自己紹介
「では、今からオリエンテーションを始めます!」
重くなった雰囲気を吹き飛ばすように、声を張って話し始める先生。
「俺の名前は山本明宏!年は二十六歳で、階級は準一級!異能力は『身体超強化』!好きな物は唐揚げで、きらいなものは特にない!このクラスの担任で、呼び方は何でもいいから、みんなの好きなように呼んでくれ!これからの学校生活をみんなと一緒に楽しく過ごせたらいいと思っている!」
先生の名前は山本明宏というらしい。
印象通りの熱い人柄だが、爽やかな見た目と相まって好印象を抱く人は多いだろう。
異能力は身体超強化。強化対象は身体。つまり肉体機能の強化。単純な異能ではあるがそのぶん強力。準一級まで上り詰めているのがその証拠だ。
……異能も見た目通り体育会系の能力だった。
「声でけえな。」
ニヤニヤしながらそうつぶやく八神の考えは胡桃には手に取るように分かった。
完全に獲物を狙う狩人の目になっており、オリエンテーションが終われば勝負を挑みそうなほどだ。
・・・ちなみに席は隣だった。
(うへぇ。戦闘狂かよー。)
戦いそのものに喜びを見出す変人。その変人が今回の自分の護衛対象だと知り、胡桃は入学初日からげんなりしていた。
「とりあえず、みんなの自己紹介から始めようと思う。それが終わったらこの学校の基本的な説明をして最後に入学式をやったら今日は解散だ。では出席番号順に自己紹介をしてもらう。」
そうして自己紹介が順々に始まった。
どんどん自己紹介が進み、とうとう胡桃の番がやってきた。
「私の名前は胡桃鏡花。階級は三級で異能力は『砂礫操作』。好きな食べ物はピーナッツです。よろしくお願いします。」
可もなく不可もない自己紹介。
ちなみに異能力が砂礫操作というのは嘘だ。本来の異能力は別のものだが護衛する都合上、伏せておけとのことだったのでごまかしている。胡桃の異能力は土を操る砂礫系の能力と同系統だからごまかしが効くのだ。
そんな胡桃の自己紹介を七瀬はアイドルの言葉に耳を傾けるファンのような心持ちで聞いていた。
涼しげな顔で聞いてはいるがその内心は……
(ピーナッツ!!好きな食べ物はピーナッツ!!かわいしゅぎるぅぅぅぅぅ!!!)
これである。
もう手が付けられない変態であった。しかも、決して表情には出さないのだから性質タチが悪い。
自己紹介はどんどん進み七瀬の番がやってきた。
「私の名前は、七瀬空。階級は準二級で異能力は『空間統御』。好きなものは秘密で、趣味は写真を撮ることです。よろしくお願いします。」
もちろん好きなものは胡桃であり、写真で胡桃を撮ることが趣味である。異能力は空間統御。空間操作系のなかでも最上位に分類される異能である。
統御というのは操作系の最上位能力にのみつけられる名称だ。最上位能力を持っていることが異能八家の当主になる最低条件でもある。
ちなみに七瀬も胡桃の護衛対象である。護衛対象に補助されるのはどうかと思うが、空が補助の任務を無理やり受けたのでややこしい事態になっているだけだ。
自己紹介が進み、だんだん眠くなってきた胡桃だったが、ある男子生徒の自己紹介で目を覚ます。
「俺の名前は八神俊介。階級は二級で、異能力は『氷結統御』。好きなことは異能戦で趣味も異能戦。これからどんどん強くなって最年少で一級異能力者になることが目標だ。強いやつなら大歓迎でいつでも勝負を仕掛けてくれ。そういうことで一年間よろしく。」
異能力は氷結統御。氷結系の最上位能力だ。
予想通り異能戦の話ばかリしてきたが、その才能は本物。ちなみに異能戦とは特殊な結界の下で行われる異能力者同士の試合のことである。
十六歳で二級まで到達しており、最年少での一級異能力者を目指している。
ちなみに胡桃は十五歳で一級試験に合格していたが、その時は【御庭番】に所属しており、非公式な試験だったため公式記録ではなく、現在の最年少記録は、八神俊介の父親である八神剛の十九歳が最年少記録だった。
自己紹介も残すとこ僅かになった時、密かに胡桃が注目していた生徒の自己紹介が始まった。
この学年の最後の異能八家の跡取りであり、胡桃は八神のような変人でないことを期待していた。
