【短編】高校には風紀委員など存在しない(旧:実際の高校には存在しないもの)
「屋上って鍵締まってて入れないよな」
クラスで仲良くなった大神くんが言った。
高校に入学して、入学式が昨日で実質的な高校生活の1日目が今日。昼休みに教室で一緒に昼食を食べながら話していた。そういった意味では、俺はボッチにならずに済んだらしい。
教室を見渡すけど、ボッチ飯のヤツはいないらしい。やっぱり、ラノベでよく出てくる「ボッチ主人公」は実際にはあまりいないみたいだ。同時に、「大神くん」という一緒に昼食を食べる友だちができた俺は「ラノベ主人公」ではなかったらしい。
本当は食堂を利用してみるつもりだったが、意外に多かったのと大神くんに誘われたこともあって急遽、購買のパンに切り替えた。俺はパンの包装を破って1個目の総菜パンを食べ始めた。ちなみに、飲み物は紙パックのカフェオレ。
「俺も朝、校門に風紀委員がいると思って期待したけど、そもそも風紀委員が存在してなかった……」
「それな!西くんもそれに期待してたのか」
西とは俺のこと、西悠真が俺の名前だ。美人の先輩風紀員がネクタイの緩みとかを指摘すると期待していた。初日から服装の乱れを注意されて、何故か女子だけの風紀委員に勧誘されるところまで想像していたのに……
「学校中をシメている番長もいなかった」
「まあ、この学校にはヤンキー的な人もいなさそうだったな。その点は良かった」
「購買はあるけど、昼休みのパンの争奪戦はないみたいだな。さっき普通に買えたし」
「まあ、パンなら普通にスーパーかコンビニで買ってくるだろうしな」
見渡せばクラスの2割程度しか食堂は使っていないようだ。ほとんどが教室で持参の弁当を食べているか、コンビニやスーパーで買ったパンなどを食べている人も多い。
俺も大神くんもさっき購買でパンを買ってきた。
「授業中、寝てるやつはいたな。あの……竹中だっけ?あいつ」
まだクラスメイトの名前を覚えきれてない。何か特徴があるやつから覚えてしまう感じだ。
「授業中寝ててもチョークは飛んでこなかった」
「確かに。それは薄々感じていた」
「まあ、普通に体罰になるんだろうな」
「年間スケジュールを見たけど『林間学校』がなかったぞ」
「そうなの?みんなでカレーを作るイベントはなしか」
「山の中で美人のクラスメイトと一緒に迷子になるイベントもなしだな」
「美人で寡黙な女子のクラスメイトがいるなら見てみたかった」
山の中にキャンプに行くと考えると面倒だが、ないとなると行きたくなるから不思議だ。
「学校内にプールがないな。当然授業もなかった」
「そうなのか?中学にはあったけどな」
「さっき調べたら、高校はプールは必須じゃないらしい」
「女子の水着を見るイベントもないのか」
「教室に女子はいるけど、学校中に名前が轟く様な美少女はいないみたいだな」
「そうなのか?」
「美人生徒会長もいなかった」
「メガネの真面目くんでもなかったな。普通過ぎて生徒会長の顔を覚えてすらいない」
「隣のクラスにやたら可愛いやつはいたけど」
「ちょっと隣のクラス行ってくる」
「やめとけ。隣のクラスとか入りにくいだろ」
「それもそうだな」
「女子と言えば、下駄箱はフタがなかったな。あれだとラブレターも入れられないな」
「まあ、普通に防犯上とか、衛生上、扉がついてないだろうな」
「入学式では美人でお色気たっぷりの理事長もいなかった」
「それも想像上の生き物だな。鵺とかドラゴンとかと同じだな」
「鵺ってどんな生き物だよ。西くん面白いヤツだな」
なんか褒められてしまった。鵺とかドラゴンは想像上の生き物。みんなその存在は知っているけど、実際には存在しない。エルフとかもこれに入るだろうなぁ。
俺は、2つ目のパンの包装を開け、2個目のパンに取り掛かった。ちなみに、アップルパイ。これはパンの部類でいいのだろうか。
なんとなくスマホを取り出すと、LINEにメッセージが届いていた。俺はここで大きな失敗をしたことに気が付いた。高校生活実質初日という事で友だち作りに意識が行き過ぎていたようだ。急いで返事を書いて送り返した。
「LINE?」
「あぁ、そう。ちょっとね」
「アカウント教えてよ」
「もちろん」
大神くんのアカウントゲット。後で自慢しよう。
「そういえば、図書室にはラノベがあるらしいぜ」
「マジか!?ラインナップは確認しておきたいな」
教室の後ろのドアが開いたのが視界に入った。アニメみたいに「ガラッ」とは言わない。普通に「スー」っと開いた。当然、ドアには黒板消しも挟まっていない。
「めちゃくちゃ可愛い幼馴染のクラスメイトも存在しないよな」
「それに関しては……」
「あ!いた!酷くない!?食堂で食べるって約束したよね!?」
さっき開いた扉から入ってきた人物が俺の顔を見つけると一直線にこちらに向かってきた。
「ごめんごめん」
「西くん……その人……」
大神くんが、いま入ってきた人物を震える指で指さしながら言った。
その人物とは俺たちの机のすぐ横にパンとパックの飲み物を持った一人の女生徒。教室がちょっとザワザワしている。特に男子。まあ、彼女はかなり容姿的に恵まれているから……簡単に言うとかなり可愛いからなぁ。
「あ、友だち?」
「うん、大神くん。食堂多かったから購買を案内してくれた」
「あ、ども、大神です……」
俺の紹介で、大神くんがなんとか名乗った感じ。
「こっちは紬莉子。『めちゃくちゃ可愛い幼馴染』です」
手で彼女の方を指し示しながら答えた。
「『彼女です』は?」
「あ、彼女です」
莉子が不満そうに言ったので、つい反射的に従ってしまった。
「悠真、予定は変えてもいいけど、連絡してよ。一緒に食べるって約束したでしょ?」
「ごめんごめん。食堂が思ったより人が多かった」
「そうね。明日から私はお弁当にするけど、悠真の分もいる?」
「え?作ってくれるの?」
「1個作るのも、2個作るのも手間は同じよ」
「じゃあ、よろしくお願いします」
「ちょっと椅子半分貸して」
莉子が俺を押しのけ、座っている椅子の横に半分お尻をねじ込んで座ってきた。1つの椅子に2人座っている状態。
「クラスの子の誘い断っちゃったから今日はここで食べさせて」
「まあ、いいけど……」
「あ、大神くんもごめんね」
「あ、いえ……」
莉子が両手を合わせてウインクの上、舌をちょっと出して可愛くお願いした。大神くん顔が真っ赤だ。どうしたんだろう。
「それが、今朝、俺が見た隣のクラスのめちゃめちゃ可愛い子だよ……」
大神くんがぽつりと言った。
「ん?何の話してたの?」
「西くんは『鵺』って話」
「「ん?」」
翌日から何故か大神くんが一緒に昼食を取ってくれなくなった。しょうがないので莉子と莉子が作ってくれた弁当を食べることにしたのだった。