とある騎士の一生
「終わったか…?」
こうなることは分かっていた、死ぬのは確定していることだと。
それでも俺はこの戦いから逃げることは決してしなかっただろう、何故ならば魔王様の、魔族の想いは裏切るわけにはいかないからだ。
「俺…は、陛下、の…騎士、ロア…負け、てはなら、ぬ…死ぬ、訳に、はいかぬ…ッ」
とうに聴覚や視覚は失われ、それでも魔力を張り巡らせ、無理やり身体を動かし奴らと戦っていた。
「動、け…奴、らを倒すのだ…動、け…」
しかし身体は動かない、当たり前だ、片腕は千切れ、両足は骨が見え、腹には風穴が空いている状態だ、これで先程まで動けていた時点で並の精神力ではすでに死んでいたであろう。
ヒュー、ヒューと呼吸をする音とうわ言のように呟く騎士の声だけが響いておりじりじりと勇者達は詰めよる。
「流石にもう動けないようね…とどめを刺しましょう」
「あ、ああ……可哀そうだな…魔王に騙されて…」
「あぁそうだな…せめてもののその魂は安らかに眠れ」
ザシュッ!
そうして騎士ロアは誓った約束も、守りたいものも何一つ守れず、その生涯に幕を閉じ……たはずだった
「ッ…?」
俺は意識を取り戻す、あそこで確実に死んだはずの俺は困惑しながらも目を開ける。
「なッ…ど、どうしてお前達が…」
そこに居たのはかつて凄惨な最期を迎えたかけがえのない仲間達であった、その誰もが穏やかな顔をしておりよく見なくとも透けているのがわかる。
『来たか…ロア、今までよく頑張ったな』
穏やかな笑顔だがその微笑みには少しだけ悲しみが込められている。
「…ここはどこだ?」
『死後の世界よ、あなたが魔王様の後に死ぬなんて驚きだわ』
「そう、か…すまない…陛下を、彼女を護れなかった…」
俺は溢れそうになる涙を我慢する、こんな情けない自分を出迎えてくれるとは思わなかったからだ。
『ふっ、馬鹿ね…それを言ったら私達だって魔王様を守れなかったわ』
そう言って彼女は自虐的な微笑を浮かべる。
『そうじゃ、こういう時は何て言うんじゃったか…』
『連帯責任だ、爺さん』
『おお!そうじゃったの』
「俺を…赦してくれるのか…?」
まさかこんなふうに出迎えてくれるとは思わず、俺は思わず聞いてしまう、若干の恐怖を持ちながら。
『何当たり前の事言ってんの?魔王様も私達を褒めてくれたわよ?みんな精一杯頑張った、だから誰も悪くないし赦す赦さないの話ではないわ』
「そう、か…そう…そうだよなぁ…」
俺は真っ白な天井を見やで、涙を流す、彼らだってどうしようもない悔しくて、やるせない思いを飲み込んでいるのだ、俺が飲み込まないでどうするのだ。
「俺は…俺はッ、せめて、せめて奴らを!あの化け物共を殺したかった!でもッ、でも身体が動かなくてッ…それでもッ!それでも!死んだ同胞たちと彼女の為にも必死に、必死に戦ったんだッ!」
しかしそれでも気持ちは止まらない、この短い時間で飲み込めるわけない、この熱き煮えたぎる感情を冷めさせることは出来ない。
「だけど…無理だったんだ…あの化け物共を殺せれなかった…」
『ロア、大丈夫よ、誰も貴方を責めないわ』
『そうじゃ、お主はよく頑張った』
『その思いは決して無駄にはなっていない、だから安心しろ』
「すまなかった…ッ、すま…な、い……あぁ、ああぁぁぁああぁああぁあぁぁぁぁッッ!!!」
俺は声を上げて泣いた、仲間たちはそんな俺を責めることも無く、優しく包み込んでくれたのであった。
仲間達は俺が泣き止むまで黙って待っててくれており、俺は謝りながらこれからどうなるかを聞いた。
『構わん、当たり前の事じゃ』
『気にするな、お前はよく頑張った』
『よく頑張ったわね、ロア…あなたには新たな人生が待っているわ』
「新たな人生?どういうことだ?」
俺は困惑する、ここで終われると思っていたからだ。
『そうよ、あなたと魔王様は異世界に転生することになっているわ』
俺はその言葉にピクリと反応する、まさか彼女も転生することになっているとは思わなかったからだ。
「俺は…彼女に…魔王様にまた会えるのか?」
『そうよ、先に魔王様は異世界に行ってるわ、あなたも早くいってあげなさいな』
「そう、か……俺はまた頑張らないといけないんだな…」
俺は苦笑しながら頭をかく、仲間達は生き返らないでも最愛の人とはやり直せるのだが仲間達の事を思うとどこか申し訳ない気持ちが湧いてくる。
「すまない、またお前達とは一緒に戦えないみたいだな」
『気にすることはないわ、これで私達と会えるのは最後になるかもしれない、けどあなたは精一杯生き抜いてその命を燃やし尽くしなさい』
『ロア、今度こそは守り抜けよ』
『たまにはわしらの事を思い出してくれると嬉しいぞ』
「当たり前―?―」
その時俺の身体が淡い光に覆われ始めた、それは指先から侵蝕してきており、手を振っても離れない。
『…そろそろ時間のようね、その光は転生させるためのだから害はないわ』
「…さよなら、だな」
俺は仲間達を見やる、面倒を見てくれたアンダー爺さん、厳しくも時間が空けばいつも修行の相手をしてくれたバルト兄さん、最後に俺が挫折をしていた時に立ち直らせてくれたエマ姉さん。
彼らは本当に、本当に大切な仲間達だ。
「アンダー爺さん、バルト兄さん、エマ姉さん…今までありがとう、そしてさようなら」
『ッ…あぁ頑張れよ』
『…必ず幸せになるのじゃぞ』
『ロア、魔王様と幸せになりなさい、彼女もそれを望んでいるわ』
「あぁ…ッ!必ず幸せになってみせる!今度こそは守り抜くために」
そして光は全身を包み込み、意識が暗転する、どことない安らぎの中で。
ロアが転生した後にて
『行ったか…』
『これで本当に良かったのかしら…』
『どうじゃろうな…』
彼らは不安げな表情で話をする、何か思うところがあるようだ。
『ロアがあの狂気を受け止めれればいいのじゃがな…』
『…彼が間違わなければ大丈夫なはずよ』
『それは…どうだろうな』
彼は知らない、知りようもない、魔王の血筋…いや、ロード家の者は愛した者の為にどんなに不可能な事でも実現させようとするだろう、その愛によって。