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第43話【まだ慌てる時間じゃない】

 面を外した矢野は、付け人の新浦とともに徳田の話を聞き、俺たちの方に来る。ちくしょう、ここで慰める手腕に俺の次期キャプテンとしての力量が試される。ちくしょう、何を言えばいいんだ。


「やっと団体に専念できるな」


 最初の一声がそれだった。


「お疲れ様です。内容的に完全にこっちの勝ちでしたし、あれは先輩の一本でしたよ。どうか気を落とさないように」


「いや、落ち込んでねえよ」


「時間内に決めるっていう制約で最高の展開をやってましたし」


「矢野の話を聞けよ」


 こともあろうに新浦から小突かれて口を止めた。なんだよ、簡単に手を出すのは矢野の専売特許なんだぞ。


「いや、クソ審判で見ててこっちが腹立ってきましたよ。なら当の本人はって…」


「それがそこまでキレてないんだな」


 強がりでない平素の落ち着いた表情で矢野は言う。


「今のはそこそこ削られた。勝ってもこんな感じで、短期決戦なのに体力すり減らさなきゃならんだろ。このままじゃ団体とどっちもダメになる」


 そしてこう結論付けた。


「全部ひっくるめて、俺の実力だ」


 本人がここまで念押ししてくるんだ。俺が口を挟んでも気持ちのいいものじゃないだろう。逆に他人のことを考えすぎなのかもしれない。矢野がこう言っている以上、自分も団体に向けて気持ちを入れなければ失礼だ。


 それにしても、内海が真っ向から対面されて苦しんでいる姿は、今まで見たことがなかった。ほとんどの相手は地力では敵わないとふんで、内海の構えの横から入ってかわすような試合展開をしていき、その作戦を取ったものは原則として返り討ちをくらい、例外としてごくまれにポコッと当て逃げをするかもしれない、という程度のものだった。


 その内海を相手に、真っ直ぐに構え合って勝負を仕掛けるという発想自体が少ないところで、矢野のこの大立ち回り。これは、いいものを見れたのかもしれない。内海対策に新たな活路を見出せた。




 さて、矢野も後顧の憂いなく臨める男子団体準々決勝戦。お手合わせを願うのは岡山の吉備学園大高校。中国大会優勝校相手に俺たちはどこまで戦えるのか。

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