魔女の薬 (18) ママの悩み
新米魔女のヤラカシは、とりあえず収束しました。でも自分を責め続けるママは……。
もちろん、それはネリスの直接の手柄ではありません。でも彼女がいなければ、発見できなかった事も事実です。魔女協会のお偉方はコリスの説得に加え、こういった経緯も鑑みて、ネリスに対する処分を決定したのでした。
ただこれは今のところ、魔女会議のメンバーの他は、ごく一部の魔女しか知りません。ましてや絶対にネリスには秘密です。それを知ってしまったらこの新米魔女、調子に乗って、再び何をやらかすかわかったものではないですからね。
「師匠、窒息に効く薬ってないもんでしょうかね?」
両腕を頭の後ろに組んだネリスが尋ねます。
「窒息? どうして?」
不思議そうに聞き返すコリスに向かって、
「だって、工場ではもちろん、家でも師匠と顔を突き合わせるわけでしょう? 息が詰まること間違いなしですよ」
と、ネリスはシレッと言いました。
「ネリス!!」
椅子から立ち上がり、立派な机をドンと拳骨で叩きます。
「じょ、冗談ですってば、冗談。じゃぁ、私は下宿の荷物をまとめて来まーす。引っ越し作業には、配送用の馬車を借りますねっ」
ちょっと言い過ぎたと思ったネリスは、慌ててコリスのオフィスを後にしました。
「ふーっ。一年間、大丈夫かしら……」
コリスのため息が、しんとしたオフィスに漂います。本当、前途多難なようですね。
では、今回のお話はこれでおしまい……ではありません。一つ大切な事を忘れていました。それは、ニール親子のお話の顛末です。
騒動から二週間ばかりが過ぎたうららかな午後、ママは二階の窓から庭をぼんやりと見下ろしていました。そこでは、ニールとパパが泥んこ遊びをしています。いつもなら「あぁ~、また洗濯が大変だわ」と、ご機嫌斜めになってくるところなのですが、今日のママは少し様子が違いました。
彼女は庭で遊ぶ家族と、自分のすぐ近くにあった鏡を見ながら、複雑な気分に浸っています。
実を言うとですね。ママはこの十日くらいの間、心はどん底にあったんです。何故かと言えば、それはもちろんネリスが引き起こした混乱のせいでした。
ママやパパも、自分が何かを忘れてしまったのは、魔女の工場から漏れ出た薬品が原因だったと、すぐに知る事が出来ました。パパはそれですぐさま納得したんですが、ママは釈然としない気持ちになりました。というよりも、かなり落ち込んでしまったのです。
私がニールの事を忘れてしまうなんて! 大事な大事な我が子の事を、微塵も思い出せなかったなんて!
”薬のせいだったんだから、仕方ないじゃないか”という、パパの慰めも全く耳に入りません。




