パパの魔法 (1) パパ、仕事に出かける
いつもの朝。今日もパパは、ママの策略で起こされます。
ここはヴォルノースの南の森。そして、可愛らしいお家が一軒。
ジリリリリリリ。
二階の部屋で、目覚し時計が鳴り響きます。掛け布団の中からニユッと腕が伸びて来て、人を眠りの楽園から引きずり出そうとする悪魔の機械を”どこだ、どこだ”と、まさぐりました。
よし。
悪魔を泣き止ませるボタンを押して、布団の主は再び夢の世界へダイブしようとします。
「パパ、朝だよ。早く起きなさいってママが言ってるよ」
ニンゲンの男の子、ニールがママの命令でパパを起こしにやってきました。こうしないと、パパはいつまでも布団の中で至福の時を過ごしてしまい、結局、お仕事に遅れてしまうのです。
「……う~ん、もう少し、もう少しだけ……」
パパが、恵みの暗闇の中から声だけを漏らしました。
「あのね、パパ。ママが言ってたよ。”あんまり怠けるようなら、実家へ帰ろうかしら”って」
ニールが、こともなげに言いました。
その言葉、パパには、唐辛子を十本も口に入れた時のように効果てき面だったらしく、脱兎のごとく布団から飛び出して食堂へとはせ参じます。
でも変ですね。子供のニールが、その言葉の本当の意味を知っているとは思えません。ママに言われた事を、ただオウムのようにそのまま喋っているだけなのでしょう。
頭がハッキリしている時に聞けば、パパだってこれはママの作戦だと気付くかも知れません。でも現実と夢の間を行ったり来たりしている布団の中では、すぐに引っ掛ってしまうのです。
今日もママが勝利を収めたあと、いつものように少し慌ただしい朝ごはんが始まりました。出された食事を綺麗にたいらげたパパは、食後のコーヒータイムもそこそこに、お仕事へと出かけます。
「じゃ、行って来るね」
これも毎朝、判で押したような光景です。
パパが、玄関の方へ行こうとすると、
「あ、パパ。新しい靴を用意したから,それを履いてって」
食卓で、ニールの世話を焼いているママが言いました。
「えっ? 新しい靴って?」
パパは驚いたように振り返り、そのあとすぐに玄関に並んでいる靴に目をうつします。そこには果たして、新品の靴が”どうよ?”と言わんばかりに揃えてありました。
「これ、どうしたの?」
パパが、尋ねます。
「今までの靴は、もうかなり傷んでいたじゃない。だから思い切って、ヘソクリで買ったのよ」
ママは、玄関までお見送りに来てそう言いました。
「それじゃあ、しっかり働いて来てね」
新しい靴とママの激励に頬を緩ませたパパは、はりきって玄関を後にしました。そして裏手にある小屋から自転車を出すと、サッとまたがりこぎだします。
「よおし、今日も張り切って働くぞぉ」
自らに気合を入れるように、パパが声を張り上げます。そりゃそうです。だって、ニールに手が掛からなくなるまでは、パパ一人の収入が一家を支えるのですから。




