魔女の薬 (2) 魔女の業界
魔女の業界も今や大変。その訳とは……。
「師匠、だって今日やる会議は、私たち魔女の将来の問題を話し合うのでしょう?」
ネリスが、ちょっとだけ困った顔をしました。そうなんです。今日の魔女会議は、とても大切な事が話し合われる予定なんです。なぜなら魔女の業界では、最近少し困った具合になっていたからでした。
それはおおむね、次のような感じです。
魔女が、薬づくりの魔法に長けた人達であるという事は、先ほどお話し致しました。したがって古来より、世の中の薬の殆どは彼女たちが製造し、そのため魔女は非常に安定した生活を送れていたのです。魔女たちにしか、まともな薬が作れないのですから、これは当たり前の話ですね。
ところがです。最近は化学の発達により、一部の薬は、魔女でなくても作れるようになってきました。もっとも風邪の引きはじめとか、ほんの軽い擦り傷とか、そんなものにしか効かない薬なのですが、大量生産できるので、値段は魔女が作った物よりグンとお安くなります。それを考えると、この先は色々な薬が化学で作られるようになり、魔女の薬は売れなくなっていくでしょう。
つまりは魔女たちにとって、これは死活問題なんです。まぁ、そうは言っても実害が出るのはかなり先の話です。でも今の内から何か対策を講じておかないと、本当に魔女はこぞって失業してしまいます。そこでヴォルノースの森の、高位の魔女たちが集まって善後策を論じる事になったのでした。
「半人前のあなたには、まだ関係ない話だけれどね」
この新米魔女ネリスに潜んでいる才能を高く評価しているコリスですが、それを言ってしまえば、ネリスの性格上、有頂天になってしまい道を誤ってしまうこと間違いありません。ですからコリスは、そんな思いをおくびにも口にはしませんでした。
「もう、師匠、失礼ですね。私はもう、一人前です! それに私は将来、師匠の跡を継ぐ魔女ですよ。だって、私と師匠の名前、一字違いでしょう? これはもう、運命ですよ」
ほらね。コリスの心配はもっともだと、皆さんも思うでしょう?
「……じゃぁ、私は行くけど、本当にちゃんと仕事をしてね。いくら簡単だと言っても、手を抜いちゃだめですよ」
ネリスの演説をわざと無視するように、コリスは口が酸っぱくなるほど注意をして、大事な会議へと出かけて行きました。
コリスが去った後、建物にはネリス一人が残されました。急用で休みを取った魔女は当然の事として、その他にも今日は誰一人としてここにはおりません。そういう巡り合わせだったのです。でもそれが、街中を騒がす大事件に発展する事になろうとは、おてんばネリスはもちろん、コリスにも知る由はありませんでした。




