癒しの剣 (12) 王様の治療
王の意外な行動に、命乞いをする侯爵だったが……。
両脇をしっかりと抑えられ、身動きの取れない侯爵は、それでも首だけを後ろへ回して自らの護衛官に助けを求めました。しかし、彼は動きません。厳つい顔をしたまま、直立不動を保ちます。
「お、おい、貴様!!」
涙声になっている侯爵に、王様が一歩一歩近づきます。
皆さんは、これから何が起こるか、もうおわかりですね。
王様が持っているのは癒しの剣です。具合の悪い所を切ったり突き刺したりすれば、たちどころに病や怪我は治ります。ただし、剣が”本物”であればの話です。
「お前は確か、私と同じで心の臓が悪かったのだな。おっと、立っていては剣が上手く使えないのう……」
その言葉を聞いた王様の従者たちは、すかさず侯爵をひざまずかせ、その胸を突き出させます。
王様は剣の切っ先を、侯爵の左胸に当てました。
「お、おやめください! おやめください!私が悪うございました。領地へ戻った後は、二度と領外へ出る事はございません。ですから……!!」
自らの企みが露見した事を悟った侯爵は、必死になって王様に命乞いをします。
「何を訳の分からぬ事を言っておるのだ。さぁ、治療を始めるぞ」
「……やめて、やめてぇ!!」
王様は侯爵の左胸に当てた切っ先を、ズンと前へと押し出します。
自らの欲望の為に作らせた剣が、自らの命を絶つ瞬間、侯爵は王様の顔をまじまじと見ました。その顔は相も変わらず笑っていましたが、目は氷のように冷たく光っておりました。
王様が剣を侯爵の胸から引き抜くと、憐れな反逆者はその場に前のめりに崩れ落ち、辺りは真っ赤な血の海となります。
「とりあえず、終わりましたな」
厳つい護衛官が、やっと口を開きました。
「うむ。ご苦労だった、パーパス」
王様がそう言うと、護衛官の体が淡い光に包まれ始めます。そして煌めきが失せた時、そこには星柄のローブと大きなトンガリハットを身に着けた魔法使いパーパスが現れました。
もっともこの頃のパーパスは、まだ”大魔法使い”になる前の、宮廷付き魔法使いに過ぎませんでしたけどね。その髭もまだ短く、色も大地のような茶色をしています。護衛官は彼が化けた姿であり、いつの頃からか本物と入れ替わって、この舞台をセッティングしたのでした。




