強い奴、探してます
読んでいただけたら嬉しいです。
サムライとの別れから二年、ハルトは十二歳になった。
仕事は増えたが、相変わらず数秒で終わる為、空いた時間で人助けをする事にした。
いや、人助けというよりは野盗狩りと言うべきか。
「つまらないな」
ハルトのいる地域は、国の外れという事もあり、野盗に落ちた逃亡兵が多く、治安が良くない。
その為、ちょっと遠くまで歩いてみれば名前も知らない村が襲われている事はしょっちゅうある。
だから、村を守るという建前のある戦いをする事はそんなに難しくないのだ。
だが、そうする事で分かったのは、アラヤがかなり強い部類の人間であるという事だけだった。
「だ、誰だお前は・・・」
「言う必要ある?ねえ、そこの人、後は任せても良い?」
「あ、ああ、ありがとう!」
今日も今日とて、襲われていた村を助けたが、十人ほどの野盗達はまるで手応えが無く、準備運動にすらならない。
どうにかして、もっと強い奴と戦えないものだろうか。
家に帰り、家族とご飯を食べながら、ハルトは頭を悩ませていた。
*
一晩ぐっすり寝て、起きた瞬間、ハルトは思いついた。
強い奴が居なければ作れば良いのだと。
「よし、今日はお兄ちゃんと遊ぼう?」
「友達と遊ぶからやだ」
残念ながら、修行ばかりの五年間で二歳年下の妹との関係は冷え切ってしまったようだった。
強い奴制作計画は失敗である。
やはり、強い奴を探すしか無いのだろうか。
*
その後、何度か遠出をしてみたが、この辺りの野盗は粗方倒してしまったのか、誰とも戦う事が出来なくなってしまった。
仕方なく、ハルトは残されたアラヤの本を読む事にした。
本にはサムライの戦い方だけでなく、『刀』の作り方、食事、礼儀作法など、様々な事が書いてあった。
『己が魂を預けられる主君を持つ事はサムライの誇りである』
特に気になったのはこの一文であった。
主君、要するに騎士が仕える王様みたいなものだろうか。
どうにも誰かに従う自分というのは想像できない。
結局、本自体はすぐに読み終わってしまった。
やる事もなく、庭で瞑想していると、遠くから馬の足音が聞こえてきた。
音的に馬車では無く、乗馬のようだ。それもかなりの手練れ。
この辺りで乗馬術をここまで極めている者など居ない。
という事は、国の首都付近、もしくは首都からの来訪者だろうか。
ハルトが音の正体を推測していると、馬がどんどん近づいてくる。
どういう事だと思い、目を開けてみると、家の目の前で黒鹿毛の馬が止まっていた。
「そこの少年、ハルトだな?」
馬上の騎士は何故か、ハルトの名前と顔を知っているらしい。
ハルトの訝しげな視線に気付いたのか、騎士が馬から降りる。
「いきなりすまない、私はブランド・レッザウール。アステール国王に仕える騎士だ」
「騎士・・・」
「ああ、今回、私は国王様からの命令でこの辺りの治安改善に協力してくれた者に会いにきたのだ。周辺の村に尋ねたら、君の名前と似顔絵を渡してくれてね」
そう言ってブランドが手渡してきたのは、長い黒髪を後ろで纏めた女顔の少年、すなわちハルトの人相描きであった。
「しかし・・・失礼だが、俄には信じ難いな。本当に君一人で野盗を?」
「・・・試してみる?」
木刀を構えようとしたハルトにブランドは、首を振る。
「いや、私が剣を向けるのは王国の敵のみ。守るべき民に向ける刃は持ち合わせていない」
「あっそ」
「本題に入らせて貰うが、君に王国まで来てもらいたい。国王様が恩赦を与えたいと言っているのだ」
正直、めんどくさいというのがハルトの感想であったが、王国に行きたいという気持ちもあるのは確かだ。
こんな田舎で戦っていても、アラヤのような強い奴には出会えない。王国ならば、騎士を始めとした強い奴に会えるかも知れない。
という事で、ハルトは王国まで着いていくことを決めた。