魔女の薬 (17) 怪我の功名
魔女会議が下した、新米魔女の処分の理由とは?
クビを覚悟してたネリスでしたが、そうはならないと知り、彼女は途端に、殊勝な弟子から困った弟子に逆戻りをしてしまいました。まぁ、この立ち直りの早さも、ネリスの良い所の一つなんですけどね。
「こらこら、落ち着きなさい。もちろん、魔女会議だって、あなたを世間の寒風の中に放り出して、飲まず食わずで働かせる気はありません。
あなたはね、これから一年間、私の家で暮らすのよ。当然、タダ飯を食べさせるつもりはありませんから、メイドとしてしっかり働いてもらうし、空いた時間はミッチリと薬に関する勉強をしなければなりませんよ。私の直接指導でね」
泣きそうな顔をしているネリスに、コリスはイタズラっぽく言いました。
「えぇ!? 師匠と一年間も同居ですか?しかもタダ働きの上に、ミッチリ勉強?」
ネリスが、ちょっと口を尖らせます。
「当然です。私があなたのために、魔女会議の場でどれだけ苦心したと思ってるの? 上の人達の私に対する信頼を、全部使い切っちゃったわよ」
またいつものお調子者に戻った弟子に、師匠はわざと恩着せがましく言いました。ただコリスには一つだけ、ネリスはもちろん他の魔女たちにも言っていない事がありました。
確かにネリスがクビにならなかったのは、コリスの熱弁と魔女の統率者たちが彼女に抱いている大きな信頼のおかげもあるのですが、実は今回の事件で得るものもあったからなのです。
コリスが調査の結果をまとめてみると、意外な事実が分かったのでした。それは被害者たちが「何を忘れたのか」という事です。
何だと思いますか? 結果を言ってしまえば、彼らが忘れてしまったのは「自分にとって、一番大切なもの」だったんです。シェフは秘密のレシピ。大金持はお金。小説家は文字。といった具合にね。
これは魔女会議をすべる協会にとっても、実のある発見でした。
ワスレノールを使った薬は文字通り、服用者の記憶をあいまいにする効果が期待できます。人は大きな悩みを抱えた時、それが肉体にまで悪影響を及ぼす場合があるものです。よって一時的に悩みの原因を忘れさせてしまうのも、一つの治療法として確立していました。
しかし都合よく、特定の事柄だけを忘れさせるというのは不可能です。そこで全体的に記憶をあやふやにした上で、とにかく体の健康を回復させてしおうという治療法を取る事しか出来ません。そのための薬が、ワスレノール由来のものなのでした。
それが今回「一番大切なもの」という、特定の事柄を忘れさせる効果が現れたのです。ネリスが廃棄しようとした調合器具に僅かに残っていた薬の断片を解析した結果、今までにない成分が偶然にも生成されていたのでした。この事は、ワスレノールの研究に大きな進展をもたらすものです。




