プロローグ:あくびをしたら
久しぶりの投稿です。
楽しんでもらえたら幸いです
『バタフライ・エフェクト』という言葉を知っているだろうか?
バタフライ効果ともいう。
どっかの学者のやった講演の演題「ブラジルでの蝶のはばたきがテキサスに竜巻を引き起こすか」ってのに由来するらしい。
物理学的には、なんか細かい意味があるらしいが、残念ながら凡人には、説明されても理解できないだろう。
ナントカ理論だの、ウンタラ可能性だの、チンプンカンプンもいいところだ。
凡人の間では一般的に『些細な出来事が、まったく関係ない大きな出来事に影響する』みたいな意味で使うことが多いだろうか。
似たような言葉に『風が吹けば桶屋が儲かる』というものがある。日本人的には、こっちの方が馴染み深いかもしれない。
ちなみに、この諺のストーリーってのは――。
(1) 風が吹き砂埃が舞う。
(2) 砂埃を受けた人が盲目になり、三味線を生業にする。
(3) 三味線に必要な皮を目当てに猫が乱獲され、ネズミが増える。
(4) 増えたネズミが桶を齧り、桶の消費量が増えるため、桶屋が儲かる。
ということらしい。なんやねんそれ。
それはともかく、この『バタフライ・エフェクト』のようなことが現実に起こったら――例えば、不意にしてしまった欠伸一つで、とある男女の人生を大きく変えてしまったら?
☆☆☆
「よって、作者の心情は――」
緑色のくせに、なぜか黒を自称していることでお馴染みの黒板から発せられるコンコンという音が、飛歩高校二年生の教室に響く。
白色チョークで作者の心情を書いているのは、うちのクラスの担任と国語担当を兼ねている熊谷先生である。
そんなの作者しか分からんだろ、という国語弱者の定番のツッコミを心の中でぼやきつつ、俺――瀬川智明はボーっと黒板を眺めていた。
一応ノートは取っているが、授業内容は頭に一切入ってこない。
現在は六時間目。一日の疲れが溜まっていた。
ついでに言うと、窓際最後列という所謂主人公席に座っている俺は、横からの太陽の光と、上からの蛍光灯の光、正面の熊谷先生の光り輝く頭という、xyz軸全く隙のない光を受けて、すっかりお眠な状態だった。
しかし、俺は寝たりはしない。それどころか、欠伸すら我慢していた。
熊谷先生は、成績が悪くとも何も言わないが、授業に集中していないことに関しては、めっぽう厳しい。
欠伸でもしようものなら、あとでどんな罰を貰うか分からない。
だから、見てくれだけでも、集中してなければいけないのだ。
しかし、今日はいつもよりも数倍眠たい。実は、振替だかなんだかで、五時間目に体育があったのだ。
体育のあとの国語がどれだけ地獄なのかは、全人類が分かるはずだ。
隣の席に座る優等生の彼女――有岡愛菜も、今日ばかりは眠そうだ。
話したことはほとんどないが、有名人なので、彼女のことは少し知っている。
成績優秀スポーツ万能、その上、顔も整っていて性格もいいと来た。なんだそれ。漫画のキャラか?
そんなわけで、それはそれはモテるという。
彼女に視線を送る暇があるなら、スーパーのタイムセールの情報を手に入れたい俺であるが、そんな俺でも数回ほど、男子に呼び出されているのを見たことがある。
漫画のように、毎日呼び出さているわけではないと思うが、現実的に考えると、それでも普通に頭おかしい。
まあつまり、そんな有岡さんですら眠くて仕方ないほど、ここは地獄ということだ。
☆☆☆
やべぇ、マジで眠い。
俺は頑張ってる。めっちゃ頑張ってる。
眠い頭を必死に動かし、欠伸は上唇を舐めると止まることを思い出した俺は、上唇をペロペロしながら、なんとか危機を乗り越えてきたのだ。
授業はあとどのくらいだろうかと、時計を見た。授業は45分経過していた。授業時間は50分。
よしっ! あと5分だ!
やったぞ! 俺は乗り切ったんだ!
……5分。そう、まだ5分あるにも関わらず、俺は気を緩めてしまった。
その瞬間、身体から込み上げてくるものがあった。
まずっ!
そう思ったことにはもう手遅れ。
「ふぁぁああ」
やってしまった。
さらに最悪なことが二つあった。
一つは熊谷先生が、ちょうどそのタイミングで、こちらに振り向いてしまい、バッチリ見られたこと。
そしてもう一つは――
「はぁぁ」
俺の欠伸がうつってしまったのか、隣に座る有岡愛菜が、同時に欠伸をしてしまったということだ。
次話もすぐ投稿します~