死んだ可哀そうな男(幕開け)
今日だけもう一話投稿します、これからは一週間に一回ぐらいに投稿します
俺はゆっくりと目を開ける、ここはどうやら部屋の中のようで天井が見えている。
「ここは…?」
起き上がった瞬間激しい頭痛が起きる、突然のことで驚いたがたいした痛さではない。
「ぐッ…」
そして駆け巡る知らない人物の記憶、それは胸糞の悪い物であった。
幼いころから家族とは別に住まわされ、十分な食事は与えられていたがそれだけでそれ以外は部屋に閉じ込められ軟禁状態だ。
そんなある日、五歳ぐらいか?初めて外に連れ出され、いろんなものに目を輝かせながら歩き、着いたところは中庭だ、そこに居たのは同い年の女の子で、婚約者となるとか聞いたがずっと一緒に暮らすことになると言うことだと解釈をしたようだ。
それからは彼はゆっくりとだがいろんなことをその子から教わり、いろんな感情を学び、成長をしていった、そして八歳の時
「ごめんなさい、あなたとは婚約を解消したいの」
彼女は申し訳なさそうにそう言う、俺は突然のことに固まり、理解できないでいた。
「え…?どういうこと…?」
「ごめんなさい……アベル様が好きになっちゃったの、この気持ちがもう抑えられなくて…」
確かに彼女は最近はずっとアベルの話をしていた、胸は痛んだが本当に楽しそうに話していたので黙って聞いていた。
「…そうかぁ、分かった…これからもここには来てくれるの?」
「あ、えっと…婚約者ではなくなるけどあなたは大事な友達だわ」
俺は悲しかったがそれを表に出さないようにして笑顔を保つ、彼女がいつも笑顔の方が素敵だと言ってくれていたからだ。
「あなたも元気でね、さようなら」
そう言って彼女は二度と現れなかった。
俺は偶然メイドが話していることを聞き、学園という場所に行けば彼女に会えるかもしれないということが分かった、そこからというもの剣や魔術を学び、必死になって学園に入れるように努力をした、その過程で妹とも仲良くなり、一緒に切磋琢磨と努力をした、そして十三歳の春、入学できたのであった。
俺は妹と一緒に彼女を探し、見つけれたのであった。
一目見て彼女だと分かった、俺は胸の高鳴りのままに声をかけるのであった。
「アーシャ!久しぶり!会いたかったよ!」
「え?えっと…誰ですか?」
「分からないかい?僕だよ!ノアールだよ!」
「え…どうしてここに居るの…?」
「え?君に会いたかったから頑張って入学したんだ!」
「…きもちわる…」
彼女は嫌悪感を滲ませる表情でそう小声でいう、突然のことに俺は一瞬思考が止まり、その言葉が反芻する。
「ぇ…どういう、こと?」
「え、あ…ご、ごめんなさい…もう私に話しかけないでください」
彼女は早足にどこかへと逃げていった、俺はその後ろ姿を呆然と見送る事しかできなかったのであった。
その後、俺は親に見放されている状態のことが周囲の者にバレて、いじめられるようになる、妹ともそのことが原因でここ三ヶ月は会ってすらいない。
貴族の学園は貴族になる資格がない者は蔑まれる、それが当たり前であり、平民から嫌われる理由だ。
そして昨日、彼は腕を斬り、睡眠薬を大量に飲んで自殺をした、その証に遺書と布団には大量の血が付いている。
「はぁ~…どうすっかな~」
俺はとりあえず鏡の前に立つ、そこには腕が血だらけの黒髪黒目の男が立っており、どこか弱々しい雰囲気がある。
「…前の俺にそっくりだな」
たしかこのぐらいの歳までこんな感じで弱々しい見た目だったはずだ、それぐらい前の俺に似ている。
「腕の傷はなぜか治っているし、とりあえず布団を洗うか…」
転生するにあたって神的な者が治したんだろう、ついでにこの世界でも前の世界のように魔術を使えるか試すいい機会だ。
【洗浄】
行けそうだったので続けてもう一つ魔術を発動させる。
【掌握】
「ふむ…体がだるいな、まぁここ最近は身体を鍛えられてなかったようだしな」
