう。何も出来ずに朽ち果てる所でした。是非何か、協力させてください」等などと。
だから私は、自分も同じ目にあった被害者だったと過去を暴露し、協力を仰いだのだ。
それはネットワークであったり、資金であったり様々だ。
私はハッカジュに襲われそうな所をなんとか逃れたが、既に性被害にあっていた方や薬の中毒にされている方も数人いた。彼らには治療を施し、全力で回復のサポートをしていった。
それ以外でも長期に驚異にさらされたことで、人間不振や対人恐怖に陥っている人も多い。
それにより、彼らの亡くなった愛する家族達の映像や書き物(日記)などを参考に、アンドロイドを作製した。
情報量は不足の為、βのような完璧な状態には遠いが、心を癒すことには成功した。情報は今後入力が可能なので、いくらでも完成に近づけるだろう。
そして彼らの何人かは、私達の活動の共同経営者になったのだ。
資金力に糸目はつかず、インフェルが構想した創造物が次々に生産されていく。
もう全世界の情報は、彼らが掴んでいると言っても過言ではないのだ。
先ほどまでいた客人は、インフェルが生きているかを確認に来たハイエナだ。
そう、インフェルは、半年前に交通事故に合い数日後、命を落としている。仕掛けたのは先ほどの親戚から依頼を受けた者なのだろう。
瀕死の状態の中、インフェルは自宅療養を望み自宅へ戻った。そして自分のアンドロイドから、後継者を選び出したのだ。
全身火傷で、痛みにより正気を保つのも難しい中、彼女は眠気を伴う為に、薬を使わず最期まで指示を出し続けた。
「あなたに、すべ、て、まかせる、わ。こんご、の、ことは、ゆいご、ん、どお、り、に…………………………」
インフェルは息を引き取った。
彼女の共同経営者になった者達は、秘密裏に面会に訪れていた。ついに彼女が亡くなった時、生前の彼女の意思を継いでいくことを決意したのだ。
彼女の死は公に出来ない。
今後も死んでいない、回復したということにし、表舞台に立たなければいけないからだ。
先ほど偵察に来たような者に、悟られてはいけないのだ。もしアンドロイド技術が悪人の手に渡れば、世界は終わってしまうだろう。
だからインフェルは、これからも生き続けるのだ。
インフェルとβは、彼女の仲間とこの家を秘密裏に出て、南の島で埋葬された。棺には動力を落とされたβが、彼女を守るように抱えている。
βは、“守れなくて済まない”と泣いているように見えた。でもその後で、“やっと休めるね、インフェル”と、彼女を優しく抱きしめたのだ。
彼は棺に入り、後は頼むとみんなに頭を下げた。
そうして彼女を愛おしそうに抱きしめながら、その動力を落とされたのだった。
彼女が眠った後、その場には共同経営者達と共に、彼女のアンドロイド達や動物に模したアンドロイド達が集結した。
みんな彼女を愛していたので、永遠の別れを深く悲しんだ。
エメラルドグリーンの海と、どこまでも広い空が見渡せる墓所は、きっと心地が良いだろう。
参列した誰もが、インフェルとβの旅路を祈った。
多くの時間を孤独に晒されてきたインフェルの魂は、βと共にやっと安寧の輪に戻る。βが本物の父親ではなくても、彼女の大切な人であることには変わりはないのだ。自我を持った彼の気持ちは彼女と共にあり、もうアンドロイドの体には戻らない。
先に偵察のように現れた、彼女の親戚に対応したのは彼女のアンドロイドの一人だ。今はもう、インフェルになった彼女。
そしてあの場にいた動物達は、みんなアンドロイドやAI搭載のロボットだ。
小鳥も犬も猫も、金魚も、外にいる野良猫も烏も。
そして一部の虫達でさえ。みんな彼らを監視し、じっと睨んでいたのだ。
彼らの動きを映像に残し、追跡する。
近いうちに彼らは、酷い姿で発見されるだろう。
誰の犯行かは、永遠にばれない手口で。
犯行に関わった人間全て、一人二人と姿を消す計画は完了したからだ。
インフェルへの犯行を未然に防げないことは残念だったが、今はやっと全てのネットワークが完成し、あらゆる事象がスーパーコンピューター経由で、彼女達アンドロイドに繋がることが出来るようになった。
今後格段に犯罪は減るだろう、時に無理を通してまでも。
「インフェル、あとは任せて頂戴。
貴女は頑張ったから、全て忘れてゆっくりと眠って」
彼女のアンドロイド達は、時に顔を変え、時にボディーを変え、彼女の託した世界を守っていく。
この星が滅ぶまで、永遠に…………………………
※現在アルガーゾン侯爵家では、外部にむけては、家族仕様のアンドロイドしか受注していない(アンドロイド部門についての記載より抜粋)。………ことになっている。
近い将来インフェルのアンドロイド達が、地上の番犬ケロベロスのようになるかもしれない。犯罪者にとってはまさに地獄になるかも。
7/24 9時 空想科学(短編)16位、15時4位、19時3位でした。ありがとうございます( ´∀`)♪♪♪
7/25 9時 空想科学(短編) 2位でした。
ありがとうございます( ≧∀≦)ノ♪♪♪
7/25 19時 ヒューマンドラマ(短編) 41位でした。
ありがとうございます(*^^*)
7/26 7時 ヒューマンドラマ(短編) 39位。 14時、29位。23時、23位でした。ありがとうございます( 〃▽〃)♪♪♪
7/27 10時 ヒューマンドラマ(短編) 22位でした。
ありがとうございます(*^^*)