パパの魔法 (2) ママの悩み
パパが仕事に出かけた後、ママは自分の魔法に悩みます。
パパは家から少し離れると、我が家の屋根裏部屋の窓をチラッと見ました。そして「じゃぁ、明日にでも……」とつぶやくと、最初の現場へと向かいます。いったい何の事なんでしょうね。
一方こちらは彼らのお家です。ニールが最近買って貰ったお気に入りの絵本を読んでいるのを確認すると、ママは朝ごはんの片づけを始めます。
「さぁ、泡の精、水の精、皆の食器を洗っておくれ。綺麗に綺麗に洗っておくれ」
シンクの前でママがそう呪文を唱えると、お皿やコップは見る間に泡だらけになり、次から次へとすすがれていきます。これが、ママの持っている魔法なのです。
この魔法、便利なんだけどな……。でも……。
ママは、綺麗になったお皿を水切りカゴへ並べながら思います。
確かに一人暮らしの時は、面倒くさい洗い物や洗濯物が楽に出来て良かったわ。これが生まれながらの魔法で幸運だったとも考えた。だけど、今は……。
ニールが生まれた時、いえ、生まれる前から、パパとママは、二人の宝物に手が掛からなくなるまでは片方が働き、もう片方が家にいると決めていました。というのも、ベビーシッターの数は少なく、そのため依頼の代金は高めです。庶民が何年も払い続けられる額ではありません。
それに、パパとママの”パパとママ”。すなわちニールのお爺さんやお婆さんは、離れた場所に住んでいます。孫の世話を日常的に頼むわけには行きません。
こういった場合、どちらが働きに出るか、大抵のお家では結構もめるものなのですが、ニールのところでは割とすんなり決まりました。それは、パパとママの固有の魔法のせいでした。
ヴォルノースに住む者の殆どは、何らかの魔法を使えます。まぁ、だいたいは、ほんの慎ましい魔法であるのですけどね。ご覧の様に、ママの魔法もご多分に漏れず、水仕事の補助になる程度のささやかな力に過ぎません。
それに引きかえ、パパの魔法はかなり特殊な種類のものだったのです。それゆえ仕事の依頼も多く、実入りも決して悪いものではありません。そんなわけで、パパは外でお仕事、ママは家で育児と家事という風になったのでした。
個人が使える魔法は、誰がどんな種類を使えるのか全く予想がつきません。体つきとか性格は全く無関係で、もちろん家柄や遺伝も関係ありません。神様だけが、知っているのです。
私に、パパみたいな魔法が使えたらなぁ……。
少し遅れて食後のコーヒーを飲みながら、ママはぼんやりと物思いにふけりました。
さて、ママがそんな事を考えているとは夢にも思わないパパ。新しい靴に機嫌を良くし、軽快にペダルをこぎ続けます。




