亡者の戦車 (6) 伝統行事
ひどい吹雪の晩。ヒト妖精の男の子ニールは、パパからあるお話をしてもらいます。
「きゃっ!」
予想していた事とはいえ、余りの恐ろしさに、ニールはクッションを頭に乗せてうずくまります。
「はい、そこまで!」
見るに見かねて、ママが止めに入りました。
「さぁ、お話は終わったわ。ニール、早く部屋に行ってもう寝なさい」
ニールは少し迷います。だって、今夜は亡者の戦車が出そうな、ひどい吹雪の晩なんですもの。
「ほらほら、ママの言う事を聞かないと、亡者の戦車がやって来るぞ」
パパが、調子に乗って追い打ちをかけます。
「パパ!」
ママがパパを、キッと睨みました。
ニールは渋々、自分の部屋へと退散します。
パパはといえば、思い通りの演出が出来たとニンマリ顔。
「ちょっと、パパ。何であんな話をするのよ。ニール、凄く怖がってたじゃない」
ママのご機嫌が、ドンドン下り坂になっていきます。
パパは、飲みかけのココアに手を伸ばしながら、
「いやぁ、いつあの話をするか、ニールが生まれた時からずっと機会を伺ってたんだよ。それがついに、今晩やってきたわけさ」
と、言いました。
「もしかして、あなたも自分のお父さんに同じ事をされたのね?」
ママの勘が、冴え渡ります。
「ご名答。まぁ、親父も僕の爺さんに同じ目に遭ったっていうから、これはもう、我が家の伝統行事だよ、ハハハ」
パパの笑い声と共にママも一緒に笑いましたが、目は少しも笑っていません。パパは、背筋が少し寒くなりました。
「じゃぁ、責任を取って、ニールが今晩、トイレに一人で行けないって私たちの寝室のドアを叩いたら、あなたが一緒に行ってくださいな」
「え? 僕、明日早いんで、それは勘弁してほしい……な……ぁ」
と、言いかけましたが、ママの鬼のように変わった顔を目の当たりにしたパパは、渋々承知をしました。
案の定、夜中に二回もニールに起こされて、パパが寝不足になったのは言うまでもありません。
【亡者の戦車・終】