今年入学の異能八家の跡取りは三人。まあ、すべての家で同時に異能を持った子供ができるわけではないので三人もいれば多いほうだ。
「俺の名前は鳳条宗明。階級は準二級で異能力は『赤熱統御』。好きな食べ物はホットドックで嫌いなものはトマトとパセリ。今年の目標は可愛い彼女を作ることだから、誘ったら一緒に遊んでくれると嬉しいです!そういうことで七瀬ちゃん!今日一緒にご飯いかない?』
鳳条宗明。御八家の一つ。鳳条家の跡取りだ。
赤色に近い茶髪でそこそこ整った顔。
お茶目さを感じさせる快活な表情はとてもフレンドリーで人当たりのよさそうな印象を受ける。
生徒全体は大半が四級で三級がちらほら。異能八家の次期当主は三人のうち二人が準二級で一人が二級。やはりというかなんというか、この三人の中では八神が頭一つ抜けているようだ。
声をかけられた七瀬は完全にシカトしていた。
「よし!では自己紹介も終わったことだし、この学校の基本的なことを説明する。」
そう言って説明されたのは異能教育専門学校の独自のルール。
胡桃のいるAクラスの入学試験は基本、実技試験であるため偏差値やら頭の良さは関係なく入学できる。
とは言っても、この学校では座学の成績に応じて利用できる施設の許可証を配布し、その施設で受けられる授業の単位を取らなければ進級出来ないので嫌でも最低限の学力は身につくが。というか身につかないと進級ができない。
AクラスからCクラスまであり、Aクラスが戦闘科、Bクラスが生産科、Cクラスが魔術科とクラスごとに分けられている。
何故戦闘科とかいう物騒な名前のクラスがあるのかといえば、異能力者が現れ始めた頃、それに対応して世界各地に『境界』とよばれる領域が発生し、そこからでてくる怪物たちを制圧する必要があるからだ。現在は異能八家を中心とした異能力者たちが『境界』で戦い、日本の平和を守っているのである。
そんな異能力者たちの後進として戦闘科の生徒たちを鍛えるため、授業の内容も他のクラスと比べると、危険なものが多い。
次に生産科というのはその名の通り異能力によって物を作る生徒のためのクラスだ。異能力が戦闘向きではないような異能力者がここに多く集まる。
最後の魔術科だが、このクラスは唯一、異能力を持たない生徒のためのクラスだ。もちろん異能力を持たないといってもただの一般人というわけではない。異能力は持たないが魔力を持っている生徒のためのクラスである。
異能力者というのは大きく分けると二つに分類される。それが異能力と魔力を持っている異能力者と、魔力のみしか持っていない異能力者だ。一般人というのは魔力も異能力も持たない人間のことを差す。
異能力者は通常、魔力を燃料にして異能を発現する。
しかし、まれに魔力しか持っていない異能力者が生まれるのだ。しかし、それらの異能力者はほとんどが通常の異能力者よりも魔力を操作する能力が高い傾向にある。魔力は異能の発現以外にも、身体機能の活性化や、自然治癒力の向上、魔力そのものを硬化させて身にまとい防御として用いることも可能なのだ。
魔力操作を極めたような人が魔力で身体機能を活性化させると、身体強化の異能を使った者すら凌駕するほどの身体能力を手に入れることができ、自然治癒力を向上させれば目に見える速度で傷が治っていく。
そのような高度な魔力操作技術を魔術と呼び、その技術を学ぶために、Cクラスには多くの魔力のみを持つ異能力者が集まっている。
このように、この学校では名前の通り異能力に関する専門的な知識を学ぶ。
特徴的なのは期末試験が勉強ではなく、異能に関する実技試験が大半を占めることだ。
異能の系統によって試験内容は異なってくるが戦闘科の異能力者が集まるAクラスではかなり大規模な実技試験が行われる。
また、その際の成績に応じて個人にポイントが渡され、そのポイントが多かったものから順に学年順位が決まっていく。
簡単と言いつつも結構長かった先生の説明も終わった。
入学式で体育館まで行って校長先生の言葉やらなんやらを聞いているうちに初日は終わり、教室に戻ってホームルームを終えるとその日は解散になった。