第3話 TS美少女錬金術師と変態ロリコン女騎士と疫病
※本作品にはTS(性転換)表現があります。苦手な方はご注意下さい。
――――オレは外面は美少女だが、中身は男だぞ?
美少女錬金術師に一目惚れして告白した私はそんな彼女、シェリーの口から出た衝撃発言にしばし呆然としていた。
「このボディは不老不死研究の際にできた副産物でだな。魂を移す器として人類の最適型として理想の美少女を形どった人形を作り、オレはそれに自分の魂を――」
この時シェリーは今の美少女の身体について何やら説明してくれたようだったが、私には半分も理解できなかった。
理解できないなりに私は答えた。
「えーっと、つまり外見と中身の性別が違うというわけ?」
「そうだ」
「でも私は外見が美少女なら構わないよ。美しいものは男女問わず私は好きだからね」
「――――へぇ。アンタんとこの宗教は小児性愛や同性愛を禁じていたと思うがな」
「仕事と趣味は分けるんだ、私は」
それを聞くとニヤリとシェリーは声を上げて笑いだした。
「狂信者の国の一番偉い聖騎士が、信仰は仕事ときたか! そのうえ自分の趣味のために背信するだと!?」
くっくっくとシェリーはおかしくてたまらないといった風に笑いを噛み殺す。
「ならいいぜ。交渉成立だ」
シェリーが右手を差し出した。
「オレはまだこの街を出るわけにはいかない。だから、オレを匿ってくれるっていうならオレをお前の好きにしていいぜ。この完璧なボディを傷付けない限り……な」
私は彼女の手を握り返した。
小さくて柔らかい美少女の手は、私の無骨な騎士の手とは正反対だ。
「うん! わかった! 君を傷付けることは決してしないよ。でも、その口調はどうにかならないか? せっかくの美少女なんんだからせめて女の子らしくしないと」
「それは契約に含まれてねーよ」
シェリーはからからと少年のように悪戯っぽく笑った。
「いや懐かしいなぁ。あの時シェリーと出会ったことで、私は真に神の存在を認めてもいいと思ったよ」
「さもいい話みたいに浸ってんじゃねーよ! オレはそれから1年近くお前の被虐趣味に付き合わされてるんだぞ!」
「でもちゃんと約束通り君を傷付けていないだろう?」
「自分を傷付けてなんて言われると思わないだろ普通! 錬金術師をペテンにかけるとはいい度胸じゃねぇか。クソッ、なんであの時のオレは『面白い女だ』なんて思っちまったんだ。ただの変態ロリコン女じゃねーかちくしょう!」
「うんうん。今日もシェリーは可愛いな」
そんな風に今日も元気なシェリーに見送られ(物を投げられ)ながら私は聖騎士長の仕事へと赴いた。
シェリーは今日もきっと引きこもって錬金術の研究だろう。
毎日なにの研究をしているのか知らないが、飽きないのだろうか?
――――穏やかな私の気持ちに反し、この日の仕事は重いものだった。
1年前に終結したと思われたかの悪名高い疫病と同じような症状で死んだ人間が出たのだ。
現時点ではそれは疑いでしかなく、その死者の亡骸は丁重に葬り遺族にはしばらく外出を控えるように伝えた。
部下たちは口々に不安な声を上げた。
「聖騎士長、これはまさかあの疫病がまた……?」
「もしかして今日死体を見に来た私達も既に……」
「やめろ! もうあの疫病は終わったんだ! もう二度とあんな惨劇を見たくはない」
「あの特効薬を作ってくれた錬金術師は指名手配されて国外に逃げてしまっているに違いない」
私は部下たちの言葉を遮るように言い放った。
「とにかく今日のところは様子見だ。各自、民衆の不安を煽るようないらぬ噂を立てるような真似は控えるように。解散」
暗い顔で部下たちが解散していくのを見送って、私は自室に向けて踵を返した。
「――そうか。やはり出たか」
私の話を聞いてシェリーは動揺するでもなくまるで何かに納得でもしたかのように答えた。
「まさか、あの疫病が再び蔓延するというのか!?」
「そうとも。あれだけ国中に蔓延したんだ。目に見える感染者が一時的に減っただけなんだよ」
まったく慌てる素振りも見せず、シェリーは私に背中を向けて錬金術の研究器具を傾けている。
「本当なら完全に疫病が根絶されるまで対処を続けなければならなかったんだが、フェリのところの枢機卿に魔女認定されてしまっただろう? 指名手配されながら細やかな感染対策なんてできるわけもなくてな。こうして変異種の再蔓延を許してしまったわけだ」
「…………」
いらいらする。
シェリーはこの事態を予測していたという。
私は彼女の言葉の半分も理解できないが、事の深刻さは彼女が一番わかっているはずだ。
にも関わらず彼女は今もこうしてまるで普段の何気ないやり取りかのように、私の話を話半分に聞きながら錬金術の研究をしている。
「たしかに我々レミリア聖国教会がシェリーの足を引っ張ったのは認める。けれど、だからといって君は罪もないこの国の人々を見捨てるというのか?」
怒気を孕んだ私の声をシェリーはため息一つで受け流し、彼女はくるりと振り返った。
「はぁ……誰もそんなことは言っていないだろ」
彼女の手には透明な液体の溜まったガラス瓶が握られていた。
「一年近くかかってしまったが……ほら、なんとか間に合ったぞ」
「それは……?」
「疫病の変異種を根絶する薬だ」