第1話 TS美少女錬金術師と変態ロリコン女騎士の日常
※本作品にはTS(性転換)表現があります。苦手な方はご注意下さい。
「――――以上で、今回の信仰遠征を終わらせていただきます」
「ご苦労さまでした。下がって休みなさい、フェリス・フォン・メルゲングリューン聖騎士長」
「はっ――」
枢機卿に深々と頭を垂れ、私は聖堂を後にした。
私を待っていた聖騎士たちがすぐさま私を出迎え、跪いた。
「聖騎士長様! 今後の訓練について――」
「聖騎士長様! 此度の遠征で殉死した聖騎士達の処遇を――」
「聖騎士長様! 度重なる遠征における武勲まことに――」
「聖騎士長様! ご無事でのお帰りを心よりお待ちしており――――」
私は一度に多くの部下たちから捲し立てられて目を白黒させながら答えた。
「あぁ、あぁ。うん。良きに計らってくれ。私はひとまず先に休ませてもらうよ」
そう言うとまた私の労をねぎらう言葉の洪水に押し流されそうになってしまい、私はたまらず足早に逃げ去った。
私の名はフェリス。
レミリア神聖教国の、レミリア聖国教会の、カテリーナ聖騎士団の聖騎士長を任されている。(なんでも聖をつければいいってもんじゃないと私は内心思っている)
私の自室は聖騎士たちが寝泊まりする宿舎の一番奥だ。
古城を改修して宿舎として使っているので各部屋はかなり広く、冬の寒さに目を瞑れば清貧を旨とする聖騎士に不相応なほど非常に快適な住まいである。
さらに私は映えあるカテリーナ聖騎士団の聖騎士長の人を任せられているお陰で、一番奥のだだっぴろい部屋を一人で使わせてもらっている。
もっとも――今その部屋は私一人で使っているわけではないが。
私は自室の扉を開け放ち、引き篭もりの同居人に声をかけた。
「ただいま! マイハニー! お利口にお留守番していただろうか?」
「…………今回の遠征は大変だったみたいだな、フェリ」
私のただいまにおかえりも返さずに、同居人の美少女はうんざりとした顔でそう一言だけ返した。
「聖騎士長サマがそんな甘ったるい言葉を吐くくらいに過酷な遠征だったのか?」
「そうなんだよ! 聞いておくれよ――――!」
私は大切な聖騎士長の鎧を乱雑に脱ぎ捨てて美少女の膝に縋り付く。
ウェーブがかった長い金髪をうざったそうにかき上げながらも、美少女は私の頭に手を置いて撫でてくれた。
この美少女は私が自室に囲っている愛人のようなものだ。少なくとも私はそういうつもりで接している。
名をシェリーというこの美少女は日がな一日私の自室に引き篭もる生活をしている。
それにはちゃんとした理由があるのだが、そもそも理由抜きでシェリーは根っからのインドア派のようである。
何日も引き篭もっていれば少しくらい外に出てみたくなりそうなものだが、ここ数年で彼女が部屋の外に出たいといった発言や素振りは一切聞かないし、見ない。
「――――でさぁ、教区長ったらさぁ」
「はいはい……」
子どものように駄々をこねて、愚痴を言って、甘える私をシェリーは呆れながらも宥めてあやしてくれる。
そうして私はしばらく美少女に甘やかされて私は至福の時間を過ごした――。
夜になった。
夕食の時間が過ぎて、私とシェリーは寝る前の運動の時間となった。
革製品の露出の高い刺激的な格好に鞭を持った出で立ちのシェリーが心底うんざりした表情でぼやく。
「今夜もやるのか……? オレは研究で忙しいんだが」
それに対して私は下着だけを身にまとった姿で自分から磔台に拘束されている。
因みにこの磔台もシェリーが持っている鞭も、私が拷問室から無断で拝借してきたものだ。
「何を言っている。これもあなたを匿ってあげる条件に含まれていたはずだろう?」
「確かにそうだがな。しかし……何度も言っているかもしれないが。誉れ高き聖騎士長サマともあろうお方が自分よりも年下の美少女に鞭打たれるのがシュミだと知られたらどうなるだろうか?」
「あれ? もう言葉責め始めてるのか?」
「――事実を言っただけだ」
冷たい口調でそう答えたシェリーは何の前降りもなく鞭を私に振り下ろした。
「ああーー!」
昂ぶった私の声を聞いてシェリーは矢継ぎ早に鞭を振るいながら呆れたように言った。
「被虐・加虐趣味の何が良いんだか。相変わらず変態騎士サマの考えることはわからん」
「だが……自分立場を危険にさらしてまで、教会から指名手配されているオレを匿ったうえに養ってくれているのだから。少しくらいは騎士サマのシュミに付き合ってやらねぇと、な――!」
「ああーーーー!」
美少女との甘美で退廃的な夜は更けていった。
次の日の朝。
何事もなかったかのように私はスッキリした心持ちで目覚めた。
「ん、んん! じゃあ今日も仕事にいってきます。シェリー、いい子にしているんですよ!」
「あぁ、はいはい。気をつけてなフェリ」
美少女に見送られ、私は晴れやかな気持ちで仕事に向かった。
そして帰ったときはまた美少女に出迎えられ、夜は過激に燃え上がる――――。
聖騎士としての倫理観や宗教観からすべて目を背ければ、今の私の生活はこのように完璧に満ち足りていた。
こんな生活がずっと続けばいいのにと神様に祈ってしまうほどに。