パパの魔法 (7) 女の子のなくしたもの
仕事からの帰り道。パパは朝に出会った小さな女子を見かけます。彼女はその時ど同じように、木の上を見つめていました。
「また風船を、失くしてしまったのかな」
自転車を止めたパパは、しばらく女の子の方を見ていました。でも、朝とは様子が違う事に気がつきます。それは彼女の表情でした。
風船を高い枝に引っ掛けてしまった時、
彼女はどちらかと言えば呆然とした顔をしていました。ただボンヤリとしている感じです。でも今は「どうしよう、どうしよう」という、われを失っているように見えました。体の方も、妙にソワソワしています。
これはただ事ではないと思ったパパは、自転車を道端に倒し、急いで女の子の元へと向かいました。すごく嫌な予感がしたのです。
「どうしたの!?」
尋ねる声にも力が入ります。
「あ、さっきのおじちゃん!」
またしてもの”おじちゃん”ですが、それを気にしている余裕はありません。なぜならパパが近くに寄ってみると、女の子の頬からは二筋の涙がポロポロと滑り落ちていたからです。
「どうしたの? どこか痛いの?」
息子のニールが泣いている時は、大抵どこかが痛い時なので、パパは思わずそう口にしました。
「ううん。どこも痛くない」
女の子が答えます。
パパは、いよいよ混乱してしまいました。ニールは男の子、彼女は女の子。男と女では違うのだろうか? パパは、もうどうしていいのか、わからなくなりました。
その時、女の子は涙をこすった手で、朝と同じように上の方を指さしました。
やっぱり、また風船を引っ掛けちゃったのかな?
パパはそう思って、上を見ました。でも朝とは違って、今度は何もありません。
「えぇっと……。何があるのかな? おじちゃんに教えてくれる?」
成り行きとはいえ、自分の事をおじちゃんと呼んでしまった事を少し後悔しながら、パパは女の子に答えを求めました。
「あれ、あそこ、あそこよ」
女の子が人差し指をツンツンと突き出して、やはり上の方にある枝を指さします。でも、パパには何も見ません。
困ったなぁ……。
彼女の指の先にあるものの正体は分からず、かといってこのまま帰るわけにもいかず、パパはほとほと弱ってしまいました。
でも、その時です。夕闇迫るオレンジ色の陽光が漏れる葉っぱの間から、かすかに何かの音が聞こえてきました。最初は何の音か全くわかりませんでしたが、よく聞くと……。
猫だ!
それが分かったパパは、女の子が指さすあたりを目を凝らして見つめます。あ、いました。グレーの小猫が、かなり高い枝の二股になった所にうずくまっています。小さいし、黒っぽい色をしているので、よく見えなかったのでした。