目の前には赤黒い砂状になった血が一か所に固め、その血をごみ箱に捨てる、身体がだるいが戦闘には支障はない、まぁ前と比べると大幅に弱くなってるが。
「…図書館に行くか、教室に行ってもろくに学べないだろうしな」
部屋を出て歩き出す、まずは常識について調べるか。
【ゴブリンでも分かる一般常識】
ふざけた題名だが内容は俺にとってはありがたいもので庶民から貴族の常識が載っている、偏見もなく広く浅くというもので事実を乗せている感じの本だ。
「所々にいるこのデフォルメされたゴブリンはなんなんだ…」
そんなこんなでひと通り読み終え、次は魔術や剣術について調べる、なんと驚くべきことが本当かは分からないが記載されていた。
「…魔術とは創造と精神力で決まる、か…」
まだ二回しか魔術を使っていないので分からないが世界が違うので可能性としてはあるだろうな。
「これが本当であったら俺はもっと強くなれるかもしれないな…」
前の世界は努力をしても越えられないような壁に何度もぶち当たり、挫けそうになったことは山ほどある、並大抵の努力をしたぐらいでは不可能な場所までこれたのはやはり彼女がいたおかげとしか言えないだろう、それほどまでに彼女の存在は俺の中では大きい。
「……また会いたいな…」
そう呟き、読み終わった本を閉じて図書館を出る、訓練をしようと長い廊下を歩いている最中、奴らに出くわしてしまう。
「お?なんだよ、死んでなかったんかよ」
ニヤニヤと下品な笑顔を浮かべ、寄ってくるそいつら、確かこいつらは俺をいじめている奴らだったな。
「何の用だ?」
「あ?何かっこつけちゃってんすか?昨日まで散々泣いてたくせに」
そいつらは俺を取り囲み、小突こうとするが俺は払いのける。
「何お前?死にたいの?」
「あ、もしかしてキャラ変えたつもり?だっさ!」
ギャハハハハハ!と笑いが起こり、ひとしきり笑った後そのうちの一人が真顔になって脅しをかける。
「生意気言ってると殺すぞ!!あぁ!?」
それを冷めた目で見ながら、ノアールの知識でたまたま授業で習っていたことを思い出す。
「そうか、知っているか?合法的に人を学園内で傷づけられる法があるんだ」
「あぁ?急に何言ってんだ?」
「決闘だ、内容はお前らと俺が戦闘不能になるまで戦うことだ」
「はぁ?急に何言ってんの?頭湧いてんじゃね?」
俺はそいつらを押しのけ、記憶を頼りに走り出す、近くに生徒会室があったはずだ、決闘や行事を担当しているものだったはず。
「あ?ちょ、待て!?」
俺はそのまま走り抜け、無事に生徒会室にたどり着く、いったん立ち止まり、扉を開け、こう言い放つ。
「決闘の申請に来た!」
ちょうど会議中だったようで何やら話し込んでいたようで、急に入ってきて迷惑そうな顔をする者も居れば驚いた表情をする者もいる。
「急に何なんだ!…はぁ、で何を賭けるんだ?」
「人生、俺と今から来る奴らのだ」
俺の後ろからドタドタと走って部屋に入ってくる奴ら、入ってきてようやくここがどこなのか気付いたのか顔を青くさせる。
「てめぇ!急に…あ…」
そいつらは急に縮こまり、黙り始める。
「はぁ…喧嘩したからといって決闘するものではないぞ、却下だ」
(む?なぜそうなるんだ?)
「そ、そうなんですよ…ちょっと喧嘩しちゃって…ははッ…」
「俺は本気だが……ふむ」
どう説得するか…
「単純に決闘の立会人を求めているだけだ、無理なら勝手に人目のつかない場所でやらせてもらう」
「はぁ~…そんなことしたら退学になるぞ、構わないのか?」
「少なくとも俺は本気だ、それぐらいで済むのなら喜んでやろう」
「…フィオナ、行ってやれ」
「…分かった、後でパフェ奢ってね」
その女子生徒はめんどくさそうに早足に生徒会室を出る、俺はその後を付いていき、ボソッとそいつらに囁く。
「逃げるなよ?」
「~~ッ!」
そいつらは顔を赤くして俺の後を黙ってついてくる、その目は完全に怒りに染まりきった。